特集座談会「パーキンソン病診療 地域で今,何が起きているのか?」

特集座談会にお集まりいただいた先生方

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神経難病パーキンソン病.神奈川県川崎市多摩区では,この難病患者を地域の多職種で一丸となって支える動きが広がっている.多摩区で何が起きているのか?―6名の先生方にお話をいただきました.

大橋本日は多摩区内で活躍されている多職種の皆さんにお集まりいただきました.パーキンソン病(以下,PD)という今回のテーマですが,この地域では今までPD患者さんで皆がすごく悩んでいて,それを地域でどうやって解決していくか?というところで“ある勉強会”を立ち上げ,その後に地域が少しずつ変わっていったという経験があります.今日はそういう経験や過去の問題意識というのを皆さんにお聞きしながら,「地域のPD診療力をどうやって上げていくか」について議論をできればと思っています.よろしくお願いします.

「ロコモ,フレイル」「寝たきり,認知症」→実はPDだった!?

大橋まず,“今まで”というのはどちらかというと,PDの患者さんがいたとなったら,僕ら非専門医が脳神経内科の先生に紹介する.そして,脳神経内科の先生は,寝たきりなどの通えなくなった患者さんを逆紹介する(特集❻).あるいは,誤嚥性肺炎になったから入院といった,病態に応じたいわゆる紹介・逆紹介という形の病診連携がほとんどでした.その時代のときに皆さんそれぞれ悩みや「これが地域で問題だ!」というのが色々あったかと思うのですが,まずは専門医の立場から,加茂先生いかがですか.

加茂専門医にとって一番悲しいことはヤール5で来る患者さんです.どうして今まで医療機関にかからなかったのだろうか?と.もちろん,ヤール5になっても治療は可能で良くなります.でも,歩きにくい・歩けない生活は大変です.だから,もっと早く治療できていれば,今までももう少し楽な生活を送れたのに…ということがあるんですよね.最近は「ロコモ」「フレイル」という言葉があり,よく非専門医の先生がヤール5で来る患者さんに「運動不足だからですよ.運動しないからこうなっちゃうんですよ」と伝えてしまっています.そうではなく,もう少し早く気づいていただけたら…というのが一番の悩みでしたね.特集❶

大橋博樹先生

大橋博樹(Hiroki Ohashi)

常勤医4名すべてが総合診療医のクリニックの院長です.Gノートでは子どもの診療から高齢者のケアまで,幅広い内容の特集を編集する機会をいただきました.その度に私の総合診療力もupしています! まだまだ成長し続ける総合診療医でありたいです.

大橋確かに,ロコモ予防・フレイル予防という名の下で「筋力をつけましょう」と,これはもうキャンペーンとして皆やっています.でも,実はロコモ・フレイルとされたなかにPDが隠れていることが見逃されていて,ヤール5になって初めて気づかれる,ということですね.PDはどんどん進行していくのに,それをロコモ・フレイルの予防という形で筋トレだけを強いている.白石先生はいかがですか.

白石病院の場合に一番課題となるのは,患者さんがいずれ通えなくなり病院で診ていけなくなったときに,地域に戻したくてもなかなか戻せなかったり,戻せても知らないうちにPDの薬が抜けてしまったりということです.やっぱりPDの知識がないと薬の重要さもなかなか伝わらないですし.それで戻すのは非常に難しいなと今までは結構感じていました.特集❷

大橋そうですよね.PDに対して地域全体のなかでちょっと食わず嫌い的なイメージがあったのかなと思います.
訪問看護の立場からはいかがですか.PD患者さんの依頼が来たときに,今までどんな印象をもっていましたか.

藤田実際に依頼が来るとなるとヤール3以上の方,つまり,排便コントロールができない,ちょっとおかしな言動がある,薬がうまく飲めないといった方がほとんどで,初期の,まだ動ける方ということがほとんどなかったんですね.ですので,加茂先生からもあったように,いざもっと前から来ていれば,もっともっと有意義な時間があっただろうにと.
あと,これはPDだからではないのですが,患者さんもそれなりの年齢なので,いわゆる頑固さも増していて,家のなかに入れるということ,指示を受けるということがなかなか難しいんですね.依頼が早めに来れば私たちの入り方ももう少し変わってくるし,困ってから・・ではなく困る前に・・介入できたらと思うケースが結構多いというのが今までの感じでした.

