赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《茨城県 大洗町》
小谷隆亮町長

《地域の概要》茨城県・大洗町
写真は,アンコウも水揚げされる,重要港湾大洗港.
《地域の概要》茨城県・大洗町
人 口:
16,100 人(高齢化率32%)
面 積:
23.89 km2(人口密度678 人/km2
地域の特性:
茨城県の海岸線のほぼ中央に位置する町で,首都圏と北海道を結ぶ海上交通の結節点.アクアワールド・大洗,大洗磯前神社などの観光スポット,アンコウやシラス,紅あずまなどの農水産物が特産で,年間450万人が訪れる観光の町.
茨城県大洗町の小谷隆亮町長は,長年取り組んできた観光のまちづくりに加えて,これからの人生100年時代を支える安心の医療・介護体制づくりにもチカラを注いでいるんだ! 特に,一般的には地域で集まりにくい高齢男性もうまく取り込んだ施策を展開しているんだって! 関東有数の観光のまちでの取り組み,町長の思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

観光,教育,子育て支援で,若い世代がめざす町に

赤ふん坊や小谷町長,こんにちは! 海沿いの大洗町って,あんこう鍋がとっても有名な,観光のまちなんだね! 町長はやっぱり,アンコウを獲り続けた功績が認められて,町長になったんでしょ? これがまさに町長(ちょうちん)アンコウってね!……ぷぷぷ……あーっはっはっは! あー面白かった! ! じゃ,そういうことで☆

小谷ちょっとちょっと! 何しに来たの!?(汗)私はもともと役場の職員として,この大洗町の成長とともに歩んできました.もともと小さな港町だった大洗に,重要港湾や漁港区を整備し大洗・北海道間のカーフェリーを誘致,さらに原子力研究開発施設を誘致するなど,まちづくりにかかわってきました.昭和60年には町の助役となり,これまで取り組んできたまちづくりの延長として,自然と町長になる道が見えてきたんです.

坊やじゃあ,町長は大洗町をどんな町にしたいと思ってるの?

小谷大洗町は明治時代から観光の町で,潮湯治や臨海学校で有名でした.その後の取り組みで,現在は年間450万人という県内一の観光入込客数を誇ります.今後はさらに,漁業の六次産業化や,茨城県や隣接するひたちなか市と協働でのリゾート構想に力を入れていく予定です.また,教科教室型中学校など,教育・人づくりにも前向きに取り組んでおり,さらに,子育て支援も充実させています.これらを掲げて地域経済や雇用を活性化し,若い世代が住んでみたい・子育てしてみたいと思える町をつくっていきたいと思います.

坊やそれはまさに! ちょうちんを掲げて獲物を集めるアンコウのごとく! !ってことでいいですか?

小谷はい,それでいいです……(汗)

医療にかからずともいきいきと過ごせる

坊やそれで大洗町は,健康のために,どんなことに取り組んでいるの?

小谷医療面では,大洗海岸病院と開業医の診療所を中心とした広域病診連携に取り組んでいますが,人材不足などの問題も抱えています.そこで,高齢者の居場所となる元気づくりサロン,シルバーリハビリ体操の普及や買い物ツアー,移送サービス,銀行・郵便・乳製品配達などの生活サービスと連携した見守り協定など,高齢者福祉・介護面でも多くの取り組みが展開され,医療機関にかからずともいきいきと過ごしていただけるように支援しています.特に,元気づくりサロンは町内17カ所にのぼり,500名以上が参加するまでに至っています.さらに,どうしても女性中心になりがちなサロンに対応すべく,男性向けサロンの取り組みもはじめており,健康麻雀や将棋などの男性向けのメニューが提供され,男性参加者が7割以上のサロン活動も実現しています.

坊や男性向けサロン,いいですね~☆ 「手作りふんどし教室」をメニューに追加されてはどうでしょう!?

小谷どう,って言われても……(--;)

医療・介護専門職,行政,地域アクターが輪になって

坊やでは,大洗町はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

小谷そうですね,人生100年時代を安心して過ごせるまちにするために,先ほどお伝えした取り組みに加えて,在宅医療介護連携をさらに推進しなければなりません.今こそ,医師,看護師といった在宅医療を提供する専門職と行政が手をとり合って地域医療センターを構築するとともに,保健師,介護支援専門員(ケアマネジャー),介護福祉士など医療・介護専門職,行政,そして一般企業などの地域アクターが,連携をさらに深めていく必要があります.みんなで力を合わせて輪になって,働き方改革や人材不足に打ち勝つ力を手に入れたいと思います.

坊やなるほど~,みんなで輪になってあんこう鍋を囲むことには,そんな意味があったんですね~☆

小谷鍋の話,してないんだけど……(--#)

生活と医療をつなぐ役割を期待

取材の記念に,小谷町長と.なんと6期目,長年町を牽引されてます!
取材の記念に,小谷町長と.なんと6期目,長年町を牽引されてます!

坊やでは,町長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください! !

小谷はい,町民の立場からすると,まず最初にどんな問題にでも対応してもらえる総合診療医の存在は非常に心強いと思います.患者本人や家族の不安を受け止めてもらえるのは本当にありがたいことですね.行政の立場からは,生活と医療をつなぐための保健師との連携機能を期待したいです.

これがウワサのアンコウ! すごい迫力☆
これがウワサのアンコウ! すごい迫力☆

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

小谷当町は,食,文化,自然の資源が豊富で,国際的色彩もあり,都心から気軽に訪問できる週末のオアシス的な場所です.大洗あんこう祭には14万人の観光客がいらっしゃいます.大洗のファンがどんどん増えています,ぜひ皆さんも足を運んでいただき,英気を養い,大洗を好きになっていただきたいです.

