赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《大阪府 能勢町》
上森一成町長

《地域の概要》大阪府・能勢町
写真は,里山の原風景広がる能勢町.
《地域の概要》大阪府・能勢町
人 口:
9,300 人(高齢化率42%)
面 積:
98.68 km2(人口密度94 人/km2
地域の特性:
大阪府の最北端に位置する,里山の原風景広がる町.町全体が標高200 m以上に位置し,都市部と5℃程度の気温差があり,「大阪の軽井沢」などと表現される.妙見信仰の山「妙見山」をはじめとする名山に囲まれ,樹齢1,000年のけやき「野間の大けやき」に代表されるように,自然のチカラみなぎる町.
大阪府能勢町の上森一成町長は,循環する里山の町を実現し,そこになじむ健康・医療を追求しているんだ! 地域全体が包まれるような連携と信頼を感じたよ! そんな町長の考え・思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

里山が未来の都市をつくる

赤ふん坊や上森町長,こんにちは! 能勢町って,大阪府内にありながら,里山の原風景の広がる,本当に美しい町だね! 昭和生まれの永遠の6歳のボクにとっては,とってもしっくりくる町だよ♪ 上森町長はやっぱり,永遠の6歳をめざして,町長になったんでしょ?

上森そ,そこはめざさないかなあ……(汗).私は能勢町で生まれ育ち,長年役場に勤めて町を見つめてきました.あるとき副町長が病に倒れ退任されることがあり,私が副町長を務めることになりました.しかし,その1年後の町長選で町長が交代され,私も退任いたしました.新しい町政は,町の進むべき施策や方向性が私とは少し違っていて,住民から遠い存在のように感じておりました.能勢を明日につなげなければならないという思いから,4年後の町長選に立候補したというわけです.

坊やなるほど,前任の町長さんは,昭和生まれで6歳はおかしいだろ!という考え方だったんですね,それはやるせないですね!!

上森いや,だから,そこじゃなく……(汗)

坊やじゃあ,町長は能勢町をどんな町にしたいと思ってるの?

上森勢町はなんといっても,里山の原風景が都市近郊にある,素晴らしい町です.これまでに,全国的に取り組まれてきた大規模開発や小規模開発を避け,耕作放棄地の減少に取り組み,農業や自然を残す努力を積み重ねてきました.行政の役割は,住民の生活を明日につなげる・続けることだと思っていますが,里山はある意味SDGsの最先端で,食料,エネルギー,経済,人材が循環しています.これからの時代に,「里山未来都市」を掲げ,「里山が未来の都市をつくる」を推進すべく,里山の在り方を追求していきたいですね.都会だけが生き残るのではなく,都会と田舎の両立が,これからの日本に不可欠と考えています.

坊やその通りですね! 皆さん,里山では,食料,エネルギー,経済,人材,ふんどしが循環しているんです!! 可能性の宝庫ですね♪

上森……ん!?

連携の素地があるからこそ,結果に結びついている

坊やそれで能勢町は,健康・保健・福祉分野では,どんなことに取り組んでいるの?

上森決して人手に恵まれているとはいえない状況ですが,地域の医師や看護師,保健師をはじめ,健康関係の専門職の皆さんは本当にがんばってくださっていて,普段から綿密に連携をとって,何をするにしても一丸となって取り組んでいただいているのです.連携の素地があるからこそ,例えば検診受診率を高めようと取り組むときも,大阪大学と連携していきいき百歳体操や家庭血圧測定を地域主体に拡散するときも,新型コロナワクチンの接種を準備・実施するときも,高い受診率・参加率・接種率といった結果に結びついているわけです.町で雇っている専門職は,役場内で活躍する保健師らと,熱意をもって町外から赴任いただいている医師の宇佐美哲郎先生をはじめとする国保診療所の職員ですが,皆さん町のためにいろいろと考え実行してくださっていて,ありがたい限りです.

坊やまさに,町全体が1本の矢になって,突き進んでいるわけですね!! あ,ちなみに,ボクの締めている六尺ふんどしも,1本の細長い布なんですよ♪

上森そ,そう……(汗)

エビデンスを整理し,町に特化した取り組みを

坊やでは,能勢町はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

上森そうですね,健康分野においても,能勢町はどういうよさを引き出すべきなのかを追求したいと考えていますので,町ならではの状況や動向に関してエビデンスを整理し,町に理想的な,能勢に特化した取り組みを進めていきたいですね.それに,これまでの取り組みで徐々に浸透していることですが,自分の健康を自分で守っていくという住民の意識づけを,ますます推進していきたいと思います.

坊やそうですよね,ほかのマネをしているだけでは,理想的とはいえませんもの! よければ,能勢町オリジナルふんどしの開発,担当しますけど?

