まちが活力を失わない,「スマート」なまちづくりを
赤ふん坊や大西市長,こんにちは! 高松市って,中核市だけあって,都会の街並みが広がっているね!そして,香川と言えばやっぱり讃岐うどん! ! 市長はやっぱり,うどんの素晴らしさを全国・世界に伝えるために,市長になったんでしょ?
大西うーん,ちょっと,違うかな(汗).私は東京大学から自治省(現・総務省)に進み,在職中は岐阜県や北海道,島根県にも出向,全国の地方自治に携わってきました.岐阜県では医療財政にかかわりましたし,北海道では医療機能確保,本省でも自治体病院を担当する地域企業経営企画室長を務めたこともあります.県議会議員を10期務めた父の姿を大変そうだと感じていましたので,高松市長として政治家になるかは悩んだのですが,市長選の2年前に市町合併があり,高松市の地域資源が増えたことで「おもしろいまちづくりができそうだ」と可能性を感じ,市長選に出馬したんです.
坊やへえ~,ちなみに高松市にはどんな地域資源があるの?
大西そうですね,讃岐うどんはおいといて…日本を代表する大名庭園である特別名勝「栗林公園」,日本有数の水城・高松城跡を公園にした「玉藻公園」,源平合戦の古戦場である「屋島」などの景勝地,瀬戸内海でとれる海の幸,また香川漆器や庵治石(花崗岩の一種),盆栽などの名産品,そして塩江温泉など,多くの資源がありますよ.また,観光にも力を入れており,本市の男木島,女木島などの島々で開催する瀬戸内国際芸術祭は,全国のみならず世界に知られるようになりました.
坊やあ,芸術祭,知ってるよ! ! ボクの作品「ふんどしと少年」も展示してもらえますか?
大西か,考えときます……(汗)
坊やじゃあ,市長は高松市をどんな市にしたいと思ってるの?
大西これまでの日本は人口も増え経済も成長し,郊外に大型施設をつくって拡散型のまちづくりを展開してきましたが,地方ではシャッター街も多くなりました.これからは人口が減り,高齢者が増えてきます.交通弱者も増えることでしょう.その変化に対応し,まちが活力を失わないようにするには,中心市街地の発展・集積・活性化が必要です.そのためにめざしているのが,① 地域住民と協働しながら福祉などの地域課題を解決する「高松型地域共生社会」,② ICT・データ活用と連携で持続的に成長し続ける「スマートシティたかまつ」,③ 集約した都市機能や住居などのまちの拠点を公共交通でつなぐ「コンパクト・プラス・ネットワーク」の3つなんです.
坊やまちが活力を長く保ち続ける,まさに「うどんのようなまちづくり」をめざしているということです ね!?
大西うんうん,うどんから1回離れようね(涙)
日本のコミュニティ再生モデルを提唱
坊やそれで高松市は,健康のために,どんなことに取り組んでいるの?
大西医療面では,市町合併を受け,3病院体制から高松市立みんなの病院を中心とした1病院1サテライトへの病院再編統合を推進しています.地域共生社会になじむ地域包括ケア病棟の設置や,大学と連携しての教育拠点の整備も進めているところです.保健・健康づくり面では,子育て世代包括支援センターや中核市ながら直営の地域包括支援センターを中心に,多世代の健康づくりにも取り組んでいます.
福祉面では,現在おおむね小学校区単位で地域福祉ネットワーク会議の設置を進めており,高齢者等の暮らしを支える互助が地域主体に進み,「高松型地域共生社会」の礎となっています.ICTを利用した「スマートシティたかまつ」の取り組みでは,ウェアラブル端末による高齢者の見守りの検討をしています.また,高齢者はADLが低下してきても生活圏が確保され地域社会とのかかわりを絶やさないことが重要ですが,「コンパクト・プラス・ネットワーク」の取り組みにより,自家用車を手放した後も高齢者が地域社会とつながり続けられるよう,鉄道を基軸としたバス路線再編と新駅増設を実現させ,多核連携型コンパクト・エコシティを構想しているところです.四国の中核市・高松から,日本のコミュニティ再生モデルを提唱したいと思っています.
坊やコミュニティの再生,素晴らしいですね! あ,ボクも,古着をふんどしに再生する取り組みをしてるんですよ♪
大西す,素晴らしいね……(汗)
まちづくりの支援で,老若男女の笑顔が輝く元気な高松へ
坊やでは,高松市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?
大西そうですね,これまでは急激な高齢化に対応すべく,どちらかというと高齢者中心の取り組みになってしまっていた気がしますが,地域共生社会を推進していく高松市としてはそれでは十分ではありません.44の地域コミュニティがまちづくりを進められるよう行政としてできる支援を全世代に行い,「老若男女の笑顔が輝く元気な高松」を実現させたいと思っています.これまで取り組んできた,医療・介護・介護予防・生活支援・住まいを一体的にシームレスに提供する地域包括ケアシステムや,ライフステージに応じた健康づくりの推進も,地域共生社会の実現によりさらに強く,しっかりしたものになると考えています.
