実験医学 2010年7月号 Vol.28 No.11

疾患発症のニッチに潜む

慢性炎症の分子プロセス

組織リモデリングから自然炎症の概念まで

  • 小川佳宏/企画
  • 2010年06月21日発行
  • B5判
  • 129ページ
  • ISBN 978-4-7581-0061-8
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

生活習慣病や癌などの各種疾患に共通する基盤病態として「慢性炎症」が注目されている.慢性炎症では,微生物感染に代表される急性炎症と異なり,長期にわたるストレス応答のために実質細胞と多様な間質細胞の相互作用が遷延化し,適応の破綻により「組織リモデリング」を生じて臓器の機能不全をもたらす.最近では,ストレスを受けた実質細胞より放出される内因性リガンドとマクロファージなどの間質細胞に発現する病原体センサーの相互作用により誘導される慢性炎症として「自然炎症」の概念も提唱されている.慢性炎症の分子機構の解明は関連疾患の発症・進展の理解と新しい診断・治療戦略の開発の手掛かりになると考えられる.

癌や生活習慣病のほか,神経変性疾患や自己免疫疾患に共通の基盤病態として注目の慢性炎症.そのメディエーター分子や各種免疫細胞の機能から,内因性リガンドによる自然炎症の概念まで,詳しくご紹介いただきます.

目次

特集

疾患発症のニッチに潜む
慢性炎症の分子プロセス
組織リモデリングから自然炎症の概念まで
企画/小川佳宏
概論―慢性炎症:生活習慣病や癌などの各種疾患に共通する基盤病態【小川佳宏】
生活習慣病や癌などの各種疾患に共通する基盤病態として「慢性炎症」が注目されている.慢性炎症では,微生物感染に代表される急性炎症と異なり,長期にわたるストレス応答のために実質細胞と多様な間質細胞の相互作用が遷延化し,適応の破綻により「組織リモデリング」を生じて臓器の機能不全をもたらす.最近では,ストレスを受けた実質細胞より放出される内因性リガンドとマクロファージなどの間質細胞に発現する病原体センサーの相互作用により誘導される慢性炎症として「自然炎症」の概念も提唱されている.慢性炎症の分子機構の解明は関連疾患の発症・進展の理解と新しい診断・治療戦略の開発の手掛かりになると考えられる.
慢性炎症性疾患と実質細胞-間質細胞相互作用【真鍋一郎】
慢性炎症は生活習慣病と癌に共通する基盤病態である.慢性炎症は,間質を主要な場所として進行し,長期にわたって続くと組織構築の改変(リモデリング)をもたらす.その過程において,間質に存在する血管細胞,線維芽細胞,免疫細胞は,お互いに,また実質細胞と密接に相互作用しながら,炎症プロセスを進展させる.線維芽細胞も,単に線維化を進めるだけではなく,多様なパラクライン因子を産出することで,炎症の促進,血管新生,実質細胞の保護や増殖といったさまざまな機能を示す.心臓においては,圧負荷に対する適応応答に心臓線維芽細胞は必須である.このような慢性炎症における細胞間の相互作用の理解は,新しい治療標的の同定につながると考えられる.
慢性炎症関連因子Angptl2
―生活習慣病・癌の分子病態における役割【門松 毅/尾池雄一】
近年,運動不足や肥満などに起因する慢性炎症が,さまざまな疾患の基盤病態として注目を集めている.慢性炎症を基盤とした病態において,鍵となる分子を明らかにし,その機能を解明することはそれらの病態の分子基盤を解明し,新たな治療法や予防法を開発するうえで重要である.われわれは,Angptl2がメタボリックシンドロームや癌などの慢性炎症を基盤としたさまざまな疾患の発症や進展に関与していることを見出しており,本稿においてその一端を概説する.
慢性炎症と発癌:炎症性微小環境による発癌機構【大島浩子/大島正伸】
感染症や慢性炎症は発癌の主要な危険因子と考えられており,非ステロイド抗炎症薬の長期服用者では発癌率が有意に低いことが疫学的に示されている.炎症反応で中心的役割を果たすTNF-αとその下流で活性化する転写因子NF-κB,そして炎症性プロスタグランジン合成酵素であるCOX-2および下流で合成されるPGE2は,どちらも癌の微小環境の重要な構成要素として発癌に関与しており,これらのシグナル経路の阻害により発癌が抑制されることが,マウスモデルを用いた研究により明らかになった.また,炎症反応において組織に浸潤するマクロファージも発癌において重要な役割を果たしており,その分子機序も次第に明らかになってきた.
病原体センサーにおける自己と病原体の識別メカニズム【三宅健介】
ハエからヒトまで保存されている病原体センサーは,病原体成分に特異的に反応し,感染防御反応を誘導する.TLR(Toll-like receptor)をはじめとする病原体センサーは,自己成分とは異なる病原体成分を認識するが,必ずしもその識別は完全ではないことがわかってきた.特に核酸に反応するTLR3,7,9は,自己由来の核酸にも応答し,自己免疫疾患に関与していることが示されつつある.自己免疫疾患において,核酸は最も代表的な自己抗原の1つである.自己免疫疾患は,これまで獲得免疫系の寛容破綻として理解されてきた.本来タンパク質に対する反応である獲得免疫が,なぜ核酸に対して過剰応答するのか,病原体センサーの発見によってその答えが明らかにされつつある.
転移土壌形成は自然炎症の破綻―S100タンパク質を中心に【丸 義朗】
肺炎起因菌に由来する外来性リガンドや抗癌剤による細胞壊死などで受動的に細胞外へ放出される内因性リガンド,これらは生命を脅かす病態の存在を生体に伝える危険信号(danger signal)である.しかし一方で気道は外来微生物に間断なく接触しつつもその生理的恒常性を維持している.これはS100A8とその受容体TLR4およびRAGEが炎症性細胞を肺へ動員することによって部分的に達成されている.本稿では,生理的状態から疾患までを包括する新概念「自然炎症」に立脚し,癌の肺転移をこれの破綻と理解することを提案する.
メタボリックシンドロームと自然炎症【菅波孝祥/小川佳宏】
メタボリックシンドロームの基盤病態として慢性炎症が注目されており,肥満の脂肪組織においても,脂肪細胞の肥大化,リンパ球やマクロファージなどの免疫担当細胞の増加,血管新生,細胞外マトリクスの過剰産生など,脂肪組織リモデリングともいうべきダイナミックな組織学的変化を生じて,脂肪組織機能障害(アディポサイトカイン産生調節の破綻)をきたす.そんななか,近年,肥満の脂肪組織において,病原体センサーTLR4と内因性リガンドである飽和脂肪酸の相互作用により誘導される自然炎症の病態生理的意義が明らかになってきた.本稿では,肥満の脂肪組織に浸潤するマクロファージに焦点を当てて,脂肪組織炎症の分子機構に関する最近の知見を概説する.

