赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《京都府 宮津市》
城﨑雅文市長

《地域の概要》京都府・宮津市
写真は展望台から見た,龍にも例えられる天橋立
《地域の概要》京都府・宮津市
人 口:
18,030人(高齢化率40.8%)
面 積:
172.74 km2(人口密度104.4 人/km2
地域の特性:
日本海若狭湾に面する京都府北部のまち.特別名勝「天橋立」と海岸線一帯が国定公園をなし,天然の良港 宮津湾を擁する観光都市.丹後地方の産業・交通・文化の中心.海,里,山の自然豊かな地方都市.
京都府宮津市の城﨑雅文市長は,まちの人口減少・高齢化に対して,コミュニティ主体に健康づくりを推進していらっしゃる市長さんです! 高齢者が少しでも長く自立して/安心して過ごせるまちをめざしているんだって! ! そんな市長さんの思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

衰退と消滅の危機を感じて

赤ふん坊や城﨑市長,こんにちは! 宮津市って,日本海に面した美しい海岸線や緑豊かな山々に囲まれた,風光明媚なまちだね! そして,何と言っても日本三景の1つ・天橋立! ! 股の間から逆さに天橋立を見る「股のぞき」が有名だけど,市長はやっぱり,股のぞきがやりたくて,市長になったんでしょ?

城﨑市長にならなくてもできるでしょ(笑).私は地元宮津市の出身で,自営業の家に生まれ,商工会や自治会などのまちづくりにずっとかかわってきました.また市議会議員を1期務めました.そんな折に前市長が引退されることになりました.昨今の都市部への人口流出や超高齢社会などの問題により,愛する宮津の衰退と消滅の危機を感じておりましたので,なんとかしたいと,仲間からの後押しを受け,市長選に出馬したんです.

坊やなるほど~,市が消滅したら,股のぞきもできなくなっちゃいますもんね!

城﨑いや,股のぞきは関係なく……(汗)

坊やじゃあ,市長はこのまちをどんなまちにしたいと思ってるの?

城﨑宮津市は言わずもがな日本三景・天橋立に代表される自然豊かなまちであり,また,かねてより北前船や奈良時代の国府,千年以上の歴史ある寺院等に代表される歴史のまちでもあります.現在,京都府下の外国人観光客数は京都市に次いで第2位となっています.これからは,これらの資源をそのまま利用するだけでなく,町家を生かしたレストランや地元食材を使用した美食のまちづくりなど,総合産業としての観光を中心にまちづくりを進めていきたいと考えています.これまでの市長は行政出身だったんですが,私ははじめての民間出身市長ですので,どんどん民間の視点を入れていこうと思っています.

坊やつまり,民間の視点で,市政を「股のぞき」ってことだね! さっすが~☆

城﨑無理やり股のぞきでうまく言わなくていいから(困)

市民とともに,問題を解決していく

坊や宮津市は今,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?

城﨑当市は,40%以上の高齢化率となり,今後も若者世代の減少,さらなる高齢化の進行が予測されます.そのような状況では,予算的にも人材的にも,公ができることに限界が発生してしまいます.ここは,市民とともに,問題を解決していくことが不可欠となります.そんななか生まれて盛り上がっている市民主体の健康づくりの取り組み「健康広場」は,まさに理想的な活動と感じています.そればかりでなく,主体的な市民を支えるかかりつけ医師などの専門職や地域包括支援センターケアマネジャーなどの行政職も頑張っており,当市の地域包括ケア構築は進んでいると感じています.月1回の医療介護生活支援の勉強会を開催しており,医師会の先生方も多く参画してくださっています.顔の見える関係づくりが進んでいて,病気や療養の不安な顔から,笑顔あふれる安心のまちにどんどん近づいているように感じています.

坊やなるほどね~,不安でしかめた顔も,股のぞきで逆さに見れば,ニコニコ笑顔に見えるってワケか! ! う~ん,こりゃ一本取られましたな☆

城﨑それじゃ全然解決してないでしょ(汗)

出番をつくって,「参加できるまちづくり」を

坊やでは,宮津市はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

城﨑そうですね,宮津市も例に漏れず超高齢社会を迎えていますが,団塊の世代のピークが1つのターニングポイントになることは間違いないですので,やはり寝たきりを予防し健康寿命を延ばすことに対策を練っていきたいと思います.健康広場の活動もそうですが,日々の市民の運動などの健康づくり活動は,われわれ行政の立場で直接支えるものではなく,地域主体に取り組む必要があります.そのためにはコミュニティの機能がしっかりしている必要がありますので,コミュニティメンバーにさまざまな出番をつくって,「参加できるまちづくり」を進めていきたいですね.

坊やそれはつまり,市民の皆さんが また ・・ のぞき ・・・ に来たくなる健康づくり活動にしたいということですな! ? こりゃまた一本取られましたわい☆

城﨑さっきからうまいけど! 股のぞきから離れて離れて! !(飽)

住民に安心を与えられるお医者さんに

股のぞき,経験してきました~☆ ち,ちゃんと股の間から見えてるんだかんね! !(汗)
股のぞき,経験してきました~☆ ち,ちゃんと股の間から見えてるんだかんね! !(汗)

坊やでは,市長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

城﨑そうですね,薬を出したり点滴したりする治療はもちろんのこと,普段の日常のなかで役立つ,根拠のある生活指導を通して,亡くなる直前まで健康で過ごせるアドバイスをしてほしいですね.病気を治すことももちろん大切なことですが,自分のことが自分でできること,人間としての尊厳をできるだけ保てること,そして,満足のいく人生を歩めること,これらの支援を医療の立場からしていただけるのは,総合診療医のすばらしい役割だと思います.

