30年間の信頼を裏切れない
赤ふん坊や多々見市長,こんにちは! 舞鶴市って,日本海に面したまち並みが印象的な,歴史あるまちだね! そして,舞鶴と言えば引き揚げ船や赤れんが倉庫などの,戦争の記憶……市長はやっぱり,歴史マニアにつき,ここ舞鶴は押さえておきたくて,市長になったんでしょ?
多々見全然違います(汗).私は石川県で生まれ育ち,医師となりました.30歳のときに国家公務員共済組合連合会舞鶴共済病院にはじめて赴任し,患者さんから感謝の気持ちを聞きやり甲斐を感じながら循環器内科医として勤務しておりました.長年の同病院での勤務を経て,平成17年から病院長を仰せつかり地域の医療に貢献してきました.その間に,市内に4つあった公立・公的病院―国立病院機構舞鶴医療センター,市立舞鶴市民病院,舞鶴赤十字病院,舞鶴共済病院―のうち,市立舞鶴市民病院での医師一斉退職および医療機能破綻が生じました.当時の市長が退職し,新たな市長は市内の公立・公的病院の1病院への再編統合をめざしていました.しかし,互いに運営母体や派遣元大学の違う病院間の再編統合を行っても,医師が集まらずに大変なことになるのは目に見えていました.このままではまちの医療がつぶれてしまうと思っていた矢先,複数の市議会議員から出馬を要請されたんです.悩みましたが,病院の同僚,そして何より30年間信頼をいただいてきた患者さん,市民の皆さんに対して,医療の悪化を見過ごすという裏切りを働くわけにはいかないと思い,出馬を決意したんです.
坊や30年の信頼,ねえ……フフ,ボクは6歳ながら,昭和63年から32年間,信頼を得てるけどね☆
多々見なんで張り合ってくるの……(汗)
坊やじゃあ,市長は舞鶴市をどんな市にしたいと思ってるの?
多々見舞鶴市は,自衛隊や海上保安庁,火力発電所などがあって国防と海の安全,エネルギーの拠点であるとともに,非常時の物資運搬など高いリダンダンシー機能を備えるまちです.関西や国を支える役割だけでなく,子育てや教育環境の充実を図っていくことで,働く世代が単身赴任をしなくても家族で本市に居住でき,まちも元気になっていくことでしょう.
坊やなるほど,
多々見はあ……(汗)
どこにでもあるべきもの/そうでないものを整理
坊やそれで舞鶴市は,健康や医療のために,どんなことに取り組んでいるの?
多々見先程お話した病院再編統合のうえ新病院を建設する話は白紙に戻し,平成24年3月に新計画に変更しました.それぞれの病院の専門性,すなわち役割を,分担し連携する方針としたんです.機能破綻した市民病院には療養に特化した役割を新たにもたせ,舞鶴赤十字病院に接続する形で新設し,急性期は各病院の得意分野を生かして分担・連携しました.4つの病院が全体で機能するイメージです.また,総合診療はどの自治体にも必要ですが,周産期医療,心血管や脳血管疾患など緊急性があり高い専門性を有する病気は,個々の自治体内だけで完結させず,京都府北部という広域での連携を考えています.病院単位,自治体単位,医療圏単位で,どこにでもあるべきものとそうでないものを整理し,連携を強化することで,莫大なお金とリスクがつきまとう新病院建設を不要にしたんです.
坊やへぇ~,新病院建設は
多々見もうやめて……(涙)
理解の一方通行から相互通行へ
坊やでは,舞鶴市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?
多々見そうですね,もちろんこれまで取り組んできた医療連携にさらに意味と重みを増していくことは重要ですが,それ以上に重要だと感じていることは,医療や健康の提供者側,つまり病院や行政と,その受け手側,つまり市民の,それぞれの理解の発展です.どういうことかというと,われわれ行政や専門職が一方的に健康や医療を市民に届けても,市民がその意味や目的を考えようとしないのでは意味がありませんし,また逆にわれわれが市民の生活や考えを感じとろうとしないのでは,取り組みは真に効果を発揮しないということです.ですので,まちとして市民の理解を深めるための努力をより一層重ねたいと思っています.一方通行から相互通行へ,ですね.
坊やはい出ました,一方通行は
多々見そ,そっちが勝手に!!(涙)
目の前の課題に誠心誠意向き合う医療者に
坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!
多々見私は長年医師として働いてきましたが,医師として注力していたのは,どうすることがその人,その家族にとって幸せなのかということ,つまり,患者や家族を思い続ける誠意です.患者の問題を細切れにせず,広く全体を捉える必要があります.今自治体の首長となって,医療現場からは退きましたが,思いは同じですし,また,医師としてのこの思いは現在の仕事にも生きています.目の前の人や地域,困りごと,課題に,誠心誠意向き合う医療者になってほしいと願っています.
坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!
多々見舞鶴市は海の幸の恩恵あり,これから交通もさらに発展していき,大都市よりも住みやすく魅力あるまちに発展していきます.病院の役割が多用であるということは,総合診療医のさまざまな働き方を用意できるということでもあります.きっと皆さんのニーズに合った仕事と暮らしがあると思いますので,ぜひ舞鶴市にお越しいただければと思います!
坊やまさに,大都市は
多々見おっと,もう言わせないよー!!(笑)
坊や多々見市長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 次回は,大阪府・大東市の東坂浩一市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆
実際に,舞鶴市の機能分化した病院を拝見してきました☆ 市長が以前院長を務めていたここ舞鶴共済病院は,市の循環器内科や心臓血管外科,泌尿器科等の拠点として,市内の他の病院より多くのお医者さんが所属していたよ.患者さんに他の病院が得意とする問題が発生すると,紹介や転院など,スムーズに連携して解決しているんだって! 市民の皆さんにも得意分野は伝わっているから,うまく機能分担できているみたい.ボクは,病院のどの機能を担おうかなぁ……ふんどし販売機能かなぁ♪
今回紹介した舞鶴市では,市内の中規模以上の公的病院4つの再編統合が議論された時期がありました.最近大きな話題になった関連事項として,2019年9月に厚生労働省「地域医療構想に関するワーキンググループ」の発表した「公立・公的医療機関等の診療実績データの分析結果」があります,1).この報告では,全国の424の病院に再編統合の可能性を投げかけました.これからも進むであろう人口の減少や偏在,そして医師の偏在により,今後もこの手の話題は各地で尽きないと予想します.急に我が事になるかもしれない公的病院の再編統合に際し,われわれ総合診療医が普段から考えておくべきことはあるのでしょうか.
総務省の「地域医療の確保と公立病院改革の推進に関する調査研究会」2)によると,地域医療機能を確保しながら公的病院を改革していくには,以下の4つの課題があるとのことです.
1.役割の明確化
所属する病院が,地域(自治体/医療圏)でどのような役割を発揮しているのかを把握しておくことが大事です.また,総合診療は可塑性が売りの診療科ですので,求められる役割に医師側から合わせにいく原則を守り続ければ,病院へも地域へも貢献することができそうです.
2.経営効率化
各専門診療科をとり揃えるよりも,横断的に総合診療科を設けることで,必要な医師数を減少させ,経営の効率化につながります.
3.再編・ネットワーク化
総合診療医の得意分野であるプライマリ・ケアの5つの専門性3)のうち,CoordinationやComprehensivenessは,まさに医療機能の再編・ネットワーク化に寄与する能力と言えます.
4.経営形態の見直し
この部分は総合診療医が直接かかわることは少ないかもしれませんが,総合診療医の役割4)のアピール等により,経営形態の見直しに影響を与える可能性があります.
以上のように,公的病院の再編統合や機能分化における総合診療医の役割や意義は大きいと考えます.再編統合を眼前にせずとも,日頃より地域の医療システムが検討される場に関心をもちかかわっていく姿勢をもつことは,地域志向アプローチのひとつの開始点であると確信しています.
- 厚生労働省 第二十四回地域医療構想に関するワーキンググループ(2020年10月閲覧)
- 総務省 地域医療の確保と公立病院改革の推進に関する調査研究会(2020年10月閲覧)
- 「A Manpower Policy for Primary Health Care:Report of a Study」(Institute of Medicine, ed), National Academies Press, 1978(2020年10月閲覧)
- 前野哲博:総合診療が地域医療における専門医や他職種連携等に与える効果についての研究.2018
京都府舞鶴市・市長
約30年にわたり地域医療に携わった経験をもとに,混乱する舞鶴市の地域医療を再生するため,平成23年,市長選挙に出馬し当選.「選択と集中,分担と連携」をコンセプトとする医療再生などの政策の実現が評価され,平成28年,第11回マニフェスト大賞グランプリを受賞.令和元年からは,舞鶴市の豊かな自然,歴史,文化や,少し足を延ばせば都会にも行けるという立地性を最大限に生かすとともに,AIやIoTなどの先端技術を導入することで,「心が通う便利で豊かな田舎暮らしができるまち」の実現に努めており,将来を見据えた持続発展可能なまちづくり戦略は,国から「SDGs未来都市」にも選定された.政治信条は,「努力が報われる社会」と「真の弱者を助け合う社会」の実現,「信頼を裏切らず,約束を守り,感謝を忘れずに」.