上森お,お気持ちだけありがたくいただいておきます……(汗)

きめ細やかで身近な心の通う思いやりの医療を

取材の記念に,上森町長と.役場の中にも外にも目線が向いている,素敵な町長さんでした♡
取材の記念に,上森町長と.役場の中にも外にも目線が向いている,素敵な町長さんでした♡

坊やでは,町長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

上森そうですね,「医は仁術」といいますが,人は医療に安心や寄り添ってくれる心を求めているのだと感じます.私もかかりつけ医に安心をいただいた経験があります.そもそも医療はどのような問題にも対応する総合診療がはじまりのように考えますので,総合診療医の先生方が生活者の事情に配慮した医療,安心できる寄り添う医療を提供されることを大いに期待したいです.

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

上森能勢町は,都市から近い里山で,循環する町,SDGsの町を実現している活力ある町です.子どもも大人も,町民みんながいきいき活躍しています.どこにいても働ける時代だからこそ,生活拠点を複数持ってもらうのもいいのではないでしょうか.ぜひ一度足を運んでみていただきたいものです.

坊や本当にその通り! ふんどしも複数持ってもらうべきですもの!!

上森一緒にしないで…….

坊や上森町長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 今回はGノートがWEB化してはじめての取材でした,また機会を見つけて取材を続けたいと思います! 次はあなたのまちにお邪魔するかも!? では,またお会いしましょう~☆☆☆

地方だからこその強みを生かし,地域が花開くケアを,地域ぐるみで考える.
赤ふんウォッチ
能勢町国民健康保険診療所で,宇佐美哲郎先生と♪

実際に,町の専門職の皆さんに会いに行ってみました☆ 能勢町国民健康保険診療所は,研修で同院に訪れたことをきっかけにアツい思いで赴任した宇佐美哲郎所長をはじめ,地域を思い地域に資する精鋭たちが集結していました! 院内の連携も院外の連携も,あたたかく包み込むような雰囲気で積極的に推進されていたよ.町全体に安心感がある印象でした♪ 先生に包み込んでもらって癒やされたいなあ……え? 逆に包み込んでしまいそうだって! ? ちょっと,育ち過ぎちゃいました☆(*>▽<*)

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 「里山資本主義と健康・医療」

今回の取材で訪れた大阪府能勢町は,「大阪府」のイメージからはあまり想像されない,里山の風景が広がる町でした.お話を聞くなかでも,そのような町だからこそ,もともと連携の素地があることや,思いのある医療者が町全体を包み込んで安心を届けていることが際立っていました.このように,「都市が便利・高機能で地方が不便・機能不足」という固定観念から脱却し,里山だからこそ,地方だからこそ発揮できる優れたチカラに,地域医療分野でも注目が集まっています.

地域経済学者・藻谷浩介氏の著書である『里山資本主義―日本経済は「安心の原理」で動く』1)はご存知でしょうか.「里山資本主義」とは,「マネー資本主義」の対義語として藻谷氏らが用いたもので,「お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み,いわば安心安全のネットワークを,あらかじめ用意しておこうという実践」のことです.藻谷氏はまた,「安心のネットワークとお金が地域内を循環するのが“さとやま”であり,これが未来をつくるサブシステムである」とも述べています.里山資本主義の考え方は,日本社会が抱える地域の過疎化,少子化と急激な高齢化という問題を克服する可能性も秘めているのです.

以前筆者は機会を得て,藻谷氏らと「里山資本主義と地域医療」をテーマに鼎談させていただきました2).その際も,地域の一体感が住民活動に結びつきやすい点や,地方の総合的な医療が権利主義につながりにくい点を,“里山”の利点として指摘されていました.どうしても地方の医療は悲観的にみられることが多いですが,逆に地方だからこそ優れている点,やりやすい点に注目し,地域課題を解決する地域志向アプローチを進めることが今,求められているのです.

文 献
  1. 「里山資本主義 日本経済は『安心の原理』で動く」(藻谷浩介,NHK広島取材班/著),KADOKAWA,2013
  2. 藻谷浩介,井階友貴,伊関友伸:鼎談 里山資本主義と地域医療の共通項:地域の人のつながりが新しい価値を生む.病院,73:678-685,2014
上森一成(Kazushige Uemori)
上森一成町長

大阪府能勢町・町長
能勢町で生まれ育ち,能勢町役場へ奉職してから44年になります.この間,同僚や友人,住民の皆様方,そして家族に支えられて,今日までやって来れたのだと感謝しています.
私は,休日には所有する農地の耕作もしており,この歳になってようやく先祖から受け継いできた土地を守ることの大切さがわかってきたような気がしています.
また,山に登ることが好きで,3,000 m級の日本アルプスにも挑戦しています.登山は,よく人生に例えられることがありますが,「急がず・怯まず・諦めず」の精神でこれからも人生という登山に挑戦したいと思っています.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.