赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《福井県 美浜町》
戸嶋秀樹町長

《地域の概要》福井県・美浜町
写真は,レインボーラインから臨む若狭湾と三方五湖.
《地域の概要》福井県・美浜町
人 口:
9,200 人(高齢化率37%)
面 積:
152.35 km2(人口密度60 人/km2
地域の特性:
福井県南西部に位置する海沿いの町.若狭湾のリアス式海岸の一部を成し,環境省「日本の水浴場88選」の水晶浜海水浴場や,入り組んだ5つの湖と山々が美しい三方五湖などの自然,寒ブリやサバをぬか漬けしたへしこなどの特産品が有名で,関西や中部方面より多数の観光客が訪れる.
福井県美浜町の戸嶋秀樹町長は,妊娠から出産,子育てに至るまで,包括的,継続的,部署横断的に支援することで,安心の子育てのまちを実現しているんだ! 地域愛こそが地域を動かすすべてなんだって! そんな町長の考え・思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

ふるさとを思う熱い気持ちが,人を動かす

赤ふん坊や戸嶋町長,こんにちは! 美浜町って,海もあり山も湖もあり,素晴らしい自然があふれる町だね! 特に,有名な水晶浜はじめ,その名の通り美しい浜!! 戸嶋町長はやっぱり,美しい浜で,美しい女性を口説いて,美しいふんどしをつくってもらうために,町長になったんでしょ?

戸嶋途中からおかしいよね?(汗).私はここ美浜に生まれ育ちましたので,幼少時より美浜の自然が大好きでした.長年県の職員として勤務し,そのなかで副町長として当町に赴任することもありました.前任の町長も美浜を大変愛していらっしゃいました.ご退任を受け,大好きな町,人,自然を活かした仕事をしていきたいという思いが膨らみ,立候補したんです.

坊やなるほど,大好きな町,人,自然,ふんどしのために……と.

戸嶋……ん!?

坊やじゃあ,町長は美浜町をどんな町にしたいと思ってるの?

戸嶋美浜町の特徴は,水晶浜や三方五湖をはじめ自然豊かな観光の町であること,近所づきあいが深く人の気持ちがあたたかい町であること,そして,へしこやお酒などおいしいものがあふれる町であることです.これらの特徴を活かして,町内に向けては,住んでいることに幸せと誇りを実感できるまちづくりと,夢と希望・活気あふれる産業を育むまちづくりを,町外に向けては,誰もが訪れたくなる・住みたくなる・応援したくなるまちづくりをめざしています.めざすだけではダメで,プランを推進する力が地域には必要です.それが,地域力であり行政力であると考えています.どちらも根底には地域愛が重要です.ふるさとを思う熱い気持ちが,人を動かすのです.

坊やですよね~,ボクも,ふんどしへの愛で動かされているようなものですから♪

戸嶋熱い気持ちは十分感じてるよ……(汗)

地域の声を取り込み,部署横断的にステージに応じた子育て支援を

坊やそれで美浜町は,健康・保健・福祉分野では,どんなことに取り組んでいるの?

戸嶋減塩と減量を謳った「げんげん運動」など,さまざま取り組んでいますが,近年力を入れている事業の1つに,子ども・子育て支援事業があります.美浜町では,妊娠期から子育て期までの切れ目のない包括的・継続的な総合支援を行う「子育て世代包括支援センター」と,児童虐待予防や関係課・機関との連絡調整を行い支援につなげる「子ども家庭総合支援拠点」の機能を併せもつ,「子ども・子育てサポートセンター」を令和2年4月に開設いたしました.令和3年度は,子どもや子育てに関係する教育委員会,健康福祉課,子ども・子育てサポートセンターが協働して「美浜ほっと子育て応援プロジェクト」を立ち上げ,子育て最中の親の意見を抽出する“子ども子育て会議”を開催し,町オリジナルの出産・子育て手帳「美浜っ子手帳」の発行など,13の施策に落とし込んで実施しています.この取り組みは,3つの部署が横断的にステージに応じた子育てを支援できる点と,地域のさまざまな声を活かして施策に反映し,それをさらに発展させていくことができる点で,画期的な取り組みであると感じているところです.

坊やまさに,行政力と地域力,ふんどし力ですねえ!

戸嶋さ,最後に変なのが……(汗)

地域愛は取り組みの原動力

坊やでは,美浜町はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

戸嶋これまでの30年間で人口は3割減,とりわけ15歳未満の子どもは6割減,逆に高齢者は8割増加し少子高齢化が一層進んできています.若い世代が流出しがちであることが否めない状況ですが,それでも美浜がいいと戻ってくる,美浜に住み続ける人口や,美浜の外から美浜を応援してくれる人口を増やしていく必要があると考えています.そのために必要なのは,まぎれもなく「地域愛」です.地域愛は,ふるさと,第二の故郷のためにできることを頑張りたいという原動力になります.現在でも子どもたちに地域愛学習として地元のいいところを発表してもらう取り組みを行っていますが,今後はますます地域愛を醸成する施策を発出していきたいですね.

坊や地域愛,大切ですよね! ボクみたいな,地域にすこぶる愛される有能で☆完璧なご当地キャラを活用してくれてもいいですよ♪

戸嶋そういうとこ,愛せないなあ……(汗)

きめ細やかで身近な心の通う思いやりの医療を

取材の記念に,戸嶋町長と.地元が本当に好きなんだなあという思いをひしひしと感じました♡
取材の記念に,戸嶋町長と.地元が本当に好きなんだなあという思いをひしひしと感じました♡

坊やでは,町長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

戸嶋そうですね,当町にも約1,000世帯の老々世帯があり,移動手段も限られ身動きが取りづらく,不安な日々を過ごしていらっしゃいます.総合診療医の先生方が得意とされるであろう,きめ細やかで身近な心の通う思いやりの医療を,訪問診療や健康増進,健康指導等を通じて提供していただけると,地域の安心につながり,これほどありがたいことはないと感じています.そのような医師が少しでも多くなることを心から願っています.

