論文を読むというとついつい研究デザインや生物統計学の話に走りがちですが、一番大事なのは臨床経験と研究分野の背景知識です。臨床研究は文字通り臨床をベースにした研究ですから、研究分野の臨床知識が十分にあることが前提です。レジデントの間はそのベースとなる知識が不足しているため、どの論文を見ても「何が大事なのかわからない」となってしまうわけですね(僕も詳しくない領域の研究論文を読めと言われても困ります)。この土台となる基本的な知識がないと、有名な医学誌に掲載されたというだけで論文の結果に自分の診療が振り回される、なんてことも起こりえます。…
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論文の言っていることがわからない,細かいところが気になって進まない,結果をどう解釈したらいいのかわからない.そんな苦労をしている人のために,本書は「どこまで理解して読めばいいのか」の道筋を示します.
率直な感想を申し上げます。
まず
この本は、「ヤバい」です。
正直悔しいです。
その根拠として、自分が苦労して、苦労して、独学で学んできたこと、メンターと頑張ってきたことが、誰にでもわかるレベルで簡単に要点だけ書かれています。
おそろしいCuration技術です。ツイッターなどSNSで端的に勘所をつかんだ表現を駆使できる先生が書かれたのだろうと思います。
また、臨床研究でメインとなるバイアスの問題や、多変量解析の考え方なども、網羅されており素晴らしい本であると思います。
欠点は、この内容のすごさを理解するためには、論文を書いたことがある読者、それで躓いたことがある読者に絞られるかもしれないという点くらいですが、それこそこの本の狙いだと思います。
巷にある類書とは異なるものでした。
以上、率直な忖度なき感想です。
和足孝之(島根大学 総合診療センター)
書籍の対象である「臨床研究論文を読む初心者」向けに「適切」に論文の読み方を説明していると思いました。
生物統計学や疫学の本では細かく説明するところをばっさり削りエッセンスを残しています。
私は、研究デザインやデータ解析のコンサルをしていますが、そこで伝えてきたことの8割ぐらいはこの本でカバーできます!!
佐藤俊太朗(長崎大学病院臨床研究センター)
幅広い読者層に満足を与えうる良著
一般に、一冊の本が幅広い層の読者を満足させることは難しい。なぜなら、読者によってもともと持っている背景知識やリテラシーには大きな差があるからだ。本のテーマによっては、初級・中級・上級といった具合に読者を層別化し、各層向けに分冊化したうえで、記述内容にバリエーションをつけることもある。初級の読者が中級者以上向けの本を読んでも満足は得られない。また、中級以上の読者が初級者向けの本を読んでも、別の意味で満足は得られない。
その点、本書『僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。』は、幅広い層の読者に満足を与えられる可能性がある、という意味で画期的である。本書は主に研修医・専攻医向けとのことであるものの、300ページを超える大書のなかに、指導医クラスの医師にも読んでいただきたい内容を多く含んでいる。
本書の斬新な工夫の一つとして、項目ごとに難易度を★1つから★5つまでに区分している点が挙げられる。初級者はまず★1つの項目のみを拾い読みしてもよいだろう。その後、★3つぐらいまで頑張って読み進めれば、かなりの知識が身につくと思われる。★5つの項目は、おそらく指導医クラスでも十分に理解が及んではいないであろう、レベルの高い内容を含んでいる。
本書の最も出色の部分は、「メソッドを読む:発展編」ではなかろうか。ほとんどの項目が★3つ以上であるこの単元は、臨床研究論文を読みこなすうえで役に立つ研究デザインや統計解析の知識が盛り込まれている。
著者は本書の随所で、読者のレベルに合わせて「とりあえずこの程度知っておけばよい」「これぐらいまで論文を理解できればよい」といった、いわば力の入れ加減を示している。忙しい日常臨床をこなしながら時間制約のなかで論文を読まなければならない臨床家にとっては、こういった「割り切り」やある意味での「妥協」も必要ということであろう。
評者が本書のなかで一番心に響いたのは、275ページにある「論文を読むのが苦手でも、研究限界の内容を確認しておいた方がよい」というフレーズである。実際、論文の読者の多くは研究限界(Limitation)を読み飛ばし、結論(Conclusion)だけを読んで論文の内容をわかったつもりでいる。初級者も中級者以上も、肝に銘じておくべきメッセージである。
康永秀生(東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学 教授)
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