Update Review

DNAメチローム解析技術の発展と最新ストラテジー【金田篤志】

トピックス

カレントトピックス
オートファジー選択的基質p62 による抗酸化ストレス活性化機構【小松雅明】
生体リズム異常に伴う高血圧発症メカニズム【土居雅夫/岡村 均】
Gas5 non-coding RNAによる新規GR 転写調節機構【木野智重】
糖尿病,神経変性疾患と小胞体ストレスをつなぐ遺伝子WFS1【浦野文彦】
嗅覚神経地図形成の時空的制御【竹内春樹/井ノ口 霞/青木真理/坂野 仁】
News & Hot Paper Digest
脱ユビキチン化酵素による癌の制御【早河輝幸/武田弘資】
細胞骨格アクチンは細胞膜をいかにして押しているか?【武内恒成】
リボソームとRNAポリメラーゼ間において見出された新たな協調作用【古久保哲朗】
マイクロパターン技術による細胞分化の制御【田畑泰彦】
米国で初の前立腺癌治療用ワクチンProvengeが誕生【MSA Partners】

連載

クローズアップ実験法
無細胞タンパク質合成系を活用した膜タンパク質合成方法【下野和実/白水美香子/横山茂之】
【最終回】難治疾患
ナノテクノロジーに基づく新規ドラッグデリバリーシステムの臨床応用【中川俊介】
モデル生物の歴史と展望
第11回 バイオリソース・細胞性粘菌の歴史と展望—多様な有用性を秘めた社会性アメーバ【漆原秀子】
ラボレポート-留学編-
素晴らしい環境での研究,そして生活—マンハッタンより—The Rockefeller University【中太智義】
【新連載】Opinion-研究の現場から
第1回 若手研究者が考える,科学と社会の関わり【谷中冴子】

関連情報

特集企画者 Online Interview

小川佳宏先生

本コンテンツは2010年7月号「慢性炎症の分子プロセス」を編集いただいた小川佳宏先生の特集への意気込みや皆様へのメッセージを収録し配信しています.

