子どもたちが大人になったときによいまちだと思えるまちへ
赤ふん坊や広瀬市長,こんにちは! 養父市って,兵庫県北部の山々に囲まれた,自然豊かなまちだね!そして,養父市と言えばやぶ医者! ! やぶ医者の語源は,昔養父にいた名医を語ってでまかせの医療をする者が複数現れたことからとする説があって(諸説あります),やぶ医者はもともと有能な医者を指す言葉だったんだよ! あぁ,勉強になったなあ! ! では皆さん,また次号で~☆
広瀬ちょっと!! 何しに来たの!?
坊やはっ! そうでした! ! 広瀬市長はやっぱり,やぶ医者が悪く言われることが悔しくて,市長になったんでしょ?
広瀬市長になった理由ではないけど,やぶ医者が名医であることにちなみ,地域医療発展のための顕彰「やぶ医者大賞」を実施しており,2020年までに7回14人のやぶ医者を表彰しました.読者の皆さん,ぜひご応募を!!
坊やぉおっと,まさに,
広瀬私は旧八鹿町の役場職員を務めておりました.町の活性化のために,土木系技術者としてできることを懸命に取り組みました.しかし,しだいに高齢化・少子化が進み,20年ほど前から町が続かないのではないかという危機感をもつようになりました.国の指導のもと,地域が元気になるという農業を町として推進してきましたが,いっこうに成果が出ず,地方分権の制度上の問題を感じるようになっていました.それに,財政が厳しいなか,台風災害の復興もしなければならないことになり,自治体財政の健全化が必要であると痛切に感じていました.現在の養父市に合併後は副市長も任されましたが,状況は依然厳しいものでした.これら,自治体の活性化と自治体財政の健全化の両方を成功させるには,大変な苦労があると想定していましたので,気が引けました.が,今まで自分が役場職員,副市長としてかかわってきたのだから,他の人にその苦労をさせるわけにはいかないと思い立ち,平成20年に市長選に立候補したしだいです.
坊やそれってつまり,
広瀬いいわけないでしょ!!(困)
坊やじゃあ,市長は養父市をどんな市にしたいと思ってるの?
広瀬養父市は,兵庫県北の日本海に面する但馬地域のなかでも海をもたない山林内陸のまちで,夏は暑く冬は寒く,平地が少なく,厳しい面もありながらも,先人たちは豊かな自然と向き合いながら,但馬牛や養蚕など,農業,林業を中心に豊かで多様性のある生活を営んできました.しかし,人口の減少に歯止めをかけなければ,産業のバランスを守り抜くことができません.この市を都市化させたいわけではなく,農地は農地,山林は山林,街中は街中として調和させたまま守っていきたいのです.そのために,医療や公共交通,移動手段などにおいて,物理的な距離を埋めるICTや情報インフラの手段を用いながら,「今の子どもたちが大人になったときによいまちだと思えるまち」をめざして,新しい取り組みを推進していきたいと思います.
坊やなるほど,子どもたちの夢が
広瀬全部養父(やぶ)に寄せなくていいんだよ……(汗)
“人のよさ”を生かした民間輸送サービスを実現
坊やそれで養父市は,健康や医療のために,どんなことに取り組んでいるの?
広瀬養父市では現在,医療や買いものなどの生活に不可欠なものへのアクセスに関する取り組みを推進しています.養父市は平成26年に国家戦略特区に指定されました.国家戦略特区とは,規制改革を国が行いつつモデル地域の民間事業者が経済活動を実践する取り組みで,全国から10の地域が選出されています.その制度のもと,「自家用有償観光旅客等運送事業」,通称「やぶくる」を令和元年5月に運行スタートしました.もともとは近所づきあいのなかで送迎の助け合いがあったのですが,事故などのトラブルに弱いという課題がありました.そこで,市内タクシー会社3社がNPO法人を設立し,カバーできない地域を対象に,市民ドライバーを登録し,有償で事故の保障もしつつ運用できるようにしました.多様な移動手段を確保するため,事業者,住民,行政が一体となってよりよい方向を検討した結果が,地方におけるタクシー事業者の在り方のモデルになれると考えています.もともと養父市の市民性は,穏やかで優しく,遠くから優しく見守ってくれる“人のよさ”がありました.それがこのサービスの実現にも一役買っていると感じています.
坊やへぇ~,近所の人が送ってくれるんだったら,夜分(
広瀬利用は17時までだけどね……(汗)
国家戦略特区を生かしたオンライン化の取り組み
坊やでは,養父市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?
広瀬そうですね,医療へのアクセスを向上させる取り組みで今後推進していきたいのが,国家戦略特区での規制緩和を生かした,オンライン診療・服薬指導の取り組みです.養父市では,地域の中核病院である公立八鹿病院と市立の診療所,民間医療機関の連携が,非常にうまく取れています.しかも,状況改善のための新しい取り組みに積極的にかかわってくださり,パイオニアになろうという意志を感じます.平成31年4月からオンライン診療がはじまり,令和元年9月からはオンライン服薬指導もスタートしました.現在オンラインインフルエンザ検査を試行段階です.
坊やスゴい! ボクも「オンラインふんどし治療」を提供して……ウッシッシ(*´艸`*)
広瀬それ,どういう免許を以て提供するの? 法律,大丈夫??