大橋なるほど.ケアマネジャー(以下,ケアマネ)の方から見ても,生活面で「この人なんかかわいそうじゃない?」というPDの方がすごくいたのではないかと思うのですが,いかがでしょう.

中馬加茂先生のクリニック立ち上げの頃(2011年開業)から,多摩区のケアマネ連絡会では「PDを理解したい!」と先生に詳しい説明をお願いしたことがあり,「PDじゃないか?」と疑うような目で見て考えるというのは割と早くできていたかなと思います.ただ,いざ「PDじゃないか!?」と感じたときに,主治医は違う先生なのでいきなり専門医のところには行けません.でも,ケアマネから「PDっぽくないですか?」とは言えないし,主治医にどう伝えて紹介状につなげたらいいのだろうというのが最初の頃はすごく難しくて.私たちはやっぱり判断をしてはいけないので,事実だけを伝えて主治医に気づいてもらうにはどうしたら?とパソコンの前で格闘していました.

大橋それは大変ですよね.

中馬あと,やっぱり家族にどう説明していいのかわからないまま一時的にPDが進行してしまったときに,「もう無理よ」とすぐに施設に入れられてしまうんですよね.

加茂 力先生

加茂 力(Tsutomu Kamo)

開業する前は川崎市立多摩病院にて神経内科部長と総合診療科副部長を兼任して勤務していました.ミシガン大学家庭医療科プログラムを研修し,総合診療を学んだ経験があります.

加茂そう,そうなんですよ!

中馬正しいPDの治療につながる前に施設に行かれてしまうと,主治医から何から全部変わってしまう…

加茂ケアマネさんも変わりますしね.

大橋すごく大事な指摘です.家族が「施設に」と言う理由が,介護度が単純に上がって本当に自宅では難しいのか,それともPDの治療をしっかりやれば介護度をより軽くできるのに,それをしないがためにギブアップしているのかでは全然違う.その評価を,実はこの地域のなかで誰もできていなかったというのもあるかもしれないですね.

加茂もう一つ,今のポイントは,おそらく近くに専門医がいない場合なんていくらでもあると思うんですよね(特集❼).その場合に,「ちょっとこれPDっぽくない?」という相談が電話やメールで気軽にできるかどうかが,地域のPDを見つけるときの鍵になる.そのためには脳神経内科医がハードルを下げないといけないと思います.

大橋ありがとうございます.疑ったとき,あるいは白石先生のお話にあった薬で困ったときなどに「気軽な相談」ができる,それだけで避けられることもあるかと思います.
理学療法士の立場からはいかがですか.現状では,「PDのリハビリテーション(以下,リハ)」といっても,どんなことをやればいいか,まだまだ知られていないというのがあると思いますが.

三上まず,病初期であっても,患者さんも家族も,「PDという進行性の重い病気になってしまったからあまり運動できないんじゃないか」と思ってしまい,かえって運動量を抑えてしまうということがあります.結局,そういう誤った知識に基づいて生活していると二次的にフレイルやロコモが起こってきてしまうという現象がありますね.また,PDの方はちょっと姿勢が悪くなるため,単に姿勢を直すためのストレッチになりがちということが結構あります.
本当は,病初期の場合は,心肺系などに問題がなければ高強度の運動をしていった方が長期に運動機能が保たれますし,抗PD薬の増量も長期に抑制できます.ですので,正しい知識に基づいてしっかり運動量を上げるリハをやっていくことが大事だと思っています.

大橋「正しい知識」.ここまでの皆さんのお話では,やっぱりPDに対する知識不足というのがすごく大きかったということですね.僕自身も総合診療医としてやっていて,姿勢保持障害が出る前の患者さんをいかに見つけるかということに関してはすごく自信がなかったです.加茂先生に教えてもらって後から気づいてハッとしたり.また,“寝たきり”ということで在宅で診ていた方で,「でも,この年齢で寝たきりで認知症ってないよな?」と思って加茂先生に相談してみると,実は変性疾患の神経難病で薬がある程度効くということがわかったり.僕のなかで特に衝撃的だったのが,ここ数年,特別養護老人ホーム(以下,特養)の患者さんを担当するようになって,もしかしたら寝たきりで認知症とされている人のなかに,介入すれば良くなる可能性のある人が実は結構いるのではないかと感じたことでした.「これは地域でなんとかしなきゃいけない!」という思いが出てきて,加茂先生にも相談して…というようなところでした.

