患者さんが何をしているときにどのように症状が出現し,どのようなことで増悪寛解するのかなど,頭の中で鮮明に映像化(イメージ)できるように問診を行います.例えると,自分で患者再現VTRを作成できるように病歴を聴取します.コツとしては,自分を患者さんの立場に置き換えて追体験するイメージで病歴聴取を行います.こうすることで,価値の高い臨床情報を得ることができ,また不足している臨床情報に気づくことができます.
特に,症状が出現したときの様子やその際の対処行動においては,詳細な問診をすることにより診断の一助となる場合があります.例えば,めまいの患者さんでは,朝目を覚ましたときからなのか,日中歩いているときなのかなど症状を自覚する場面をまず想起し,その状況に応じて,起床時であれば開眼時なのか,ベッドから立ち上がったときなのか,さらに体や頭を回旋させたときなのか,どちらの手を使って起き上がるのか,手は使わないのかなどを確認します.また,めまいを自覚したため座位から臥位の状態に戻り様子をみたのか,あるいは座位の状態で症状の改善を待ち,その後通常通りの生活をはじめたかなど,症状出現後の行動を確認します.問診を進めつつ,疾患を想起し,疾患特異性を確認していきます.
患者受療行動とは,患者さんがその病院を受診した経緯のことです.患者受療行動を探ることは,診断推論を行ううえでも有用な手がかりとなり,特に日常診療で手がかりとなる患者受療行動をbehavior-based medical diagnosisと呼んでいます(表).例を挙げて考えてみましょう.
〈例〉『38歳男性.2日前に後頸部痛が出現.症状は自然に軽快したが,本日受診した.』
「症状が軽快しているのに,なんで受診したんだろう?」と感じると思います.このように患者受療行動に違和感を感じるときこそ注意が必要です.受療に疑問を感じるとき,例えば患者さん自身では言語化できない症状があることが考えられます.それを把握する方略の1つが患者受療行動なのです.実は,この事例はくも膜下出血の診断となったケースで,表の“軽症にもかかわらず受診”に該当します.
また,患者受療行動を探ることは,診断推論に活用する以外にも,患者さんのニーズを早い段階で把握し,患者さんの志向を加味したマネジメントにつながり,患者満足度向上にも寄与します.
心因疾患はしばしば器質疾患の除外診断として判断されることがありますが,心因疾患の特徴を見極め,除外診断ではなく積極的に疑い問診していきます.
心因疾患を見分ける一助となるスコアリングとしてA-MUPSがあります1).① 鎮静薬の無効,② 精神疾患の既往,③ 寛解俗悪因子が不明確,④ 絶え間ない持続,⑤ ストレスの5項目で評価します.項目が多いほど身体症状症の可能性が高く,2項目以上で感度92%,特異度85%との報告があります1).
胸痛や腹痛などの主訴で受診した方での問診の際にも,いわゆるred flag signが認められず,寛解増悪因子がはっきりしないときには,上記A-MUPSのスコアリングの項目を追加で聴取します.疼痛の程度が軽いにもかかわらず,訴えが強く,日常生活の制限が顕著である場合には心理社会的側面に重点をおいた問診を追加します.例えば,10代であれば学校生活について,40代であれば義理の親や家族との関係性や介護の状況について確認し,ストレスや日常生活への影響を把握します.過度なストレス下では不安や抑うつを誘発し,それらの要素を認める際には軽度な症状であっても自覚症状に過敏になり訴えが強くなることがあります.
外来では短い時間で診断し治療方針を決めなければなりません.患者さんの情報を的確に聴取し,心理社会的側面まで評価することで患者さんの問題点を抽出することも重要です.内科的疾患に留まらず,心理社会的問題点にも配慮し,解決の指針を提示することで,患者満足度の向上にもつながります.今回の外来診療のTipsを参考にしていただき,皆様方の日常診療の一助になれば幸いです.