実験医学 2008年4月号 Vol.26 No.6

リンパ管の形成機構と疾患

リンパ管新生にかかわる増殖因子の解明から,癌転移・浮腫・炎症の治療に向けて

  • 渡部徹郎,宮園浩平/企画
  • 2008年03月19日発行
  • B5判
  • 123ページ
  • ISBN 978-4-7581-0034-2
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》リンパ管は血管とともに生体内の恒常性の維持や免疫応答など生理的に重要な役割を担っているだけでなく,炎症や悪性腫瘍の転移などの病的状態にも関与している重要な器官である.その存在は100年以上前から明らかにされていたにもかかわらず,本格的に研究が進みはじめたのはここ10年ほどであり,現在も次々に新しい発見が続くホットな研究領域である.本特集ではリンパ管の生理的機能から発生を司る分子機構,さらにはリンパ管が関連する疾患とその治療法開発の最前線について最近のトピックを網羅した.

リンパ管研究をまとめた初めての特集です!シグナルや転写因子などのリンパ管形成の分子メカニズムから,リンパ管が関連する癌転移・浮腫・炎症といった病態とその治療法開発の最前線までを網羅的にご紹介します!

目次

特集

リンパ管の形成機構と疾患
リンパ管新生にかかわる増殖因子の解明から,癌転移・浮腫・炎症の治療に向けて
企画/渡部 徹郎, 宮園 浩平
概論—リンパ管というフロンティアをめざして【渡部徹郎/宮園浩平】
リンパ管は血管とともに生体内の恒常性の維持や免疫応答など生理的に重要な役割を担っているだけでなく,炎症や悪性腫瘍の転移などの病的状態にも関与している重要な器官である.その存在は100年以上前から明らかにされていたにもかかわらず,本格的に研究が進みはじめたのはここ10年ほどであり,現在も次々に新しい発見が続くホットな研究領域である.本特集ではリンパ管の生理的機能から発生を司る分子機構,さらにはリンパ管が関連する疾患とその治療法開発の最前線について最近のトピックを網羅した.
リンパ管とリンパ管内皮細胞の形態,機能,生物学的特性【河合佳子/大橋俊夫】
リンパ管系の生理機能は,血漿容積や血漿タンパク質の維持機構を介して,内部環境の恒常性保持に重要な役割を果たしているだけでなく,消化器系では長鎖脂肪,脂溶性ビタミンの吸収経路としての機能を担っている.さらに,腸リンパ装置と協調して消化管免疫系を制御している.また,癌細胞の転移路としてセンチネルリンパ節形成の理論的根拠とリンパ動態学との関連が最近注目されており,腫瘍学との関連においても重要である.本稿では,リンパ管の構造,部位による生理機能の違い,リンパ輸送様式やリンパ管内皮細胞の特性や癌転移との関連性について概説する.
リンパ管形成を司る分子機構【千葉哲博/岩間厚志】
VEGF-C/VEGFR3の発見によって,リンパ管形成を分子生物学的に研究する基礎がつくられた.この10年間で,リンパ管の生物学とともに,あらゆる病態におけるリンパ管新生の役割が注目されるようになった.リンパ管マーカーの発見,リンパ管新生評価法の確立と相まって,現在は新規リンパ管関連因子が爆発的な勢いで同定されている.本稿では,いくつかのピットフォールに注意しながら,リンパ管形成を司る分子機構の基礎から最新知見まで網羅的に紹介する.
リンパ管形成における転写因子の役割とその作用機序【渡部徹郎】
胚発生過程においてリンパ管は静脈から出芽して形成され,その後集合リンパ管などへと成熟していく.Prox1ホメオボックス転写因子やFoxC2フォークヘッド転写因子の遺伝子欠損マウスはリンパ管形成不全の表現型を呈するが,それぞれの遺伝子産物はリンパ管内皮細胞の分化そしてリンパ管の成熟において重要な役割を果たすことが近年の報告により明らかになってきた.本稿では遺伝子の変異・欠損によりリンパ管形成が異常になる転写因子について概説することにより,リンパ管形成に関する最新の知見を紹介したい.
遺伝性リンパ浮腫の発症機構とその治療法【三浦直行】
リンパ管は毛細血管から漏れ出た体液や細胞を集め,静脈に戻す役割を果たしている.リンパ管の消失や破壊によりリンパ浮腫が起こるが,フィラリア,手術,悪性腫瘍,炎症などにより起こる二次性リンパ浮腫がほとんどである.しかし,まれではあるが,遺伝的にリンパ浮腫を発症する病気がいくつかある.近年,Milroy病はVEGFR3遺伝子の,リンパ浮腫—睫毛重生症候群はFOXC2遺伝子の突然変異によることが判明した.遺伝性リンパ浮腫の研究はリンパ管形成の分子機構を明らかにしてくれる.また,リンパ浮腫の治療の試みもはじまっている.
癌リンパ節転移とリンパ管新生:シグナル伝達経路の抑制をめざして【平川聡史/橋本公二】
腫瘍リンパ管新生は,癌の所属リンパ節転移を促進し,宿主の予後不良因子となる重要な生物像である.したがって,抗リンパ管新生療法にもとづくリンパ節転移の抑制は,きわめて重要な治療戦略である.癌組織では,腫瘍細胞あるいはマクロファージが産生するVEGF-Cによりリンパ管新生が起きる.担癌マウスでは,転移リンパ節でもリンパ管新生が誘導され,リンパ行性転移の促進機序が示唆された.リンパ管内皮細胞に特異的なVEGF-C-VEGFR3シグナルを標的とし,多彩なリンパ管新生因子を産生する細胞を見据えた癌治療が期待される.
炎症におけるリンパ管の役割【岩田 要/宮園浩平】
リンパ管は血管とともに,恒常性の維持や免疫応答など生理的に重要な役割を担っているだけではなく,炎症や癌転移などの病態にも関与していることが知られている.リンパ管は炎症・免疫反応において,炎症細胞が産生する炎症性サイトカインやリンパ管増殖因子などにより,リンパ管新生を起こすとともに,接着分子やケモカインを介した樹状細胞のリンパ管内の移動を促進して,間質液の恒常性の維持や獲得免疫の始動に働いている.このようなリンパ管の変化は,皮膚炎から移植臓器の拒絶に至るまで,さまざまな炎症性の病態で報告されている.

