miRNA,siRNAからpiRNAまで,生物種を超えて展開するsmall RNAの最新研究を紹介!新たな遺伝子発現制御メカニズムとして注目のsmall RNAの多彩な機能を第一線の研究者が解説.
目次
特集
生殖細胞形成から発生,分化を制御する
small RNAの新機能
miRNA,siRNA,piRNA,rasiRNAの多彩な役割
企画/塩見美喜子
概論〜小分子RNAはゲノム情報発現をどのように制御するか【塩見美喜子】
さまざまな生物種におけるゲノム塩基配列の解読が完了した今,「生命活動を支えるプログラム」の全面的解明につながる次の大きなステップは,膨大な数の小分子RNAの生合成経路,機能,そしてこれらの分子経路を調節する制御ネットワークを理解することにある.ゲノム情報発現における小分子RNAの役割が急速に明らかになりつつある今,本特集では,この分野における現状および将来展望ついて,多生物種にわたり概説する.
マウス生殖細胞で発現するpiRNAとsiRNA【渡部聡朗/竹田篤史】
哺乳類において,small RNA研究はmiRNA(microRNA)を中心に行われてきており,他のsmall RNAはあまり知られていなかった.しかしながら,最近,miRNAとは異なる2つのsmall RNAが,生殖細胞において発見された.1つは,精巣で発現するpiRNA(piwi-interacting RNA)である1)〜5).piRNAは大体24〜32塩基で,20〜22塩基のmiRNAより長く,その生合成経路もmiRNAの経路とは全く異なっている.もう1つは,卵細胞で発現するsiRNA(small interfering RNA)である4).これはレトロトランスポゾンに対する配列をもっており,その抑制に働いていると考えられる.
マウス精子形成過程におけるpiRNAとPIWIファミリーの機能【宮川(倉持)さとみ/後藤健吾/仲野 徹】
piRNAは,新しく同定されたsmall RNAであり,生殖細胞特異的に発現すること,PIWIファミリーのタンパク質と結合すること,などが報告されている.マウスPIWIファミリーの1つであるMILIは,精子形成過程で発現し,そのホモ変異マウスは減数分裂初期に精子形成が停止し不妊になる.また,MILI欠損マウスの精巣においては,レトロトランスポゾン遺伝子のサイレンシングの解除が認められた.精子形成過程におけるpiRNAの発現やDNAメチル化の解析などから,MILIは piRNAを介しメチル化を制御することにより,レトロトランスポゾンの転写制御に関与していると考えられる.一方,もう1つのPIWIファミリータンパク質であるMIWIは,piRNAを介して主として転写後調節に関与している可能性が高い.
ショウジョウバエ生殖細胞において特異的に起こるRNAサイレンシング【斎藤都暁/西田知訓/塩見美喜子】
RNAサイレンシングは,小分子RNAが標的認識分子として介在する遺伝子発現抑制機構である.RNA サイレンシングにおいて中心的な役割を担うタンパク質はArgonauteである.ショウジョウバエにはArgonauteをコードする遺伝子が5つ存在する.AGO1とAGO2がどの組織においても恒常的に発現する一方,Piwi,Aubergine,およびAGO3は,生殖細胞特異的に発現する.AGO1およびAGO2がそれぞれmicroRNA,siRNAを介してRNAサイレンシング機構において機能することから,Piwi,Aubergine,AGO3も生殖細胞特異的に起こるRNAサイレンシング機構において機能するであろうと推測できる.最近,この仮説を裏付けるデータが急速に蓄積しつつある.
植物で発現するsmall RNA〜ta-siRNAとnat-siRNAの生成過程と機能【田上優子/渡辺雄一郎】
small RNAを介したRNAサイレンシング経路の基本的なしくみは,動物から植物まで真核生物に広く保存されている.植物では近年,ta-siRNAやnat- siRNAといった新しい種類のsmall RNAの存在が次々と報告されている.これらのsmall RNAが動物にも存在するかどうかは現在検討されているが,植物におけるsmall RNAの多様性および重要性が示唆される.現在いくつかのグループで進行中のsmall RNAの大規模なシークエンシンングが進行中で,植物において今後も新規small RNAの発見が大いに期待される.
microRNAによるゼブラフィッシュ初期発生制御機構【三嶋雄一郎/井上邦夫】
microRNA(miRNA)は,内在性の約22塩基の小分子RNAであり,自身と相補的な配列をもつmRNA からのタンパク質合成を翻訳・mRNAの安定性レベルで抑制する.これまでに多くの生物で膨大な数のmiRNA遺伝子が同定,予測されており,その数はヒトの総遺伝子の4%を占めるとも見積もられている.しかしながら,その生理機能についてはまだほとんど明らかになっていない.本稿ではゼブラフィッシュを用いたわれわれの研究グループの結果に焦点を当て,miRNAの作用機序と多細胞生物の初期発生における役割について解説する.
RNA編集によるsmall RNA修飾と機能制御【河原行郎/西倉和子】
siRNAやmicroRNAなどのsmall RNAは,比較的長い二重鎖RNAから生成された後,標的遺伝子へと結合し,その発現量を調節している.しかし,small RNA自身の発現量や標的遺伝子への結合能力を調節するメカニズムに関しては,依然として不明な点が多い.一方,アデノシンをイノシンへと置換するRNA 編集は,その標的が二重鎖RNAであるため,最近,small RNAの機能制御に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた.本稿では,RNA編集についての概論と,small RNAの発現・機能へのかかわりについての最近の知見を紹介する.
トピックス
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