住んで安心・幸福を感じられる村
赤ふん坊や本保村長,こんにちは! 粟島って,日本海の中にポツンと浮かぶ,自然豊かな島だね! う~ん,やっぱり,赤ふんどしは日本海に映えるんだよね~☆ 村長はやっぱり,この赤ふんどしの似合う島で赤ふんどしを広めたくて,村長選に出馬したんでしょ?
本保そんなわけないでしょ(笑).私は地元・粟島浦村で役場職員をしていたんですが,そのときちょうど平成の市町村合併の話が全国で噴出していて,当時の村長が本土の自治体との合併を推進していました.しかし,他の離島自治体でも,本土自治体との合併をして一部離島化すると,若者が本土に吸い上げられてしまったり,離島から議員を立てられなくなったりと,地域が衰退する例を見聞きしていたので,粟島が不幸にならないために,明治22(1889)年の町村制施行以来合併なしの粟島はずっと残った方がよいと考え,本土からの独立を維持すべく,村長選への出馬を決意したんです.
坊やへ~,独立かあ! ! ボクもそろそろ,ふんどし連盟から独立して,ぎゃふんと言わそうかな~☆
本保だ,誰を……?(汗)
坊やじゃあ,村長はこの島をどんな島にしたいと思ってるの?
本保この島は,昔は漁業と竹産業で発展してきましたが,昭和45(1970)年頃から観光振興に乗り出しました.そのため,今でもまちを歩くと,漁船や民宿によく遭遇します.ただ,いずれも高齢化や人口減少の問題を抱えており,新しい取り組みが必要だということで,最近では本土からの小中学生の留学を受け入れる取り組み(しおかぜ留学)を展開しています.自治体は社会貢献すべきと考えておりまして,人材をとり合うのではなく,互いの自治体や国のために連携していくことが大事です.そのなかで,おのおのの自治体の特色を生かし,高め合わなくてはなりません.しおかぜ留学では,粟島での自然豊かで個性的な教育体験をもとに,留学生と島の子どもたちとが社会に貢献する人材となることを目的にしています.このような取り組みなどを通して,「住んで安心・幸福を感じられる村」をめざしているところです.
坊やあ,ボクも,「穿いて安心・幸福を感じられる赤ふん」をめざしているところだよ!
本保が,頑張ってね(汗)
看護師がマルチに活躍
坊や粟島浦村では今,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?
本保本島にはもともと60~70年前から常駐の医師はいません.なのに,県下でも平均寿命が中位であるというのが自慢です.高齢者が忙しく働いているのが健康の秘訣かと感じています.自殺はほぼ皆無で,最後の自殺は60年以上も前になります.
診療は平成13(2001)年から本土の新潟県厚生農業協同組合連合会 村上総合病院と村の診療所をインターネットでつなぎ,遠隔診療で行っています.回線を通じて診断を受け,処方を受けます.必要時は,災害ヘリ,自衛隊ヘリ,フェリー,高速船や漁師の船を使って患者を搬送しています.医師の代わりに看護師を3名体制で雇用しており,常に連絡のとれる携帯電話をもって,夜間や休日でも対応してくれています.村としては通信手段や健診の強化,本土の病院受診時の交通費補助を行っていますが,医師がいないうえに保健師もいないので,看護師の役割は多岐にわたります.医師の指示のもとで行う処置や,訪問看護,保健師的な健康増進業務と,看護師がマルチに活躍しているのです.
坊やマルチなら赤ふんどしも負けないよ! 下着,風呂敷,腹巻にターバン……すごいでしょ! !
本保そんなとこ巻いちゃダメでしょ(^_^;)
介護支援者を島で独自に養成
坊やでは,粟島浦村はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?
本保そうですね,これまで頑張ってきてくださった高齢者の皆さんに,住み慣れた空気・土地・海のもとでゆっくり過ごしていただきたい,島で長く住み続けていただきたいと思っていまして,地域包括ケアシステムを拡充する必要があります.
現状はというと,介護する世代からは,医師もいないのに面倒をみられない,行政主導で介護サービスを拡充すべき,との意見が聞かれます.しかし,サービス提供者が現れるのを待っているだけでは,何も状況は変えることができません.そこで村では,介護支援者を島で独自に養成する取り組み(介護職員初任者研修の内容の一部や家族介護向けの内容で講座を開催し,家族介護サポーターとして育成する)を実施しています.
坊やへ〜,講座で勉強するんだね.
ではここで問題です! ! ボクのふんどしは,どれ?
① 越中ふんどし ② もっこふんどし ③ 割ふんどし
本保……え?(汗)
坊やざんねーん! 答えは④ 六尺ふんどしでした~☆
本保坊や,取材は?(涙)
医学生のときから地域に入り込む
坊やでは,村長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください! !
本保そうですね,当村の遠隔診療でお世話になっている村上総合病院の小出章先生は,ご専門は脳神経外科ですが,まさに総合診療医だと感じています.出張診療で実際に来島していただくこともあるんですが,島民が話をしに診療所に立ち寄り,触れ合います.しっかりと診療してくださり,ちゃんと必要時に適切に紹介してくださいます.どんな方でも診てくれるんです.このような総合診療医のお医者さんが全国に増えれば,心強いこと間違いないですね.
