皆さんも1度は教育に関わる経験があるのではないでしょうか.例えば医学生が見学に来たときや初期研修医がローテートしたとき,または健康教室の講演を頼まれたときなどです.しかし教育を意識せずに「なんとなく」行った経験はないでしょうか.それでも上手くいって「ウケる」ときもあれば,思ったような手ごたえが得られず「ウケない」ときもあり,その差が何にあるのか考えたこともあるかもしれません.一体ウケる教育とウケない教育の差は何でしょうか.
ここで1つめのTipsとしてBloom's Taxonomy(ブルームのタキソノミー)という概念を紹介します.Bloomが開発した教育目標の分類学ですが,後にAndersonらによって改良され,改訂版Revised Bloom's Taxonomy(改訂版タキソノミー)として知られています1).具体的には教育目標を「認知・情意・精神運動領域」つまり「あたま・こころ・からだ」の3つの領域に分け,さらにそれぞれについてレベル分けをしています(図).
例を用いて認知領域について解説します.例えば虫垂炎の診療では,① 虫垂がどこにあるかなどを“記憶”し,② 虫垂炎に典型的な症状を“理解”し,③ 目の前の患者さんに“適応”できるまでが基本的な部分です.さらに,④ 採血や腹部CTを行い,その他の鑑別疾患について“分析”し,⑤ Alvarado score(虫垂炎のclinical decision rule)の有用性と限界について“評価”し,⑥ 診療セッティングに合わせた自分なりの診療アルゴリズムを組み立て,“創造”できるという段階まで行くと,高度な水準であることがわかります.
勉強会の組み立てにおいてもこれは重要です.学習者によって知識を記憶できるまでを目標にするのか,それとも実際に診断・治療ができるまでを目標にするのかの設定を明確にすることで,対象となる学習者のニーズに合った「ウケる」勉強会の企画をすることができるはずです.
先日,筆者は改訂版タキソノミーを用いて,院内看護師を対象としたフィジカルアセスメントに関する勉強会を行いました.認知領域だけでなく,情意領域,精神運動領域についても目標設定を行い,効果的な勉強会にすることができました.成功の秘訣は「教育目標」の設定にあるかもしれません.
さらに学習者の意欲を高めるためにはどのようにすればよいでしょうか.教育目標の設定ができても,実際にやってみると学習者の眠りを誘う内容になってしまったり,学習者の満足感やモチベーションアップにつながらなかったりしたことはないでしょうか.
ここで2つめのTipsとして「ARCS(アークス)モデル」をご紹介します.ARCSモデルとは,John M. Kellerが提唱した学習意欲の問題と対策を4つの要因に分類・整理する方法です2).学習意欲の課題について,①Attention(注意),②Relevance(関連性) ,③Confidence(自信) ,④Satisfaction(満足感)の4つのチェックポイント(作業質問)を設けて,各項目をクリアする工夫がなされているかを確かめるのです(表).
具体例を用いてARCSモデルを解説します.私たちは2017年に「第29回学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」で介護保険に関するワークショップを行いました.そのとき,学習者の意欲を上げるためにARCSモデルを用いてワークショップの構成を以下のように考えました.
このようにARCSモデルを活用し,教育の構成を練ることで,当日は楽しくかつ明日から使える知識を学べるワークショップに変容することができました.ARCSモデルを使って教育の構成を練ることで,質の担保された教育をするコツがつかめるはずです.
今回は専攻医が実践を通じて学んだ医学教育についてのTipsを2つ紹介しました.総合診療医を志す以上は教育を実践する機会が必ず訪れます.せっかくなら楽しくて身につく教育ができる総合診療医をめざしてみませんか.