加茂これは専門医の力不足なのですが,PDのような難しい病気に関しては,やっぱり今まで「専門医が診るんだ!」というところがあったんですよね.それが知識を広められていない一番の原因かなと思います.

大橋僕は,PDの診断に関しては必ず脳神経内科の先生に診てもらった方がいいと今でも思っているのですが,そもそも専門医につなげるという行為がないと患者さんがPDだと気づいてもらえないというのがやっぱり一番大きいところかなと思っています.

まずPDを“正しく”知ろう! そして多職種で“一緒に”理解しよう! !

大橋ここでちょっと,専門医の先生が非専門医に一番気づいてもらいたいところ,特に姿勢保持障害が出る前,こんな症状はPDが疑われるのでぜひ診てほしいというところについて,ポイントを簡単に教えていただけますか.

白石 眞先生

白石 眞(Makoto Shiraishi)

高齢人口の増加に伴い,PDを含む神経変性疾患の罹病者数が急増しています.脳神経内科医は総合診療医と連携し,専門医療を提供して多職種の一員になれればと思います.

加茂最初に「震え」が出てくればまず気づくので,問題は震えのない患者さんですね,そこをどう把握・判断できるかです.一番主体となる症状のなかで「無動・寡動」という,動作が緩慢になって遅くなるという症状があり,進行もゆっくりなんです.これに対して,「年をとれば誰でも遅くなる」というイメージでいると,「年をとったせいでは?」となってしまいます.特集❶

白石あと,PDでは早期から運動症状に加えて非運動症状があるということが最近だいぶわかってきています.発症する前から割と高度な便秘があったり,夜に泣き叫んでしまうようなレム睡眠行動障害があったり.うつ病,老人性うつという形で間違えられるケースもよくあります.そういった非運動症状というものにも少し注目して診ていただけると,診断につながる率が少しずつ上がってくるのではないかと思います.

大橋無動・寡動に,非運動症状ですね.僕ら非専門医も気をつけないといけないですね.ただ,こういう症状って,医師の診察のなかだけで見つけるのは実は結構難しいというのがあるかと.むしろ,訪問看護のなかで気づくことや,リハのなか,ケアプラン相談のなかで気づくこともあるだろうと思われます.やっぱりPDの理解を多職種に広めていかないと,患者さんは脳神経内科にアクセスできないままなのではないか!? そのような機運が地域で高まっていき,2017年に PNT(Parkinson’s disease Network in Tama)という多職種勉強会ができました.加茂先生,PNTの立ち上げ時に問題や困難に感じたことはありましたか.

加茂私は比較的,自分は地域に出て行くのを厭わないタイプだと思うのですが,それでも,誰に相談すればこういう会が立ち上げられるのか,いろんな職種の方が呼べるのかがわからなかったというのが一番のハードルでした.ケアマネさんの会に呼んでもらったりするなかで,各キーパーソンの方に声をかけられたというのが最大のポイントだと思います.

大橋ケアマネさんたちは,こういう勉強会が始まると聞いたとき,どういう反応だったのでしょう.

中馬「有難いことだね,嬉しいね」という声が多かったです.多職種で,医療と介護とでさまざまな視点をもつなかで,かつ,PDという一つの病気に特化しての勉強会で,皆にどうやって理解をしてもらうか,同じ認識を広げられるかという課題はありましたが,このチャンスをもらえたのはすごく嬉しかったですし,トップダウンで「やるぞ!」ではなく,「一緒にやろうよ!」という声がけだったのが本当に有り難かったです.

大橋この地域にはもともと「チーム多摩」という組織があって,とにかくすべての職種,関わる人たちの顔が見える関係を,フラットな関係をつくろうという活動がその当時数年続いていて,おそらく加茂先生の先ほどの“ハードル”に対して応えられる素地はかなりできていたかと.そこにこのPDという具体的な課題が出てきたというのもすごくタイムリーだったのではないかと思います.
実際に多職種での企画をしてみて僕自身が一番悩んだのは,どのようなレベル設定で皆の学びを深めていったらいいのか?ということです.医師,ケアマネ,理学療法士・作業療法士(PT・OT),訪問看護師,訪問介護員(ホームヘルパー),薬剤師,病院のソーシャルワーカーの計7職種もいたので.