坊やぼ,ボクも,どんなふんどしでも穿くようにするよぅ! 六尺ふんどしだけと言わず! ! 総合ふんどし士になるよぅ! ! !
本保み,みんな喜ぶね(汗).
坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!
本保当村では,新潟県より初期研修医の短期派遣をお世話になっていますが,ぜひ医学生のときから地域に入り込んでほしいと願っています.というのも,病院だとどうしても専門化・分業化が進んでいると思うんですが,地域医療の現場では専門業務だけでなく,地域の人と一緒にいろんなことをやらなくてはなりません.まさにウチの看護師たちがやっているような,地域全体を診ることです.それをおもしろいと思うかどうかですが,長い医師人生のなかで,少しだけでも,途中からでも,地域に出向く道があってもいいのではないでしょうか.そのようなお医者さんが増えることを,心から期待しています.
坊やその通りですね! ! ブリーフ・トランクス派の皆さん! ! 長い人生,今からでもふんどしへの転向,アリですよ♡(^_-)-☆
本保あ,アリ,かもね(汗).
坊や本保村長,今日は忙しいなかありがとう! 次回は,千葉県・市原市の小出譲治市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆
実際に,遠隔診療の現場にお邪魔しました! 診察室には診察台やカルテ机の代わりに,テレビとカメラが備わっていたよ.お邪魔したときは診療時間外だったんだけど,急変された患者さんの対応に,看護師さんが本土のお医者さんと連絡しながらあたられていました.幸いその後回復され,ヘリなどでの搬送は不要だったようだけど,役場からいつでも搬送要請ができるように,役場とも情報を連携しながら対応されていたよ.Uターンで昨年島に戻ってきた看護師の神丸惣さん曰く,「小さい頃にお世話になった島民の皆さんに囲まれて,家族のように生活をともにしながら,そのなかでヘルスエキスパートとしての役割をもっている印象です.医師がいなくて不安になることもありますが,地元のために貢献したいと思っていたので,帰って来られて嬉しいです.その分求められているもの,期待されているものが大きいので,非常にやりがいがあります」とのこと.行ってみると,本当に家族のような一体感に包まれた島だったよ☆ ボクも,ふんどし職人がいなくて不安になることもあるけど,求められているもの,期待されているものが大きいので,ふんどしエキスパートとして頑張ります!
日本にはない制度ですが,アメリカ合衆国をはじめとする海外では,一定レベルの診断・治療を行うことが認められた上級看護職「ナース・プラクティショナー(nurse practitioner:NP)」が活躍しています.診療行為だけでなく,医療過疎地域などではプライマリ・ケアの中心になっていることもあるそうです.
今回取材で訪れた粟島浦村の看護師さん方は,NPではありませんが,遠隔診療の現場においては,医師の指示のもとで処置や治療にかかわる,看護師とNPの間の役割を担っているような印象を受けました.また,診療の場面以外でも,住民からの信頼は厚く距離感も近しく,住民さん方は専門職が身近にいてくれる安心を感じていらっしゃる印象を受けました.
機会がありタイ王国の医療事情を拝見したことがありますが,同じようにプライマリ・ケアを担う看護師が地域ごとにいらっしゃり,住民の信頼を集めていました.住民に理想の医療について尋ねると,病院の医療ではなく,身近な医療者=看護師に何でも相談でき,健康を指導してもらえることだと言います.
このようなNPや看護師の活躍から,われわれプライマリ・ケア医が学ぶべき地域志向アプローチのポイントは複数あります.1つは,住民の求める理想の医療は,医療機関への物理的なaccessibilityもある程度重要でしょうが,何より医療者への心理的なaccessibilityが重要であるということです.このことは私の実施した理想の医療に関する研究1)からもうかがえる内容で(表),地域にとって理想の医療を構築する際に根底におく必要があります.次に,地域における多職種連携やタスクシフティングについてです.医師よりも心理的な壁をつくられにくい看護師等の他職種との連携およびタスクシフティングは,地域の抱える問題解決に大きな力をもたらすでしょう.最後に,医療過疎地域の医療システムにおける役割の幅の広さにも注目したいところです.人材が不足しているなら,専門職の対応する職務の幅を広げる,住民の力を活用するなどの対応が求められます.日本では制度的にNPに期待はできませんが,ソフト面では以上のような解釈で多くを参考にできそうです.
新潟県粟島浦村長
1953年誕生.島生まれの島育ち.Uターンして,役場職員を経て,「粟島のような孤立小型離島は本土の自治体と合併すべきではない」と主張し,村長選へ立候補する.2006年に村長に就任.現在三期目.
ふるさとにいつまでも安心して人が住み続けられるようにと考え,日々村長の仕事をやっている.絶滅した[粟島馬]の原風景を取り戻すため,粟島牧場を開設.2014年に粟島しおかぜ留学(他地域から小中学生の受け入れを行う)事業を開始し,粟島牧場と連携して「命の大切さを学ぶ」取り組みを行っている.
趣味は野菜づくり.老若男女問わず,交流が大好き.