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第3回 本当は怖い咽頭痛
〜危険な咽頭痛を見逃さない

阿部智史,柳 秀高(東海大学医学部付属病院家庭医プログラム)

「発熱,咽頭痛」を主訴に外来受診される方は非常に多く,その大半が感冒や急性上気道炎であることは皆さんもよくご存知のことだと思います.しかし感冒や急性上気道炎のなかに,「見逃してはいけない怖い疾患」が隠れています.今回は咽頭痛で「見逃してはいけない怖い疾患」について学び,それらを見逃さないようになることが目標です.症例をもとに怖い咽頭痛を見抜くTipsを紹介します.

症例は一部変更を加えています

●本当に怖い咽頭痛:症例1

症例:30歳代,男性

主訴:発熱,咽頭痛

現病歴:午前中に,起床時からの咽頭痛を主訴に近医受診.痛くて唾が飲み込めないとの訴えあり.間接喉頭鏡で診察したところ,咽頭の軽度発赤を認めたが喉頭蓋に異常は認めなかった.急性咽頭炎の診断で対症療法の処方をされて帰宅となった.

既往歴:特になし

この症例は若く健康な男性であり,間接喉頭鏡でも異常を認めず,当初は急性咽頭炎の診断となりました.しかし,この症例には「怖い」続きがあります.

●本当に怖い咽頭痛:症例1(その後の経過)

帰宅直後に「呼吸が苦しい」と本人から救急要請があった.救急隊接触時には心肺停止状態(心電図波形:心静止)となっていた.蘇生処置をしながら当院救急センターへと搬送された.来院後,緊急気管挿管のため喉頭展開をしたところ喉頭浮腫著明であったため(図1),輪状甲状間膜切開による気道確保を行った.急性咽頭蓋炎を起こしていた.その後蘇生処置を続け,自己心拍が再開した.

図 症例 1:浮腫が著明な喉頭

このような怖い咽頭痛を見抜くためには,どうしたらよいでしょうか.

Tips 1:killer sore throatを押さえる

咽頭痛をきたす症例のなかには上記のように致命的な怖い疾患が紛れており,killer sore throatと表現されます(表)1)に示す通り,感染症が多いです.Ludwig’s angina(口腔底蜂窩織炎)は歯から発生することの多い顎下部間隙膿瘍であり,Lemierre症候群は菌血症による血栓性頸静脈炎です.killer sore throatには感染症以外の病気も存在します.アレルギーや外的要因は病歴聴取にて鑑別することが可能ですが,症状が咽頭痛のみの急性冠症候群(ACS)や大動脈解離があることを忘れてはいけません.

表 killer sore throat 鑑別疾患1)

Tips 2:red flag signを確認する

症例1において焦点となるのは,急性喉頭蓋炎が完成して窒息をきたす前にkiller sore throatであることに気づく方法はなかったのだろうか,という点です.そこで重要となるのが咽頭痛の際の警告徴候=red flag signです.

上気道閉塞を示すred flag signはくぐもった声,嗄声,唾を飲み込めない,流涎,副雑音Strider,呼吸困難,tripod position(三脚位)です1).tripod positionは前傾姿勢で呼吸補助筋を使う呼吸のことです.症例1においては痛くて唾が飲み込めないというred flag signを認めていました.red flag signは身体所見をきちんととれば確実に見えてきます.こういった症例はよくある咽頭痛のなかに突然紛れてくるということを常に頭のなかに入れておく必要があります.


●本当に怖い咽頭痛:症例2

症例:20歳代,男性

主訴:発熱,咽頭痛

現病歴:1週間前からの発熱,咽頭痛,体幹の軽度紅斑が出現し近医を受診.血液検査で汎血球減少(WBC 2,800/μL,Hb 10.4 g/dL,Plt 8.8万/μL),異型リンパ球8%,肝機能異常(AST 78 IU/L,ALT 94 IU/L)を指摘されたため,近医より紹介受診した.身体診察で咽頭発赤と白苔を認めた(図2).

