1.在宅医療の発展とその負の側面
いつから在宅医療の推進がここまで強く叫ばれるようになったのでしょうか? 15 年前に私が家庭医として働きはじめた頃,在宅医療をもちろん実施していましたが,それは特別なものではなく,外来に通えなくなった患者さんからの要望に応える形で自然に提供する日常診療の一部でした.時間あたりに診療できる患者数は限られますので,外来診療に比べると診療報酬の面で効率的とは言えないのはもちろんでしたが,お金に関係なく,継続的なケアを基盤とする家庭医としては当然提供すべき医療という考え方でした
しかし,2006 年頃より在宅医療の推進が重点的な医療政策として掲げられ,2 年ごとの診療報酬の改定では在宅医療に対する報酬がどんどん上がるようになりました.
(中略)
この政策はある程度奏功して,在宅医療を積極的に担う医療機関は都市部を中心に増えてきています.ただ,一部では在宅医療のみを専門的に展開する医療機関が,土地や建物,医療機器を必要とする一般診療所と異なって最小限の設備投資で高い収益が得られるモデルということで,もてはやされるようにもなりました.そこではややもすると外来からの継続性や患者さんや家族全体を捉える全人的なケアよりも,診療の効率性が重視される傾向があります.その一方で,患者数が少なく,診療報酬上のメリットも少ない地方や郡部では,在宅医療の普及はまだまだ遅れており,むしろ診療報酬の増加に伴い患者さんの自己負担も増えたことで敬遠されるケースもめずらしくありません.診療報酬で医療システムを変えようとするときの一種の歪みと言ってよいでしょう.
2.あるべき在宅医療への回帰
それでは在宅医療を推進するにあたり,これまで欠けていた視点は何なのでしょうか? それは,在宅医療を専門的分野と捉えるのではなく,プライマリ・ケアを形づくる1つの診療場面として捉える視点です.現在,わが国では総合診療専門医制度の創設が決まり,総合診療つまりプライマリ・ケア領域を1つの専門分野として認識し,それを担う医師の養成を推進することとなりました.早ければ,2017 年には専門教育が始まり,2020 年には第一号の総合診療専門医が誕生します.遅れていた日本のプライマリ・ケアも,総合診療専門医を軸にしながら,すでに地域で活躍する実地医家との緊密な連携のなかで,強化されていく流れが生まれつつあります.ですので,在宅医療もこうしたプライマリ・ケアのルネッサンスのなかで,もう一度その原点に立ち返り,重要なプライマリ・ケアの要素として認識される必要があります.
今回の特集では,こうした問題意識を基盤にしながら,総合診療医が担う在宅医療の在り方を多角的に学ぶためのテーマを選びました.
(後略)
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