市民全員が主役と思ってもらえる地域づくり
赤ふん坊や小出市長,こんにちは! 市原市って,とっても広くていろんな特徴がある市だね! そして,何と言っても,圧巻の臨海工業地帯! 市長はやっぱり,自慢の臨海工業地帯で,赤ふんどし生産量日本一をめざすために,市長になったんでしょ?
小出そんな市長いないでしょ(汗).私は地元市原で運送業を営んでいましたが,28年間も市議を務めた尊敬する先輩の引退に際し,代打として市議選に出馬,2003年から12年間市議会議員を務めました.そんななか,市議になった頃は人口も増えて市の財政も問題なかったのですが,次第に財政状況が厳しくなってきたんです.足元の課題を解決すべきではないか,課題があるときこそ自分がやるべきではないかと思い,市長選へ出馬しました.
坊や足元もいいけど,腰元もね♪ はい,赤ふん!
小出ど,どうも……?(汗)
坊や市長はこの市をどんな市にしたいと思ってるの?
小出市原市は日本の縮図ともいわれ,臨海工業地帯から市街地,里山までを含有し,かつて国府がおかれた地域でもあります.ここ市原でまちづくりが成功しなければ,どこも成功しないと思っています.ですので,2017年からの市の総合計画※は,未来創生ミーティングや未来会議,未来ワークショップを通じて市民の声と賛同を得て作成し,人口減少社会を乗り切ることをテーマとしています.そして,計画はつくって終わりではありません.この,市民の総意を得た羅針盤をもとに,「市民全員が主役と思ってもらえる地域づくり」に取り組んでいきたいと思っています.……あれ,坊やも総合計画書,持ってるね? なになに,「ふんどし総合計画」!?
坊やボクの,羅針盤です♪(*^_^*)
小出……総意,得た?(汗)
※ 総合計画:地方自治体のすべての計画の基本となり,地域づくりの最上位に位置づけられる計画
コミュニティ主体に居場所と健康的なまちをつくる
坊や市原市では今,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?
小出これまでに,三師会のご協力のもとに実現した救命救急センターの設置など,さまざまなことに取り組んでまいりましたが,先ほど言ったように,市の財政が非常に厳しい状況を十分に考慮して取り組んだのは,加齢による身体機能低下を筋肉トレーニングにより予防する「いちはら筋金近トレ体操」普及事業,
坊や企業で活躍する術を身につけた人,地域の役割を生き生きとこなす術を身につけた人,ふんどしを身につけた人は,まちづくりに前向きなんだよね~☆
小出そうそう……ん? 最後,なんて?
週1回の通いの場をめざして
坊やでは,市原市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?
小出そうですね,小児救急や企業団地の在り方など,今後計画していることも多いですが,先ほどの話と関連しては,高齢者の通いの場の創出です.当市では,住み慣れた地域で健康に安心して暮らしていただけるようにということで,高齢者の方々の週1回以上の交流をめざして取り組んでいます.いかに歩いて行けるところに居場所をつくるか,いかに外出の機会を増やすかが,人口減少時代の高齢者の健康を守る重要な視点であると考えています.ですので,「住民主体の通いの場補助事業」を展開し,通いの場の創設と運営を促進しています.「ちょうどいい距離」が重要なんです.
坊やなるほど,まさに「帯に短し
小出な,なんか違う気が……(汗).
医師や医療中心の“安心”のまちづくり
坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!
小出そうですね,専門医の先生方も非常に頑張ってくださっていますし,当市の三師会の先生方もそれぞれ高い意識で取り組んでいただいていますが,高齢者医療を考慮した際には,当然ながら看取りやアドバンス・ケア・プランニングの話が前面に出てきますので,これらのトータルケアを重視していただける,かかりつけ医の役割を担ってくださる総合診療医の先生方には,大いに期待しています.ぜひ,そういう先生が増えてほしいですね!
坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!
小出われわれ行政のなすべきことは,市民の安心・安全の創出だと考えています.今までは駅やまちなか中心の“賑わい”のまちづくりを考えてきましたが,これからは医師・医療者がかかわる“安心”のまちづくりがあってもいいのではと思います.まちに根差したまちづくり活動や,開業などの診療の展開は大歓迎で,市としてしっかりと支援したいと思っていますので,ぜひ市原に根差してご活動ください!!
坊やまさに,「住めば都,穿けばふんどし」ってわけですね!!
小出な,なんか後半が……(汗).
坊や小出市長,今日は忙しいなかありがとう! 次回は,静岡県・森町の太田康雄町長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆
実際に,「いちはら筋金近トレ体操」の様子を見てきました! お医者さんやリハビリの先生が開催するのではなく,地域の皆さんが自主的に集まって,自分たちで体操の集まりを実施されていました.みんな笑顔で,体操の会合を楽しみにされている様子がよくわかりました.お邪魔した地区で体操の誘いかけをした方にお話を聞いてみると,「体操で健康になれるのもありがたいけど,みんな,集まっておしゃべりしたりお茶を飲んだりするのが楽しみで参加してくれています.歳をとって仕事を辞め,子ども関係の役割がなくなると,だんだんと自宅以外の居場所がなくなってくるんですが,このような場所があってありがたいと言われます」とのこと.皆さん家族のように親しくされてたよ☆ ボクも,ふんどしの自主的な集まり,開きたいなあ〜☆
本連載第1回(Gノート2018年4月号掲載)で,地域の絆やつながりを表す「ソーシャル・キャピタル」の効果・効力について概説しました.地域における交流は,ソーシャル・キャピタルを構成する要素とされています.世間で叫ばれている,世界に類を見ない高齢化,高齢者世帯や独居世帯の急増も相まって,今回取材しました市原市のように,住民の交流を健康計画に活用する自治体が次第に増加しています.では,どの程度交流すれば健康になれるのでしょうか?市原市では週1回以上の交流をめざしていましたが,この数字に根拠はあるのでしょうか?
全国40自治体の高齢者を社会疫学的視点で追跡する,日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)によると,高齢者約15,000人を10年間追跡した調査で,同居者以外の他者との交流が「毎日頻繁群」と比べて,「月1~週1回未満群」では1.3~1.4倍,その後の要介護認定や認知症になりやすく,「月1回未満群」ではそれらに加えて,1.3倍早期死亡にも至りやすいという結果が得られたそうです(図).つまり,「週1回未満」の状態からが健康リスクになる可能性を提言されているということで,市原市が週1回以上の交流をめざしていることは,非常に理にかなっていると考えられます.
われわれプライマリ・ケア医が学ぶべき地域志向アプローチの1つの方向性として,地域での交流を生む活動を創出・支援することも,非常にパワフルに健康のアウトカムを改善させる可能性があります.また,その根拠としても上記は非常に有用と感じます.地域の交流,みんなで盛り上げましょう!
- 斉藤雅茂,他:健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討―10年間のAGESコホートより.日本公衆衛生雑誌,62:95-105,2015
千葉県市原市長
1960年千葉県市原市生まれ.運送会社経営を経て,2003年市原市議会議員に初当選.
以降,市議会議長などの要職を歴任しながら,連続3期12年にわたり議員を務め,2015年に市原市長に初当選,現在1期目.
これまでの延長線上の市政運営は通用しないとの思いから「変革と創造」を基本理念に新たなまちづくりを推し進めている.2017年には長年の課題であった,重篤な患者を受け入れる三次救急医療を提供する救命救急センターの設置を実現するなど,安心・安全なまちづくりには特に意欲的に取り組んでいる.
海釣り,射撃,スキーなど多趣味だが「市長就任後は行く暇がありません」