加茂自分が市民健康講座などで講演していて思うのが,やっぱり患者さんにわかるくらいのレベルでしっかり答えられるというのが一番重要だということです.だからレベル設定としては,患者さんにわかるレベルでいいと思うんですよね.

大橋そこはすごく大事だったと思います.どうやらレベルを基礎にしても「つまんない」という職種の人はいないような,そんな雰囲気はありましたよね.あと,PNTでは最初にレクチャー,その後にグループディスカッションを行うのですが,基礎レベルであっても皆がディスカッションする内容がやっぱりあるというのが大きかったかと.

加茂グループ分けを職種別にしないことですよね.どのグループにもすべての職種が入るようにして,ディスカッションのテーマも「日常あるある」にするというのがポイントだと思います.

大橋藤田先生は実際にグループディスカッションに参加してみていかがでしたか.

藤田友美先生

藤田友美(Tomomi Fujita)

大学病院に15年勤務し,内科・外科・手術室・透析室等で多様な経験を積み,2007年のステーション開設から「街の看護師さん」として日々奔走しています.

藤田そうですね.お互いに顔は知っているし,PDというテーマがあったので話は進んではいたのですが,最初はやっぱり誰が主でやるかとか,そういうところがなかなか見てとれなかったりして,なんとも言えない感じがあったかなと思います(笑).でも,すごいのは,続けていくうちに皆からどんどん意見が出てきて.

大橋最初は,グループのなかで,職種関係なく経験の差があった感じですよね.それがだんだん解消されていくというのはなんだか面白かったですよね.

加茂初回のPNTの集計をしてみると,一番意見を言っていたのはケアマネさん.ケアマネさんは,実際に家庭まで入って患者さんを見ているので,「変な症状だな,これは何なんだろう」と疑問に思っていることがやっぱり多かった.それを皆に「こういうのがあるんです」と共有してくれたのが良かったかなと思います.

大橋そうですよね.
このPNTは年2回のペースで,第1回:疾患全体の話,第2回:治療・薬の話(特集❷),第3回:リハの話と続くのですが,僕はこのリハの回が,この会のエポックメイキングな回になった気がしていて.レクチャーの講師として三上先生ご自身はどのような思いでしたか.

三上同業のPT・OTに,脳卒中や整形疾患のリハには慣れていても,それだけでは理解できないようなPDの症状に対してもリハで介入できる可能性があるんだということをわかってもらいたいと思いましたし,他の職種の皆さんにも,「こんな症状が出たときはリハでお願いできるかも」という可能性としてリハを捉えてもらえるように意識しました.

大橋実際にPDのリハではどんなことをやったらいいかというところで,まさに目から鱗が落ちるような内容だったのですが,皆が一番驚いたという例をちょっと教えていただけますか.

中馬三和子先生

中馬三和子(Miwako Chuman)

高齢者介護に30年以上携わり,2002年からは,川崎市多摩区で「住み慣れた地域で暮らす」を目標に在宅介護支援を行っています.リフレッシュは多種多様な日本人作家の小説を読むこと.

三上すくみ足のリハですかね.すくみ足は,立っていて「その場で足を上げてください」と言われれば上がるのに,いざ歩こうとすると歩けないというものすごく不思議な症状です.でも,実は脳の機能から考えていくと,こういう手がかりを与えてあげたりすると劇的な改善がみられることもあるという例を示せたというのは,皆さんにちょっとインパクトがあったかなと.特集❹

大橋すごくありましたよ! あの回で,まず一番驚いたのは同業のPT・OTさんだったんですよね,「すくみ足に対してこんなリハがあるんだ!」と.僕も実践したいと思いました.中馬先生はどう思われましたか,リハって訪問も通所も実際はケアマネさんからの提案が多いところですが.

中馬言葉は悪いですが,いくらリハを入れても,そのPT・OTさんに,例えば「PD = 線を引いて歩いてください」くらいの認識しかないと効果がないということがわかって,そういう意味でショックでした.じゃあ,どうしたらいいの?という…

大橋まさにそこで,同業のPT・OTさんの「自分も実力を上げていかなければ」というモチベーションにもつながったし,そうなると,今度はケアマネさんや僕らもそこに依頼しようという,地域全体としてもっともっとPDのリハを高めようというふうにつながるし,PDに対して皆がポジティブになってきた感じがあの回はすごく大きかったのかなというふうに思います.