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

戸嶋近頃,田園回帰と申しますか,コロナ禍の影響もあってさらに,田舎のよさが見直されているように感じます.おいしいお米やお魚,ゆったりとした環境,そして充実の子育て支援を用意しています.先生方もぜひ美浜で癒やされていただきたいですし,若い先生方は特に子育ての面で地域全体が支えます.地域での活躍を将来の道の1つに考えていただければ,これ以上のことはございません.

坊や本当にその通り! 下着もふんどし回帰すべきというお話でした!!

戸嶋全然違います……(涙)

坊や戸嶋町長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 20回にわたり連載させていただきましたボクの全国の旅,ここでいったん区切りとさせていただきたいと思います.また違った形で(今度はウェブで!?)皆さんにお会いできることを心待ちにしています! 次はあなたのまちにお邪魔するかも!? では,また会う日まで~☆☆☆

子育て支援と健康は切っても切れぬ関係であると自覚し,その資源を知り紹介できるようになるべし.
赤ふんウォッチ
美浜町子ども・子育てサポートセンターの様子

実際に,子ども・子育てサポートセンターを拝見してきました☆ 視界の広がる大きな空間に子どもが遊べる遊具があって,周りには相談室や授乳室などがあり,妊娠~出産~子育ての専門家がいて,まさに安心の居場所を提供されているという感じだったよ.それに,センターの隣には温泉入浴施設付きの保健福祉センターもあって,そこに訪れる地元のおじいちゃん・おばあちゃんとの交流も自然と生まれているんだって! ボクもすべり台で遊びたいなあ……え? デカいから入んない!? そんなぁ……(涙)

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 子育て支援と(将来の)健康

今回紹介した美浜町では,妊娠期から子育て期まで,包括的で横断的な支援を実現されていました.少子化のみならず,子どもの虐待や貧困が大きな社会問題となっているこの時代に,子育ての支援は非常に重要なコンテンツであることは疑いようもありませんが,子育ての支援と健康とのかかわりはどのようにどれだけあるのか,ご存じでしょうか?

実は,幼少期に経済状況が悪かった人や,虐待・貧困などの逆境体験が多かった人は,高齢になってからの健康アウトカムが悪い(死亡率1),うつ症状発生2),認知症リスク3),医療費4)など)ことがわかっているのです.子育ての支援を地域の課題と捉えて取り組むことは,ただ単に虐待の防止や貧困の支援にとどまらず,住民の将来の健康に深くかかわってくることがわかります.地域の課題に向き合い地域全体を健康にしていく使命をもつ総合診療医にとっては,無視できない視点です.

では,我々にはどのような取り組みができるのでしょうか.診療の現場での個別のアプローチでは,子育てサークルや自治体の提供されている子育て支援部署,子ども食堂など,子育てを支援してくれるサービスや子育て最中の親同士のつながりを紹介することができそうです.また,地域全体に向けてのアプローチでは,保健師さん,保育士さん,教育委員会などと協働し,子育て支援サービスの協議・実行に参画することや,上記幼少期の逆境体験と健康アウトカムの情報を提示し,子育て支援の意義を深くすることができそうです.

子育て分野はさすがに総合診療の範囲外……と考えられていた方もいらっしゃるかもしれません,これを機にまずはあなたの地域でどのような支援が繰り広げられているかを知ることから,はじめてみませんか?

文 献
  1. Tani Y, et al:Childhood socioeconomic disadvantage is associated with lower mortality in older Japanese men: the JAGES cohort study. Int J Epidemiol, 45:1226-1235, 2016[PMID:27401729]
  2. Tani Y, et al:Childhood Socioeconomic Status and Onset of Depression among Japanese Older Adults: The JAGES Prospective Cohort Study. Am J Geriatr Psychiatry, 24:717-726, 2016[PMID:27569265]
  3. Tani Y, et al:Association Between Adverse Childhood Experiences and Dementia in Older Japanese Adults. JAMA Netw Open, 3:e1920740, 2020[PMID:32031646]
  4. Isumi A, et al:Assessment of Additional Medical Costs Among Older Adults in Japan With a History of Childhood Maltreatment. JAMA Netw Open, 3:e1918681, 2020[PMID:31913494]
戸嶋秀樹(Hideki Toshima)
戸嶋秀樹町長

福井県美浜町・町長
昭和32年7月1日,福井県美浜町生まれ.鳥取大学卒業後福井県庁に入庁,平成26年4月より美浜町副町長,平成31年3月より美浜町長に就任.住民のふるさとを思う「地域愛」を活力の源泉とし,「まちづくり」推進力によって新時代の美(うま)し美浜を拓く.まちづくりの3本柱として,1.住んでいることに幸せと誇りを実感できる,2.夢と希望・活気あふれる産業を育む,3.誰もが訪れたくなる・住みたくなる・応援したくなるまちづくりを掲げ,町民と共に「幸せと誇り・夢と希望・地域愛 あふれる『美しみはま』の実現に向け日夜活動している.町長よりひと言:こんないい町はない! 根っからの「みはま」大好き人間です! !

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.