取材の記念に城﨑市長と.二人で股のぞきで写ればよかったな~☆
取材の記念に城﨑市長と.二人で股のぞきで写ればよかったな~☆

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

城﨑住民にとってお医者さんって,居てもらうだけで安心できる存在なんですよね.なので,くり返しになりますが,病気を治してくれるだけではなくて,患者の不安を察知して,それに向き合ってくれる,住民に安心を与えられるお医者さんになっていただきたいです.そのようなお医者さんは当市としても大歓迎です,たくさんの「食」を用意してお待ちしております!

坊やほほう,それはつまり,病気を診るだけじゃなく,市民の心も また ・・ のぞき ・・・ 見て,こころの不安も また ・・ ,取り のぞき ・・・ ますってことかあ! 最後にコンボでやられましたなあ! !

城﨑もういいです……(涙)

坊や城﨑市長,今日は忙しいなかありがとうございました! 次回は,青森県・五所川原市の佐々木孝昌市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆

住民と地域の当たり前の営みに健康づくりを溶け込ませて,地域主体の健康づくりの発足と継続を支えよう.
赤ふんウォッチ
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実際に,宮津市の「健康広場」の様子を見てきました! 健康広場は,健康づくり活動を行政主導ではなく住民主導で進めたいという行政関係者の思いをもとに,地域に住民リーダー(健康づくり運動推進地域リーダー)を育成して,住民自主活動を勧めたところからはじまったんだって.地区ごとにリーダーさんがいらっしゃって,その方を中心に,地域の仲間で何をしようか検討されて,ある地区ではトレッキング,ある地区では体操など,自由に取り組んでいたよ.しかも,ただ単に運動,スポーツをやるだけではなくて,お茶を飲みながらおしゃべりしたり,お料理をつくってみんなで食べたり,地区同士の交流の機会をもったりと,皆さん笑顔で,楽しんでいるんだな~ということがよくわかりました.リーダーさんの心配りが素敵だな~と感じました!ボクも,地域のみんなに,心とふんどしを配れる人になりたいです♪

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 地域主体の健康づくりの推進

地域ヘルスプロモーションをコンピテンシーとして推進する総合診療医であれば,誰もが一度は,地域ヘルスプロモーションはわれわれヘルスプロバイダーだけがいくら頑張っていても推進されないと,実感しているところではないでしょうか.「健康づくりはコミュニティメンバーが主体的に取り組んでほしい」と願っている皆さん,どうすればそれがうまくいくのでしょう?

地域主体の健康づくり活動には,発足と継続の2つが必要になることは言うまでもありません.活動の基盤となる要件と継続を促進する要件を質的に調べた髙橋ら1)によると,まず前者には,「健康づくりのとらえ方の変化」「当事者としての覚悟」に加えて,「地域への愛着」「次世代への思い」「住民と行政との関係性の変化」といった要件が必要だったとのことです().住民の,自己への省察のみならず,地域や次世代への思いが要件にあがっていることもポイントですし,「住民と行政との関係性の変化」には,住民と行政(ここで行政はヘルスプロモーションにおけるコーディネーター・プロバイダー的な意味で登場しており,われわれ総合診療医もここに入ると考えられます)との役割の明確化と共通認識の構築が含まれることも重要な気づきです.

さらに,後者「継続を促進する要件」には,「目標の共有」「活動の継続性の重視」「個性の尊重と仲間づくり」があげられたとのことです.「活動の継続性の重視」とは,〈無理なくできることをする〉などが含まれる要件です.「個性の尊重と仲間づくり」の場として地域ヘルスプロモーションがあるべきというのは,重要な側面ですね.

総じて,「いかに住民や地域の当たり前の営みに,健康づくりを溶け込ませられるかが,成功のカギになる」と,この報告から感じている次第です.コーディネーター・プロバイダーには,複数の健康づくり活動を支援し,それらを競合させず協調・発展させる手腕が求められるでしょう.宮津市に続き,各地の地域ヘルスプロモーションの興隆を期待します!

表 活動の基盤となる要件と継続を促進する要件
文 献
  1. 髙橋香子, 他:住民の主体的な健康づくり活動の推進要件に関する検討.東北大学医学部保健学科紀要,19:73-80,2010
城﨑雅文(Masafumi Kizaki)
城﨑雅文市長

京都府宮津市長
1971 年,宮津市府中生まれ.国立舞鶴工業高等専門学校卒業.1993 年,父が経営していた織物会社に入社し,28 歳で同社代表就任.2014 年の宮津市議選に43 歳で初当選.1期4年間で,産業建設福祉委員会委員長,総務文教委員会委員長などを務める.2018 年7月,第18 代宮津市長に就任(1期目).世界に誇れる観光都市をめざし地域経済力を高め,若者の定住促進,子育て環境の充実など,若者が夢をもって働き,子どもたちが地域の将来に希望をもち,誰もが安心・健康に暮らせる,「夢と希望があふれ住み続けられるまちづくり」を市民と一緒になって取り組んでいきたい.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.