PNTでこう変わった:胃瘻へのイメージ,在宅という選択肢

大橋このように,PDそのものに対しての皆の理解がだんだんと深まってきて,するとPNTのテーマも,「実際に地域のなかでPDをどのようにケアしていったらいいか」というもう少し俯瞰的なテーマに変わってきたんですね.ひとつは,PD患者さんを支える制度について勉強しようと(特集❺).あともう一つ,PD患者さんの入退院支援について考えようというのが印象的だったかと.まず入院について,加茂先生と白石先生にちょっと詳しくお聞きしたいのですが.

加茂先ほど,「ヤール5で来る患者さん」という話をしましたが,「2〜3年前まで海外旅行に行けた人が,なんで今ヤール5になっているんだ?」ということがよくあります.大体が,最初に歩行障害で転倒して,大腿骨頸部骨折を受傷しての入院です.でもその場合,脳神経内科ではなく整形外科に入院するわけですよね.そうすると,なぜ転んだのか?というのが検索されないまま骨折の治療をされて,多くはその後に回復リハに行くという流れをとって.それで8〜9ヶ月くらい経ってから,これはやっぱり家に帰せないということになって.結局,ヤール5になって施設に入ってから脳神経内科に紹介となって,実は PDだったと判明するということなんですよね.

大橋「施設に入って」というなかで,例えばそれが特養であれば,基本的に継続したリハはないわけですよね.継続したリハを受ける環境にないところで「PDだ」と言われてしまうというのは実はかなり悲劇的なことで,どうやってマネジメントすればそういう悲惨な転帰を避けられるかというのは,地域ぐるみで考えないといけない,すごく大きな問題提起だったと思います.
あと,訪問診療では,どうしても誤嚥性肺炎を起こしてしまって入院というケースがあるのですが,それについてはいかがですか.

白石PDの場合,薬が通れば必ず良くなるのですが,嚥下が悪くなってしまうと,今度は食事もとれなくなってしまって栄養状態もかなり悪くなってきます.そのときのコントロールは難しく,大学病院ではいったん胃瘻をつくって在宅に戻すことを勧めているのですが,やっぱりまだそこの連携がなかなかできないというところが今の悩みの一つですね.特集❸ 特集❻

大橋ちょっと,大事なところなので,胃瘻についていいですか.僕ら総合診療医は胃瘻にはどうしてもネガティブな思いが,すごく罪悪感があったりするのですが,僕は本当に今回,地域でPDを診ていて, PDを良くするために,つまりADLを上げるためにあえて胃瘻を選択することも重要なんだということを学びました.

加茂胃瘻については,患者さんや家族の反応も「延命治療でしょう」と,「そこまでして生き長らえるようなことはしたくない」という気持ちが大きいんですよね.もちろんそういう疾患もありますが,PDの場合にはやっぱり薬が入れば効くんですよね.だから,胃瘻はあくまで「薬を投与する」という目的のためであって,そして薬が入ることでまた食べられるようになるということがあるので,PDで誤嚥性肺炎をくり返すという場合だったら胃瘻はつくるべきだと私も思います.“口から食べる”ために胃瘻があるという考え方です.患者さんの認知機能が低下していても喜怒哀楽の感情はちゃんと残っているので,そういう人たちをちゃんと助けてあげないといけない.そこが一番ポイントだと思いますね.

白石これはやっぱり「進行期か,終末期か」という考え方だと思うんですよね.「胃瘻 = すべてが終末期」というふうに考えちゃうんですね.でもPDはある程度リカバリーする要素がかなりあるので,そういった病気は終末期ではなく進行期であって,進行期に対する治療という考え方にもう少しシフトしていく必要性があるんじゃないかなと思います.

大橋ありがとうございます.
次に,退院支援についてですが,ひとつは先ほどもあったように,PDが悪化して起こった事象に対して,入院中にいかに脳神経内科につなげるかということを病院内でも考えてもらうということ.あともう一つは,退院先をどう選択するかということです.これについては中馬先生いかがですか.

三上恭平先生

三上恭平(Kyohei Mikami)

パーキンソン病をはじめとした神経難病のリハビリに従事.日本理学療法士協会認定理学療法士(神経・筋).