トピックス

カレントトピックス
インフルエンザウイルスRNAゲノム複製を制御するMCM複合体【川口敦史/永田恭介】
糖ヌクレオチド輸送体SLC35D1は骨格の形成に必須である【池川志郎/古関明彦/古市達哉/平岡秀一】
なぜ大動脈弓は左側にアーチを形成するのか?【八代健太】
SRAドメインをもつNp95はメチル化DNAにDnmt1をリクルートすることによりエピジェネティックな遺伝的発現の維持を仲介する【武藤正弘/Sharif Jafar/竹林慎一郎】
News & Hot Paper Digest
海洋接着タンパク質は外科手術に使えるか?
細胞遊走進路のガイダンスとサイレント受容体CXCR7の役割
母乳という名の贈り物
広がる血管新生研究 癌治療へのインパクト

連載

クローズアップ実験法
ICON法によるDNAメチル化部位の迅速検出法【岡本晃充】
効率の上がる核酸実験法
第4回 電気泳動における変性剤としての尿素の役割【木本路子/平尾一郎】
疾患解明Overview
クオラムセンシングをターゲットとした新たな歯周病治療法の開発【阿座上弘行/恵比須繁之】
医療応用を目指した政策・行政の動向
医療分野のイノベーション実現をめざして【荒田芙美子】
研究者のためのプロフェッショナル根性論
第4回 自分のストーリーを語る「物語力」【島岡 要】
ラボレポート−独立編−
スイスでキャリアアップ—University of Geneva, Switzerland【渡辺-カスティヨン 玲香】
特別対談
基礎と臨床の相互理解が導く日本のメディカルサイエンス—鍵を握る若手教育【井村裕夫/川上浩司】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:リンパ管の形成機構と疾患〜リンパ管新生にかかわる増殖因子の解明から,癌転移・浮腫・炎症の治療に向けて
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