坊やぉおっと,これはまさに「
あらゆる病から患者を救えるのは総合診療医
坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!
広瀬そうですね,身も心も落ち込んだ人がまず診てもらうのが総合診療医だと思いますが,その対応で落ち込むのか前向きになれるのかが決まってくるでしょう.つまりこれは医療の価値を決める存在とも捉えられます.このような責任と尊厳ある存在として,臨床能力が高く人間的にも優れた医師であられることを願っています.
坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!
広瀬患者との信頼関係を築き,あらゆる病から患者を救えるのは総合診療医だと思います.よくある健康問題に幅広く対応できる総合診療医には,ますます頑張ってほしいですし,養父市としても心から応援したいと思っています.応援の形の1つとしてやぶ医者大賞がありますが,地方で頑張る若手総合診療医は皆さん本顕彰の有資格者だと思いますので,ぜひご応募ください!
坊や………
広瀬………
坊や………
広瀬……あれ? どうしたの??
坊やはいっ,見事に沈黙を
広瀬なにそれ……
坊や広瀬市長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 次回は,福井県・美浜町の戸嶋秀樹町長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆
実際に,「やぶくる」に登録して市民の移動のお手伝いをされている様子を拝見してきました☆ 地元の知ったドライバーだから,おしゃべりや笑顔がたくさん♪ それに,地元の人だからこそ遠慮しがちなところを,サービス化・有償化することで,遠慮なく利用できる面もあるご様子でした.ドライバーさんも,万が一のときの保障がついて安心して地域貢献できるとおっしゃっていました! ボクもおじいさんおばあさんの移動に貢献したいなあ……元気が取り柄だから,負ぶってあげようかな?
今回紹介した養父市では,高齢者を地域社会から切り離さないための取り組み,つまりアクセシビリティを保つ取り組みが展開されていました.高齢者のアクセシビリティは近年脅かされる一方です――高齢化や人口減少,過疎化に起因し,運動機能の低下,認知機能の低下や運転免許の返納,つながりの希薄化などが生じることがその原因です.
例えば高齢者の運転免許.認知機能低下などで免許返納が推奨される機会が増えてきていますが,実は運転免許を返納すると,運転を続ける場合よりも抑うつ状態になりやすいとする報告が複数あるほか,要介護認定率が2倍以上になるという報告もあります1).地域とのつながりを絶たれることで,高齢者は健康を損なう可能性があるのです.とは言っても,認知症でも運転を続ければよいということでは決してありません.どうすれば高齢者のアクセシビリティを保てるのでしょうか?
大きく2つの方向性があるかと考えます.1つは,なんとしても自分から地域に出向ける手段を確保することです.例えば今回の養父市のように,民間旅客事業やオンラインの手段を展開するのも,その1つでしょう.そこまででなくとも,最近オンデマンドバスを運行している自治体が増加していますので,有用な手段です.とは言っても,この辺りは総合診療医としてなかなかかかわりづらいところかもしれません.筆者が実際にかかわっている取り組みを1つ紹介しますと,地域内を巡回するコミュニティバス(コミバス)に,運転免許返納前の元気なうちから慣れ親しんでおこうとする取り組みです.ナカマと一緒にコミバスで市内観光をするツアーの実施により,コミバスが身近になり,いざ利用しないといけないという際に敷居が低くなります.
もう1つの方向性は,地域の方からかかわってくれるようなつながりを確保しておくことです.交流やつながり,信頼関係を元気なうちに醸成しておくことで,自分から地域へ出向けなくなってしまっても,地域の方から自分にかかわってくれる,という社会的支援(ソーシャル・サポート)が受けられます.ソーシャル・サポートは健康に寄与することが示されています2)ので,双方向のアクセシビリティ確保をめざしたいところです.
アクセシビリティのうち交通手段の部分については,総合診療医として直接かかわりにくいところにはなるかと思いますが,それでも,アクセシビリティ確保の健康面での意義を伝えるなど,他分野の施策を支援する形で,地域の課題にかかわれる可能性があります.また,ソーシャル・サポートの醸成については,地域包括支援センター等と協働しながら,より深くかかわることができそうです.これからますますシビアになる高齢者のアクセシビリティ,ぜひこれを機にアプローチしてみてください!
- Hirai H, et al:The Risk of Functional Limitations After Driving Cessation Among Older Japanese Adults:The JAGES Cohort Study. J Epidemiol, 30:332-337, 2020[PMID:31231096]
- Berkman LF, et al:Emotional support and survival after myocardial infarction. A prospective, population-based study of the elderly. Ann Intern Med, 117:1003-1009, 1992[PMID:1443968]
兵庫県養父市・市長
昭和22年11月2日生まれ.兵庫県養父市出身.昭和46年鳥取大学農学部卒.建設会社勤務後,昭和51年旧八鹿町役場入庁.商工労政課長,建設課長などを歴任.平成16年に旧養父郡4町が合併し養父市発足.都市整備部長,助役,副市長を務め,平成20年養父市長選に出馬し初当選.現在4期目.平成26年国家戦略特区の指定を受け,農業をはじめ中山間地域の課題解決に向け,規制改革に取り組む.