中馬施設もいろいろありますが,やっぱり経済的に多くの場合は特養か介護老人保険施設(以下,老健)かの二択となります.特養は今,要介護3以上,つまり,すでに歩行を諦めたくらいの方しか入れないわけです.ですので,それ以外の方は老健となりますが,老健のリハはロコモ・フレイルの考え方でやっているところが多いと思います.やっぱり在宅を,いろんな選択肢を院内にいるときに話し合いたい,在宅もしくは施設を選択したときの良い点・悪い点について院内でまず話し合いをさせていただきたいと私は思うんですね.介護保険も使えばそれだけ自己負担がありますし,すぐに限度額・単位数がオーバーするなかで,その方々の事情に合わせて「こういう組み合わせでやっていくと,ここまでできますよ」という提案は,院内にいるときにしたいなと思います.
もう一つは,悪くなった症状が入院して改善したのであれば,この患者さんは院内でどういうふうに過ごして,今ここまで良くなったのかという点は共有してほしい,具体的には24時間のタイムテーブルが知りたいですね.家に帰って同じリズムでいかなかったら,入院前に戻ってしまったら,また悪化して同じことのくり返しになるかもしれないので.

大橋そうですよね.PDに関しては,施設という選択をかなり安易にしてしまっていないかというのは,以前の僕らの自己反省としてちょっとあったのではないかと思います.それが,PNTで学んだことで,「退院先としての在宅」ということに皆が少しずつ前向きになってきたように思うのですが,在宅での具体的なことについて藤田先生いかがでしょう.

藤田在宅に帰るにあたっては,日々の生活をみるホームヘルパーさんがPDの知識をもったことがすごく大きいなと思います.私たち看護師が入れるのは頑張って週2回くらいというのがほとんどなのですが,ヘルパーさんは毎日,朝・昼・晩を家族とともにみます.そのヘルパーさんがすごく気づきの目をもって,「これ,勉強会で見たアレだよね」という形で言ってくれることが多くなった.連絡ノートの内容からも,以前とは言葉や見方がだいぶ変わってきたことがすごくよくわかりました.PNTをやることで,患者さんの情報がより良い形で得られ,それをさらに医師につないで,「それだったら…」という話ができるようになったというふうに思います.

加茂医師も,専門医であっても非常に勉強になっていて,例えばさっきの経済負担の話で,実際にどのくらいお金がかかるかをイメージできる医師ってまずいないと思うんですよね.あと,医師は患者さんがどんな生活をしているのか,わかってないんですよ.診察に来るときはだいたいonのとき,調子がすごく良い状態にもっていって外来に来ているから,いつもそうなんだろうなというふうに思っちゃうんだけど,このPNTをやってから,「もしかするとこの症状パンディングかも」というのを知らせてくれるので,「あぁ,そうなんだ.家ではそんなことやってるんだ」と.医師も他職種の皆さんから学んでいるところが非常にあると思いますね.

大橋僕がこの退院支援のところで大きかったと思うのは,基幹病院の退院支援ナースとソーシャルワーカーさんもPNTに参加していることです.「病院の退院支援もまだまだ変わる必要があるんだ」,「自分たちも在宅のことをもっと理解したいんだ」という病院側の思いを勉強会でひしひしと感じることができたのは大きいかなと.PNTで病院も在宅もすごくフラットに,入退院支援も含めてできたというのは,実は隠れた大きなテーマであり,すごい進歩であったのかなというふうに思っています.

知れば気づける,連携できる.地域の診療力が上がっていく

大橋こんな形で2年間PNTをやってきて,皆さんが地域で実感されている実践での変化は他にありますか.

藤田いろいろあるのですが,ひとつは,以前より薬剤師さんも在宅に入るケースが多くなったと思います.たぶんケアマネさんたちが,PDでは服薬がすごく重要なこと,看護師がセットするにも余力がなかなかないことをよく理解してくださって,専門家を入るべきということで薬局さんを入れてくださっているのだと思います.

大橋薬局さんも積極的になってきましたよね.今まで,服薬管理って実は看護師さんもやってくれていて,ただPDはやっぱり飲むタイミングがすごく難しいものだし,剤形によっても全然違うし,あと飲ませ方や飲むときの姿勢によっても違ってくるんですよね.ですから,薬剤師さんと看護師さんとPT・OTさん,皆が協力して重なり合ってやっていく方がうまくいく.それがPNTのディスカッションで見えてきて実践につながったというのは確かにありましたよね.