図 症例 2:受診時の咽頭所見

咽頭炎において怖いのは前述のkiller sore throatだけではないという例を紹介します.症例2は一見すると発熱,咽頭痛を主訴に来院された伝染性単核球症の一例であると予想されます.実際この後,EBVの抗体検査を提出され,EBV VCA IgM +,IgG-,EBNA-でした.しかし,EBV感染に伴う伝染性単核球症というだけでは終わりませんでした.

●本当に怖い咽頭痛:症例2(その後の経過)

発熱が持続し,当院を受診.追加の病歴聴取で,既往に急性B型肝炎があったことから,詳細に性交渉歴を聴取したところ,同性間の性交渉があったことがわかった.HIV抗体(ELISA)は陰性であったが,ウインドウピリオドによる偽陰性を疑い,HIV RNA PCRを提出したところ,陽性となった.その後ART(抗レトロウイルス療法)を開始した.

以上からEBV感染に合併した急性HIV感染症の診断となりました.B型肝炎の既往や男性の同性間性交渉などHIV感染症を疑う病歴がありました.EBV感染症では白血球増多の場合が多い,発疹もアミノペニシリン投与の場合以外ではあまり多くない,といったEBV感染よりもHIV感染が疑われるヒントがありました.しかしそういった知識以前の問題として,このケースからは標準的な病歴聴取や身体所見の重要さを学ぶことができます.発熱,咽頭痛だから,急性ウイルス感染だから,といって既往歴を聴取しなくてよいということはありません

Tips 3:急性HIV感染症のミニマムエッセンス

HIV感染6カ月以内に非特異的な症状を伴って出現する症候群を急性HIV感染症といいます.40~90%のHIV感染患者には何らかの急性症状が起こります2).症状は発熱,咽頭痛,リンパ節腫脹,発疹,筋肉痛,関節痛,下痢,体重減少,頭痛といった非特異的なものです3)

症状だけでは鑑別が難しいため,性交渉歴,麻薬静注といった病歴聴取が重要となります.粘膜皮膚潰瘍や下痢といった症状は他のウイルス感染との違いを示唆します.この症例において皮疹があったり,異型リンパ球の割合が低かったりしたことなどはHIV感染症の手掛かりとなっていました.


おわりに

発熱・咽頭痛で受診する患者のなかで,「見逃してはいけない症例」をしっかりと見極めなくてはならないということを学びました.「見逃してはいけない症例」を見つけるためにはまず,red flag signを見逃さないようにすることが重要です.そのためには何よりの基本として,きちんとした問診・身体診察を行うことが重要です.

文献

  1. Chow AW, et al:Evaluation of acute pharyngitis in adults. UptoDate, 2018
  2. DHHS Panel on Antiretroviral Guidelines for Adults and Adolescents – A Working Group of the Office of AIDS Research Advisory Council(OARAC):Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Adults and Adolescents Living with HIV. 2018(外部サイト)
  3. Vidrih JA, et al:Positive Epstein-Barr virus heterophile antibody tests in patients with primary human immunodeficiency virus infection. Am J Med, 111:192-194, 2001
  4. 「あなたも名医!夜間外来であわてない!」(上田剛士/著),日本医事新報社,2016

Profile

阿部 智史(Satoshi Abe)
東海大学医学部付属病院 総合内科
大学病院で家庭医研修をするメリットはあるのか,と問われることがあります.確かに大学病院で診るべき症例と,われわれ家庭医が診るべき症例には重症度という点で違いがあります.しかし救急・集中治療と,在宅・外来診療は表裏一体です.重症症例を診ておかないといざ急変したときに対応困難となってしまいます.このように考えて日々研修に励んでいます.
柳 秀高(Hidetaka Yanagi)
東海大学医学部付属病院 総合内科
MD,PhD,FACP,CTH
東海大学総合内科は病院総合医,内科集中治療,感染症コンサルテーション,HIV外来,院内急変対策(RRS),人工呼吸器ラウンド(RST),栄養ラウンド(NST),JMECC(日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会)主催,などを担当するとともに,外来ベースの家庭医療研修プログラムを鉄蕉会亀田ファミリークリニック館山や鉄蕉会亀田森の里病院などでの研修を含める形で運営しております.