“パッケージング”でまちの魅力を引き出す
赤ふん坊や黒田市長,こんにちは! 平戸市って,長崎の北部にある,本土と橋でつながった島なんだね!海の自然も豊かで,歴史もあるんだよね……そうそう! 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」,世界遺産登録おめでとうござい……はっ! ! さては市長は,世界遺産マニアだから平戸に! ?
黒田なわけないでしょ(^_^; 私は昭和58年に大学卒業後,政治家の秘書になったんです.16年秘書を務めた後,県議会議員をしていましたが,役所職員とともにクリエイティブな仕事をできるのは,秘書よりも県議よりも市長だと思い,前市長勇退時に出馬を決意したんです.実際になってみて,自分のイメージに近くなる部分が格段に多く,結果責任の重さを感じつつも,やりがいも存分に感じています.
坊やわかるぅ! ! ボクも,ゆるキャラ系フンドシストとして,結果責任を感じてるもの! !
黒田何の結果を出したいの……?(汗)
坊やじゃあ,市長はこの市をどんな市にしたいと思ってるの?
黒田当市は離島で構成され,集落が点在しており,交通手段も悪く,特産品も少量多品種で,農地も狭く,日本の地方の負の側面が見える市でした.しかし,発想を転換し,「海,山,人の田舎のよさが全部味わえるまち・平戸」というパッケージングと,季節ごとのシリーズ化により,負の側面を生かした観光・まちおこし戦略が奏功するようになりました.今ではふるさと納税日本一やキッザニア地方版,城泊(キャッスルステイ)などの先進的な取り組みを展開しています.政治家秘書や県議を経験したことを生かして,フットワークの軽い旗振り役となりたいですね.
坊やなるほど,“パッケージング”ねえ……そのパッケージに,ふんどしも入れてもらえますか?
黒田お断りします……(汗)
さまざまな主体が有機的な連携網をつくる地域包括ケア
坊や平戸市は,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?
黒田平戸市では,平戸市民病院の押淵徹院長が,平成8年から地域包括ケアに取り組んでこられたことが財産となっています.救急医療から慢性期医療,小児から超高齢者までの幅広い一次・二次医療機能を発揮しながら,市内外の医療・福祉・介護施設との連携を推進し,先駆的に地域包括ケア体制を構築されました.平成14年度には県北地域リハビリテーション広域支援センターの指定を受け,長崎県北部の自治体を舞台に介護予防事業にも取り組み,安心して暮らせる地域づくりをめざしている諸医療・福祉団体の支援をされています.また,定年のない第一次産業従事者が長年元気で現役として働けるよう,「元気老人の創出」をめざしたヘルスプロモーションの取り組みも展開されています.長年の取り組みにより,専門職,役所,社会福祉協議会,民生委員やボランティアなどのさまざまな主体が有機的な連携網をつくり,医療・福祉・介護と住民の距離が近くなっていると実感しています.平成17年度からは長崎大学病院へき地病院再生支援・教育機構からの支援を受け,総合診療医教育拠点病院として総合診療・地域医療教育にも取り組んでいただいており,人材の交流も生まれています.押淵院長はじめ,地域の困っている万人を救う地域包括ケアの実践者の皆様の努力には心から感謝しています.
坊やなるほど,押淵先生方の功績は,まさに世界遺産級,ということですな! !
小学校区ごとに江戸時代の集落のような空間を
坊やでは,平戸市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?
黒田そうですね,先ほど述べた先駆的な地域包括ケアの取り組みはもちろんすばらしいんですが,市町村合併により地域のまとまりが薄れることがあったり,人口減少により福祉からの地域包括ケアに限界を感じることがあったりしたため,市内12の小学校区で推進する「まちづくり運営協議会」を設置し,これからは地区の自己解決力を向上させていくことに注力したいと思っています.医療や地域包括ケアとまちづくりは非常に重なる要素の多い概念ですよね,市民生活そのものに他ならない.小学校区は歩いて通える距離であり,小学校は地域にとっては空気のようなものなので,小学校を中心に,とても身近であたたかい,例えるなら江戸時代の集落のような,そんな空間で地域を踏みしめて,地域をしっかり感じて生活してもらいたい.そのための支援をしているんです.
坊や江戸時代からのキリシタンの歴史が,この世界遺産を生んだんですものね! ! そこをしっかり感じて生活してほしいと.
黒田話,聞いてた……?(汗)
地域の理解が,国内外の医療課題の解決につながる
坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください! !