加茂ヤール3で誤嚥性肺炎で入院した方が,「嚥下もうできません」となって胃瘻ができたんですね.入院後はヤール5の状態で,バルーンも入ってしまって.ただ,PDでオフの状態で嚥下機能を評価しても絶対に誤嚥になるわけです.でもやっぱり専門医でなければ,本当にon/offというのがわかっていなければ評価は難しい.そういう状況で退院するというときに,PNTに参加しているケアマネさんが「ヤール3で入院したのに退院時はヤール5って,それはおかしい」と思って家族と一緒に私のところに連れてきてくれたんです.私は「必ず良くなるから」と言って,胃瘻から計画的に薬を入れて,次第に食べられるようになって,まず胃瘻が抜けて.そうなれば活動性も上がってくるから,バルーンも抜けて.それをすべて,三上先生にジムリハで計画を立ててやってもらって,3ヶ月くらいでヤール3に戻ったという事例があります.これもPNTでの知識の共有のおかげです.

大橋やっぱり大事なのは,PDのストーリーをしっかり理解しておく,そこでちゃんと脳神経内科の先生と一緒に相談しながら,正しい療養方法を見つけていくということで,それを地域のなかで皆が共通してもっておくということですね.PNTで,本当に皆の底力が上がってきて,いろんな気づく目が増え,それによって支える力も増えていくという形になるのかなというふうに思います.

全国の総合診療医への期待「地域包括ケアの音頭取りであれ!」

大橋最後に,これ総合診療の雑誌なので(笑),読者の総合診療医に向けてメッセージをお願いできますか.

加茂まず,話のできる脳神経内科医を見つけてください.なかなか全国的に私のような専門医ばかりではないとは思いますが(笑).でも,PDもこれから必ず在宅になっていくので,そのときに病態の変化に気づける力をもって,専門医に相談してくれるというのは重要なことですね.本当に,総合診療の先生方にPDを知ってもらえれば,こんなに嬉しいことはないです.

白石脳神経内科医の悪いところは,僕がこれを言うのもなんですけど(笑),どうしても神経所見に偏ってしまうところがあるんです.でも,PDは全身病で,消化器症状もあって,自律神経症状もあって,運動症状以外に精神症状もあって,実に多彩な症状がある.むしろ,総合診療医の方が総合的に診られるところがあると思います.なかなか専門医だけでは全部診られない.やっぱり専門医も総合診療をふまえて診ていかなければいけない病気だと思います.最近,PDは非常に薬も増えてきていて,かなり生活を続けられる病気になってきていますので,もっともっと一緒に連携を図って診ていきたいなというふうに思います.

大橋ありがとうございます.やっぱり「連携」ですよね.他の地域,読者の地域でも連携してもらうために,何かアドバイスがあれば.

中馬先生の敷居を下げて,,,です.

(一同笑)

大橋大事なことです.具体的には?

中馬共通の患者さんがいる/いないに関わらず,同じ地域を皆で支えようという,仲間的なところを認めるというんですかね.ケアマネの意識の本当に悪いところで,私は大嫌いなところなのですが,「私は医療系じゃないですから」から始まる,あのセリフを言わせないようにやっぱりしたいと思うんです.そしたら私たちも知識を身につけていくしかないし,多摩区は,その辺も怖がらずに皆が勉強しやすい空気を先生が率先してつくってくださっているので有難いです.

大橋他の地域でもそれはやればできなくはないですものね!

中馬介護業界はどうしても生活支援的なものと思ってしまうんですけど,その患者さんの全体像をケアマネを中心として理解していかないとその人の生活が維持できないところをみると,やっぱり多職種で勉強会を一緒にやることで,それぞれの役割,ここまでだと思っていたことの範囲が拡がると思うんですね.そうすると,より在宅での生活の可能性を長くできると思うので,いろんな地域でこういう勉強会をやれていけたら絶対良くなると思います.

藤田同じですね.看護師としては,訪問看護指示書が先生たちからの指示ですよね.そこに,レ点のチェックしか入ってないと,なんかあんまり交流したくないのかなと思っちゃうんです.何かプラスで,例えば「困ったことがあったら外来に連絡を」とか,その他のところにでも書いておいていただけると,より話しやすく伝えやすいなと.指示書は必ず皆が目を通すものなので,そこに愛情がこもっているかどうかがわかるので(笑).
あと,やっぱり「総合診療」と聞くと,何でも来いじゃないですけど,何でもお知らせをすれば何かしら応えてくれると思っているので,私たちの「こういう疾患でこういう状態があります」を先生が拾ってくだされば,患者さんが地域で過ごせる時間がもっと長くなるんじゃないかと思っているので,もっともっと近くなっていただきたいなというふうに思っています.