坊やボクも,「ふんどし界のオアシス」って言われてるんですよ♪ 今日は英気を養っていただけましたか??

小谷は,はい……(汗)

坊や小谷町長,今日はお忙しい中ありがとうございました! 次回は,香川県・高松市の大西秀人市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆

男性が前向きになる役割と,男性に“響く”企画で,高齢男性を元気に.
赤ふんウォッチ
遠隔診療の機械だって! これで,ふんどしを販売でき
ないかなあ〜☆

実際に,大洗町の 男波 だんな サロンの様子を拝見してきました☆ この日は33名の参加があり,小さな町とはいえ意外と初対面の方も多かったようですが,健康麻雀や将棋などは,内気でおしゃべりがあまり好きでない方でも関係なく楽しめるのがいいよね.しかも,健康麻雀は,「賭けない・呑まない・吸わない」をスローガンにした,ねんりんピック(全国健康福祉祭)の正式種目になっている頭脳スポーツで,指先と頭脳を使うため認知症予防に効果的なんだって.そもそも男性をターゲットにした 男波 だんな サロンは,生活ささえあい検討会の地域活動から「男性が集まりやすい場所があったらいいな」というニーズを把握したのがきっかけだったとか.みんなの声から活動としては健康麻雀を採用し,男性の参加しやすい雰囲気・居心地のよさを追求しながら,男性が求める自由さ・地域貢献・社会参加を促進していくのを目的にしているんだって! 生活ささえあい検討会は,介護保険制度改正により創設された生活支援体制整備事業で,少子高齢化や財政状況から,「共助」「公助」の大幅な拡充を期待することが難しく,「自助」「互助」の果たす役割が大きくなることを意識した取り組みをやっているんだ.健康のためには,一次予防・二次予防・三次予防の他に,地域でつながる「ゼロ次予防」が今後の重要なポイントかも.地域住民同士が見守り,支え合い,地域とつながることで生活が活発になり,結果的に虚弱化・重度化を遅らせることができるまちづくり・サロンが求められているね.ボクがもしこのサロンに入るなら,大洗の海(波)のように,そこにいて当たり前の存在になるぞ! でも,もし万が一ふんどしがダメって言われたら,パンツっぽいふんどしを考案しようっと!

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 男性の居場所・集いの場づくり

今回紹介した大洗町では,高齢男性が地域に出ていきやすい取り組みが展開されていました.高齢者が地域に出て交流すると健康につながることは,本連載でもお伝えしてきたところです(2019年6月号参照).日本全国でサロンなど高齢者が地域で交流するための取り組みが非常に多く取り組まれるようになりましたが,一般的に男性の参加者は女性の参加者よりも圧倒的に少なく,大概の地域で課題となっているようです.どうすれば男性の参加しやすい居場所や集いの場は用意できるのでしょうか.

田島らがサロン男性参加者24名を対象に探索的に調査した報告では,男性高齢者がサロンに参加する要因として,「勧誘」「社会・地域貢献」「人間関係の構築」「妻の参加」「歳を重ねた」のカテゴリーにまとめられたそうです1).男性に特徴的と考えられる要因がいくつかありますね.例えば,「社会・地域貢献」ですが,含まれる要因を見てみると,「自分が地域の役割を何かもっていること」があるようです.民生委員だからサロンにも参加している,という感じです.他に,「既存のグループの代替」という要因もありました.老人クラブやお寺の檀家会など,昔ながらのグループに違和感を覚えた方が,外に居場所を求めている可能性があります.そして,「社会・地域貢献」のカテゴリーの中では,「若い世代を応援したい」「自分の経験を伝えたい」という要因が特筆すべきかと感じました.

男性に特化した居場所や集いの場についてはいかがでしょうか.大洗町でも吹き矢など男性がわくわくするメニュー(逆に女性にはあまり響かない!?)をとり入れて,男性参加者を多く確保されていました.サロン以外にも,全国的には男性に響くさまざまな企画がされているようです.例えば,健全にお酒やギャンブルを楽しめる会合,たき火を囲んで美味しいものを焼き食べながら過ごす会合, 狼煙 のろし を伝達していくイベント〔男性は火が好きなんですね……(汗)〕などなど,近年面白い取り組みが増えています.

まとめますと,男性の参加しやすい居場所や集いの場づくりには,男性が前向きになるように役割をうまく利用すること(ただ役割をつくるだけでなく,① みんなに,② 得意分野を生かして,③ 世代伝承を意識して),そして男性に“響く”今までにない企画を用意することが大事なようです.総合診療医としては,臨床の場面でそのような場所をオススメできるように,また,場のコーディネーターにそのようにアドバイスできるようにしておきたいものですね.

文 献
  1. 田島 愛,他:高齢者サロンにおける男性の参加要因に関連する探索的検討.岐阜医療科学大学紀要,11:59-72,2017
小谷隆亮(Takaaki Kotani)
小谷隆亮町長

茨城県大洗町・町長
昭和14年5月20日生まれ.平成8年9月に大洗町長選挙に初当選し,現在大洗町長6期目を務める.全国市町村職員共済組合連合会 理事長,全国市町村水産業振興対策協議会 会長 ,日本港湾協会 商議員,全国観光地所在町村協議会 常任理事,ウォーターフロント協会 理事.
日々の健康の源は,愛犬との散歩,ゴマ・きな粉を入れた牛乳を飲むこと.
座右の銘は「至誠一貫」.清潔と公平・公正,対話と協働,信頼と安心を胸に刻み,「人が輝き 海が育む ふれあいの町 大洗」の実現に向け,日々奮闘中!

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.