坊やう~ん,この強くしっかりしたコシ! ! さすがは本場の讃岐うどんですなあ! ! ずずず……
大西ちょ,いつの間に! ?
まちづくりの場にも親和性が高い総合診療医
坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください! !
大西はい,総合診療医は急性期のみならず回復期から慢性期・在宅療養期に至るまでの診療が行え,受診の最初の窓口として機能できるほか,地域に必要な健康づくり,健診,保健指導などに関して幅広い知識と経験を有するので,今日お話しした本市のめざすまちづくりの場にも親和性が非常に高いと感じています.地域における医師や診療科の偏在解消につながることについても期待できると考えています.
坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!
大西本市では,医療をまちづくりや介護予防,健康づくりに展開させ,時代のニーズに合ったものへと発展させようとしています.総合診療医も各科の専門医もどちらも活躍の場があります.住みやすく,資源に恵まれ,これからますます発展する高松に,ぜひお越しください.長いお付き合いをよろしくお願いいたします!
坊やボクからも読者の皆さんにお願いします! 讃岐うどんやふんどしのような長いお付き合いを! !
大西そこ,一緒にしないでほしいな……(汗)
坊や大西市長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 次回は,福井県・鯖江市の牧野百男市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆
実際に,高松市の地域福祉ネットワーク会議の様子を拝見してきました☆ この日は地域をよりよくするためにはどのようなことが課題か!?について,生活者の視点で自由な意見出しが行われていたよ.「一人暮らしの高齢者や認知症の高齢者が増えている!?」「交通機関が少ない地域で買い物に不便を感じている!?」「地域で活躍できる人材はどこにいる!? その情報をみんなで共有したい!」などの意見が出されていました.これらの話し合いの場から,居場所づくり事業や見守り事業などが展開し,現在約240カ所の居場所が実現,新規介護認定者が減少し,9割以上の居場所利用者さんが健康維持を実感されているそうです! ボクも地域の一員として,地域共生社会の実現のために,一肌脱がなくっちゃ! ! え? これ以上脱いだらダメ??
今回紹介した高松市では,「地域共生社会」がめざされていました.比較的最近出てきた言葉ですが,皆さんはどのように認識されていますでしょうか.これまでしきりに言われてきた「地域包括ケア」とはどう違うのでしょうか.
「地域共生社会」とは,制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて,地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会を言います1).地域包括ケアとの違いを考えるために,特徴的な言葉を2つ抜き出しましょう.『我が事』と『丸ごと』です. 『我が事』とはつまり,これまでどうしても『他人事』であったより住みやすい地域づくりを,住民の『我が事』に転換するということになります.それはすなわち,地域住民が中心で,それを専門職などで支援していくという構図となります.これはなかなか難しいことなのですが,例えば自治体が開催を義務づけられている地域ケア会議(よりよい地域の実現のために課題を的確に把握し解決していく手段を政策提言する会議)の場を住民主体の地域づくりの場に発展させたり,住民の得意分野を生かした役割を準備して活動家の発掘・育成を推進したりすることが重要となります.
また,『丸ごと』とはつまり,これまでどうしても『縦割り』であった支援やケアを,あらゆる対象を1つの窓口で受けるということになります.それはすなわち,高齢者も子育て世代も障がい者もシームレスに捉え,個々の利用者の生活の変化を継続的に捉えてケアマネジメントを実施していくことになります.これもなかなか難しいことで,オールマイティな人材を地域に増やすことが急務となります.
ここまで言うと勘の鋭い方はお気づきかもしれません.そうです,われわれ総合診療医は,地域共生社会にこれ以上なく親和性が高いのです.地域ケア会議等の市井会議で,その能力を生かし,地域を俯瞰した根拠や意見をもとに,地域住民をうまく導くことができます.あらゆる年代のいかなる生活者をも対象とし,オールマイティに相談を受け,適切に関係者をつないでケア体制実現を支援することができます.これらの役割を独自で実施しているだけでなく,行政や住民さん方に理解・支援してもらいながら実施していくことも重要です.これからの地域共生社会に,総合診療医の意義をもっともっと根付かせられると考えています.
- 厚生労働省「地域共生社会」の実現に向けて(2020年6月閲覧)
香川県高松市・市長
昭和34年8月生まれ.香川県出身.昭和57年東京大学法学部卒業後,自治省(現総務省)へ入省,その後,北九州市資金課長,岐阜県財政課長,北海道地域振興室長,自治省税務局税務企画官,島根県総務部長,総務省情報通信政策局地域放送課長などを経て,平成19年5月から現職(現在4期目).主な役職は,全国市長会副会長(4回目),全国市長会介護保険対策特別委員会委員長,公益財団法人日本都市センター理事長など.趣味は書道,音楽鑑賞,スポーツ観戦,読書.セールスポイントは,北海道,本州,四国,九州の4つの島すべてで生活してきたこと,全国の地方都市のよさを知ること.