『各論　風邪へのアプローチ 1．熱だけ型の風邪（高熱型：敗血症を含む）』より抜粋

• 「風邪を診ることができる，ということは，風邪のように見える他の疾患を除外できることである（各論-B-7・山藤稿）」に，激しく同意する!!! 確かに，狭義のウイルス性感冒＝風邪は自然に治る．しかし，数多い“風邪の患者さん”のなかには，見逃したら悪いアウトカムになる危険な疾患の患者さんも存在する．それに気づかない診療を「風邪を診ることができる」といえるであろうか？ 答えはもちろん「否」であろう．本書では，鑑別に挙がる緊急疾患についても実践的な除外方法が満載であり，これが真の意味での「風邪を診ることができる」である．また，髄膜炎などの緊急疾患の治療に関しても，「重症感染症で抗菌薬投与を1 分でも早くしたい疾患に関しては，前もって準備しておくことが投与までの時間の短縮になります」などの実践的なtipsに富んでいる．逆に重症感染症を見逃すのが心配なあまり，感冒患者には不要な抗菌薬を数多く処方することは避けねばならない．効果がなく，副作用を生じ，薬剤耐性菌を生むからだ．ではどうしたらよいのか？ 本書はその良きガイドにもなっている．内容の論旨が科学的に適切なだけでは，筆者の意図は読者の行動が変わるほどには伝わらないかもしれない．が，藤田浩二先生の編集で新進気鋭の執筆者を結集して，内容が適切なだけではなく，若手医師に伝わり，明日から行動が変わるような特集になっている．筆者が「書いた」ことより，読者に「伝わった」ことを重要視する藤田先生らしい．教え子として誇りに思う．
  ただ，正直に言うと『あなたのいつもの診療，見られてますよ』という副題を，私は当初気に入らなかった．誰かに見られていても，見られていなくても，変わらずにやるべきことができるのが本当のプロフェッショナルだからだ．ただ，「ウイルス性感冒に抗菌薬は不要」という事実がわかっていても抗菌薬を処方してしまう医師に伝えるにはこのようにキャッチーなサブタイトルが必要と思い直した．「大工には大工の言葉を使え」だ．また，感冒に処方された抗菌薬も含め，現在の医療費は医療機関から審査支払い機関にデジタルデータで請求される．「あなたのいつもの診療は見られている」わけである．デジタルなので，審査支払い機関にとっては，どの医師が感冒に抗菌薬を処方しているかを知るのはそう難しいことではない．近い将来，薬剤耐性（AMR）対策として，風邪に対して不要な抗菌薬を処方できなくなるかもしれない．そうなったときでも，「不要な抗菌薬の処方」という逃げの一手をとってしまっていた医師も，患者さんを満足・納得・症状緩和させる風邪診療ができれば大丈夫である．そう考えると，深いサブタイトルである．ともかく，短い各章がサクサク読めて実践的な本書は，未来にも通用する風邪診療ができる強力な手助けになる．ぜひ手にとって読んでいただきたい．

  八重樫牧人（亀田総合病院総合内科）

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• 【本書名】Gノート増刊：なめたらアカン風邪診療　あなたのいつもの診療、見られてますよ！
• 【出版社名】羊土社

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