この序文の執筆時点では,全国で新型コロナウィルス感染症が猛威をふるっています.新型コロナウィルス感染症の蔓延に伴い,日本の医療の問題点が次々とあぶりだされてきました.多くの医療機関で専門でなくとも新型コロナウィルス感染症患者に対応しなければならなくなり,「コロナ」を軸にどんな患者さんにも対応することが多くの医療者に求められています.
自分の専門外の患者さんを診療することに抵抗がある先生方が多いかもしれませんが,昔は,大半の医師が何でも診療する医師でした.どんな診療科を専門にしようと,開業すればあるいは地域の病院に赴任すれば地域を守り,何でも診療する医師が一般的でした.しかし,現在は専門診療が主流となり,何にでも対応する医師が少数派になったのではないでしょうか.「医療が進歩したから専門診療が進んで当たり前」という考え方があるかもしれません.しかし,ひとりの人間の体を臓器で分ける考え方は,医師の側の便宜で行われてきたのではないでしょうか.決して患者さんが望んだことではありません.多くの患者さんは,特定の「臓器」を診てほしいわけではなく,調子の悪い臓器をもつ「私」を診てほしいと思っています.患者さんは医師が頑なに専門診療にこだわる限り,本当に診てほしい自分を医師に見せようとはしません.
患者さんの多様な側面を診る診療科として,総合診療科があり,総合診療専門医の養成が進んでいます.しかし,残念ながら当初期待されたほどにその養成数が伸びていないのが現状です.総合診療専門医の育成を待つだけでなく,内科の専門医が総合診療の一翼を担えないかと考えたのが「Genespelist」という概念です.Genespelistは,何らかのspecialistであり,自分の専門分野に関して自信をもって診療しながら,同時にgeneral mindをもち,さまざまな診療場面で目の前の患者さんのニーズをできる限り満たす医療を提供できる医師のことを言います.そういった志をもつGenespelistが一人でも多くいることで,患者さんが安心して受診できる医療体制を構築できるのではないかと考えています.
いくら専門性の高い医療を行っている先生でも,いずれは自分の専門領域以外の患者さんを診察する機会が訪れると思います.マルチモビディティの患者さんが増えていくなか,複数の専門診療科にかかわる病態に対して,「専門外の病気を診ないといけないのはしんどい」と消極的に避けようとするか,臓器別を超えてそれらの病態に積極的に向き合うかはあなたしだいです.本書は,specialistでありながらGenespelistのユニフォームも着てみようという先生方,自分の専門以外の知見を増やしたいと思っている先生方,そしてすでにgeneralistやGenespelistとして活躍する先生方のニーズに応える内容になるよう企画しました.内科領域のみならず,精神科領域や一般診療でよく遭遇する病態などについて,各分野のspecialistがその診療のポイントを厳選して伝授しています.さあ,specialistの先生方もこれを機会に専門外の診療へ一歩踏み出してGenespelistになりませんか.あなたの患者さんが,本当はどこを診てほしいのか語りはじめます.
“やっちゃえ! Genespelist”
2021年9月
編者(やっちゃえ! Genespelist)一同
- 奈良県立医科大学 地域医療学講座
- 赤井靖宏
- 福島県立医科大学 白河総合診療アカデミー
- 東 光久
- 医療法人八田内科医院
- 八田 告
- 市立旭川病院 総合内科
- 鈴木 聡
- 市立福知山市民病院 血液内科
- 西山大地
- 済生会京都府病院 腎臓内科
- 原 将之