大橋なるほど.三上先生,締めお願いします!

三上いやいやいや(笑).でも,敷居の話ですと,実際に顔を合わせたことのある方が増えると,こちらの敷居もやっぱり低くなるというか,顔を見たことない人に電話するのはやっぱり結構あれなんですけど,すごく連絡がしやすくなるというのがありました.
あと,PDのリハに関しては,これを言ったら先生たちに怒られちゃうのかもしれないですけど,抗PD薬でなかなか効果が出ない症状に対してこそリハが重要だったりということもあるので,リハの適応患者さんをピックアップして,どんどんオーダーしていただけたら,リハ業界も嬉しいかなと思います(笑).

大橋そうですね,そういう連絡をしやすくなる雰囲気をつくると,自ずとこういう勉強会も他の地域でもできるのではないかというのはありますよね.

三上勉強会で終わらない,というのがすごく大事ですよね.

大橋その通りです! すごく大事です.

加茂総合診療医の先生たちがすごくうまいのは,ケアマネさんとか,地域の介護の情報をよく知っているじゃないですか.そこに専門医がうまく結びつけると機能的になるのかなと思います.なので,総合診療医の先生たちに言いたいのは,やっぱり「良い脳神経内科医を見つけてください」ということです(笑).

大橋わかりました(笑).
今回はPDでやっているんですが,たぶんこういう流れって,他の疾患でも活かせるのではないかと思うんですね.例えば心不全.あとは最近僕らが思っているのは腎不全,特に新しい選択肢として腹膜透析の患者さんをどうやって在宅で管理するかというのも結構食わず嫌いで.心不全に関しては,心不全そのものを良くすることが一番の緩和ケアであるので,そこもなんだかPDとちょっと似ていると思ったりとか.他の疾患でも,PNTの考え方を十分活かせる話題がまだいっぱいあって,それに一個一個地域として取り組んでいけば,いろんなことを解決できる地域になるのかなと.そのためにも,最初にPNTができたことは,すごく大きかったのではないかなというふうに思っています.

加茂そのときに一番ポイントになるのは,優しい循環器内科医と優しい腎臓内科医をいかにゲットするかということで.

(一同笑)

中馬「優しい」が付くんですね(笑).

大橋ありがとうございます.やっぱり総合診療医というのは,いろんな疾患を広く知らなきゃいけないというのも当然あるのですが,あともう一つ大切な,今回僕が教えていただいたことは,地域の問題について,多職種を巻き込んで,地域の底力を上げるリーダーとしてやっていく役目,まさに地域包括ケアのなかで,いかにその牽引役になるかという能力がすごく求められているんだなということです.もちろん,皆さんの力があってこそなんだけれども,やっぱりその音頭をとって,「一緒にやりましょう!」と言っていく力が今後ますます求められていて,僕も本当に大変勉強になりました.本日はお忙しいなか,ありがとうございました.

☆ ☆ ☆

大橋…という感じで大丈夫ですか?

編集部あのぉ,加茂先生,「優しい専門医」はどうやったら見つかりますか?

(一同笑)

加茂厳しいなー(笑).でも,脳神経内科で言わせてもらうと,専門医の開業医が集まっている会とか結構あるんですよ.その先生たちって,やっぱり地域とどうやって結びついたらいいのか?というのがわからないんです.そこには何が介在していないかというと,総合診療医なんですよね.だから,そういう先生たちをいかに巻き込むかっていう.

大橋そこを,仲介役ではないですけど,「先生,大丈夫ですよ!」としていくのは僕ら総合診療医の出番なんですよね.

加茂総合診療の先生ってその辺のアプローチがすごくうまいんですよね.だから,絶対その地域に一人はいるはずの専門医を見つけることですよね.

大橋そう,「地域にいないんですよ,そういう先生」って言うのは,たぶん僕らもまだちゃんと探せていないということだと思います.「そういう先生が見つからない」と言う総合診療医は,まだまだ十分地域に出て行っていないというのを言っているに等しいと思って,頑張らないといけないということですよね.あー,もう一回まとめちゃった(笑)

(一同笑)

編集部ありがとうございました!

最後に
  • 撮影:花田真知子