黒田そうですね,臓器別の専門性の追究ももちろん大事なことではありますが,総合診療医は地域貢献度がとにかく高いと感じています.国内外にある医療の格差などの各種課題を解決するのは,総合診療医であると信じてやみません.健康寿命延伸への取り組みに親和性が高いのも総合診療医です,ぜひ行政とともに一丸となって取り組んでほしいですね.若手医師の総合診療への関心の高まりに拍手を送ります!
坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!
黒田医療界で発生しているさまざまな問題を理解するには,地域をみないとわからないと思います.地域と人間がどのような関係なのか,なぜ人間は病気をするのか,医師も地域に住んで,一緒に笑って泣いて……そんな経験が必要かと.ぜひ平戸に来ていただいて,その経験を積んでください.季節ごとにおいしいものや楽しい祭りがありますので! 日本でも世界でも,薬の処方よりも,地域を経験した医師の一言で患者が救われる時代になるのではないでしょうか.
坊やまさに,世界(遺産)への第一歩! ! ! こりゃまた一本取られましたわい☆
黒田全然そんなつもりはないんだけど…(^^;)
坊や黒田市長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 次回は,岐阜県・下呂市の服部秀洋市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆
実際に,平戸市の地域包括ケアシステムについて伺ってきました☆ 国民健康保険平戸市民病院には,隣接する平戸市国保保険・福祉総合施設「サン・ケア平戸」とともに,施設内に,健康づくり推進班,地域包括支援センター,訪問介護事業所,介護老人保健施設,特別養護老人ホーム,居宅介護支援事業所と地域連携室が一体となった総合相談窓口,リハビリテーション科があって,それらが介護支援専門員連絡協議会や保健所,在宅ケア会議(サービス担当者会議),ボランティア,民生委員,行政,医療介護系機関・事業者,他の地域包括支援センターと協働しながら,ずっと住み続けられるまち・平戸を支えていました!(図1)ボランティアなどの住民さん方が,専門職や行政と連携しながら,高齢者ネットワーク(平戸市地域包括支援センター運営協議会)を形成され,主体的・自発的に地域包括ケアシステム構築にかかわられている様子がとても印象的だったよ.やっぱり,自分の地域は自分たちでつくっていかなきゃね! ボクも,自分のふんどしは綿花から育てることにしまっす☆
今回紹介した平戸市は,地域包括ケアの概念(図2)が提唱される前から,先駆的に地域包括ケアシステムの構築に取り組んできた自治体です.2005年に提唱されて久しい概念となり,システム構築完了目標年である2025年が近づいてきましたが,いまだに捉え方の難しい概念であると感じるのは,私だけでしょうか? 私なりに,捉え方が難しい理由を探ってみますと,以下のように考えます.
- 連携や取り組みの範囲にさまざまなスケールがある(病診連携から医療介護連携,多職種連携,行政・住民との連携など)
- 地域によりめざすべきものや解決すべきものが違うので,一律の取り組みとして考えにくい
- 「これをすればうまくいく」「とにかくこれをすべき」という答えが見つけにくい,目標とすべき指標が設定しにくい
このような状況のなか,急速な人口減少社会において,われわれ総合診療医はどの切り口からこれからの時代の地域包括ケアにかかわっていくべきなのでしょうか.
まず,人口減少時代であることから,連携の範囲をできるだけ広げる必要があります.今までは専門職間の連携で済んでいたことが,マンパワー不足等により済まされなくなる時代です.行政や住民さんとの連携など,役割の拡大を視野に入れる必要が出てくるでしょう.
それに,このような時代だからこそ,真の目標や目的を違えないことも重要です.目の前の患者さんや利用者さんは「サービスが受けられればよい」「長生きできればよい」と考えていると,われわれ専門職はいつの間にか前提のように捉えがちです.新時代の目標は,長生きではないかもしれません.人ごと,地域ごとに違うこの真の目標を捉えるには,地域との距離感を詰めるしかないと思います.平戸市でも地区住民の自己解決能力の向上を課題にあげられていました.このような役割の拡大のためにも,こちらから地域にお邪魔して,そこの人と生活を理解することから,次なる地域包括ケアの扉は開かれると信じています.
長崎県平戸市・市長
昭和58年 麗澤大学卒業,金子原二郎議員秘書を経て平成14年より長崎県議会議員(3期),平成21年 50歳で平戸市長に就任.九州市長会理事,全国市長会評議員も歴任する.平戸市を全国に誇れるテーマパークと位置づけ,「歴史」「恵み」「祈り」をキーワードに,歌人・種田山頭火が称した「日本の公園・ひらど」の再生に向けて,愛され続け選ばれ続ける平戸市の創造に全力を傾注する.特技:
似顔絵,毛筆楷書,早食い.