「RNA新大陸」の発見により,ますます注目が高まるnon-coding RNA.その全体像と癌や発生,ウイルス感染などの生命現象における多彩な役割を第一線の研究者が解説します .
目次
特集
RNA新大陸の発見から
non-coding RNAの機能解明に挑む
企画/林崎良英
序〜隠されていたRNA大陸 〜 新たな生命観構築への布石【林崎良英】
遺伝子の半分以上を占めるタンパク質をコードしないRNA(non-coding RNA)は遺伝情報の発現制御など重要な機能をもつことが明らかになってきた.この広大な研究分野はいわば未踏の「RNA新大陸」である.本特集では,RNAの機能とそのメカニズム,関連する生命現象について第一線の研究者にわかりやすく解説していただく.
網羅的トランスクリプトーム解析で明らかとなった「RNA新大陸」【鈴木貴紘/河合 純】
従来,ゲノムの大部分はジャンク(がらくた)であると考えられていたが,最近の研究によりゲノムの少なくとも約7割もの部分が転写されていることが明らかとなった.さらに,それら転写産物の半数以上はタンパク質をコードしないnon-coding RNAであった(RNA大陸の発見).この発見は,ゲノム科学研究にパラダイムシフトをもたらし,ここ数年急速に行われている機能性RNA研究をさらに加速することは間違いない.今まさに未知のRNA新大陸の開拓がはじまろうとしているのである.
ncRNAの関係する生体機構 遺伝子制御の新しい概念 【Ann Karlsson/林崎良英】
RNAサイレンシングに関する新たな知見により,RNAiなどの複雑なメカニズムが,ウイルスなどの外敵からの保護だけでなく,さらに重要な役割,すなわち生命活動の維持に必要な遺伝子の発現制御に必須の役割を果たしていることが明らかになってきた.本稿では,二本鎖RNAが関連する発現制御メカニズムを概観するとともに,タンパク質をコードしないRNA(ncRNA)の分類を紹介する.
構造体として機能するRNA【大内将司】
tRNAやrRNAのように,構造体として機能するncRNAの存在は古くから知られていたものの,長らくRNAには,一次配列を通して機能する分子というイメージがつきまとってきた.しかしながら,分子生物学の進展にともない,種々の構造体RNAが,標的配列との塩基対形成によってではなく,特異的な立体構造を介してさまざまな生体内プロセスに直接的に関与していることが明らかになってきた.今後,ヒトゲノムに隠された未知なる構造体RNAが,比較ゲノム科学や分子生物学の手法を駆使することによって,まだまだ発見されてくるかもしれない.
ウイルス感染制御におけるncRNAの役割【西澤雅子/柴田潤子/杉浦 亙】
近年になり動物細胞においてウイルス感染の防御機構として宿主細胞のRNAiが作用することが明らかになった.興味深いことに,ウイルスはこの対抗手段として宿主細胞のRNAiを阻害するタンパク質を保有したり,miRNAをつくりだすことが明らかになった.さらにウイルスは宿主細胞由来のmiRNAを利用して複製効率を上昇させるなど自身の複製を制御することも明らかになった.これらの知見はウイルスと宿主がどのように干渉しあいながら進化してきたかを考えるうえで興味深い.
癌遺伝子および癌抑制遺伝子としてのmicroRNAの役割【斎藤義正】
現在300以上報告されているmicroRNA(miRNA,21〜25塩基程度のnon-coding RNA)は複数のターゲット遺伝子を抑制的に制御し,細胞の増殖,分化,アポトーシスなどに重要な役割を果たしている.一部のmiRNAは癌においてその発現が低下し,また癌遺伝子をターゲットしていることから癌抑制遺伝子として機能していることが予想される.逆に一部のmiRNAは癌においてその発現が上昇しており,癌遺伝子としての役割が推測される.miRNAの発現異常と癌の発生,進展には密接な関連があり,今後,癌の診断,治療への応用が期待される.
small RNAによる発生過程の制御【岡村勝友/一色孝子】
細胞はさまざまな低分子RNA(small RNA)を発現している.small RNAはRNAi/miRNA分子機構を介して,翻訳の抑制,mRNAの分解,クロマチンの構造変化などの過程で標的を見つけるためのガイド分子として機能する.small RNAの生成や活性に必須な遺伝子の変異体の解析や,個々のsmall RNAの発現・機能解析の技術的進歩により,small RNAが発生過程の制御に重要な機能をもっていることがわかってきている.
トピックス
カレントトピックス
JmjCドメイン含有タンパク質ファミリーによるヒストンの脱メチル化【束田裕一】
膵臓β細胞の糖鎖によるグルコースホメオスタシスの制御【大坪和明】
新しい神経細胞は脳脊髄液の流れに沿って移動する【澤本和延】
ミトコンドリア病モデルマウスを用いた受精卵遺伝子治療【佐藤晃嗣/林 純一】
News & Hot Paper Digest
TRAF3〜抗ウイルス応答への架け橋〜【財賀大行/竹田 潔】
pHセンサーとしてのV-ATPaseの役割と細胞内小胞輸送制御【神崎 展】
タンパク質分解の時間的調節機構【今居 譲】
IL-13デコイ受容体の意外な機能〜線維化の促進〜【西谷真人】
連載
Update Review
上皮−間葉変換(EMT)と癌の悪性増殖〜細胞外マトリックス分子の役割【宮崎 香】
クローズアップ実験法
リアルタイムPCRにおけるコツと注意点【山下 聡】
バイオ実験ピンチ脱出法
【小笠原道生】
疾患解明Overview
第20回 筋萎縮性側索硬化症:病態解明と治療法開発の進展【阿部康二】
私が名付けた遺伝子
第16回 CAST〜アクティブ・ゾーンのメインキャスト〜【大塚稔久】
ラボレポート−独立編−
Mom-and-Pop Shopの立ち上げ〜Drexel University College of Medicine【野口英史】
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