いま、なぜ慢性炎症がおもしろいか
  • [1] いま、なぜ慢性炎症がおもしろいか

Q.今,慢性炎症に注目が集まるのはなぜでしょうか?
Q.いろいろな疾患に慢性炎症はどのように関わっているのでしょうか?
3分36秒 2010年6月8日公開

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研究分野としての慢性炎症への期待
  • [2] 研究分野としての慢性炎症への期待

Q.内分泌代謝疾患の研究をしていて,慢性炎症に取り組んだ理由を教えてください.
Q.今後,慢性炎症の研究はどのように広がっていくのでしょうか?
5分0秒 2010年6月8日公開

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世界で自分しか知らないデータを得た瞬間が研究の醍醐味
  • [3] 世界で自分しか知らないデータを得た瞬間が研究の醍醐味

Q.医師を続けながら,研究にも取り組むことになった「きっかけ」は何でしょうか?
Q.研究をやっていてよかったと思った瞬間を教えてください.
7分59秒 2010年6月8日公開

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臨床と研究の現場からのメッセージ
  • [4] 臨床と研究の現場からのメッセージ

Q.臨床医と研究者,両立の難しさとアドバンテージを教えてください.
Q.動画を見ている若手研究者へメッセージをお願いします.
3分49秒 2010年6月8日公開

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特集 Online Supplemental Data

本号特集「疾患発症のニッチに潜む慢性炎症の分子プロセス」の Supplemental DataをオンラインコンテンツとしてPodcast配信しています.以下よりダウンロードして誌面と併せてご覧ください.

脂肪組織培養上清に対するCCR2依存性細胞遊走の検討1
  • [1] 脂肪組織培養上清に対するCCR2依存性細胞遊走の検討1
  • 菅波孝祥/小川佳宏

2010年6月22日公開
本誌1720ページ,図2関連動画
Ito, A. et al.:J. Biol. Chem., 283:35715-35723, 2008

リアルタイム細胞動体測定装置を用いて,脂肪組織培養上清に対する細胞遊走を可視化したところ,CCR2を強制発現させたヒトTリンパ球系Jurkat細胞は,対照メディウムに対して全く遊走能を示さなかった.

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脂肪組織培養上清に対するCCR2依存性細胞遊走の検討2
  • [2] 脂肪組織培養上清に対するCCR2依存性細胞遊走の検討2
  • 菅波孝祥/小川佳宏

2010年6月22日公開
本誌1720ページ,図2関連動画
Ito, A. et al.:J. Biol. Chem., 283:35715-35723, 2008

CCR2を強制発現させたヒトTリンパ球系Jurkat細胞は,遺伝性肥満ob/obマウスの脂肪組織培養上清に対して強い走化性を示した.この走化性はCCR2拮抗剤の添加により著明に抑制され,また,CCR2を発現しないnative Jurkat細胞では走化性を認めなかった.

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肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化1
  • [3] 肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化1
  • 真鍋一郎

2010年6月24日公開
本誌1689ページ,図1関連動画
Nishimura, S. et al.:J. Clin. Invest., 118:710-721, 2008

肥満マウス内臓脂肪における血流。血管壁へ付着した白血球の血流速度の低下

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肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化2
  • [4] 肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化2
  • 真鍋一郎

2010年6月24日公開
本誌1689ページ,図1関連動画
Nishimura, S. et al.:J. Clin. Invest., 118:710-721, 2008

肥満マウス内臓脂肪血管における白血球のローリング

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肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化3
  • [5] 肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化3
  • 真鍋一郎

2010年6月24日公開
本誌1689ページ,図1関連動画
Nishimura, S. et al.:J. Clin. Invest., 118:710-721, 2008

肥満マウス内臓脂肪血管における白血球のfirm adhesion

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Windows Media Player用 Windows Media Player用 wmv形式 784KB ダウンロード
肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化4
  • [6] 肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化4
  • 真鍋一郎

2010年6月24日公開
本誌1689ページ,図1関連動画
Nishimura, S. et al.:J. Clin. Invest., 118:710-721, 2008

やせマウスにおける血流(肥満内臓脂肪における内皮細胞白血球相互作用の活性化1と比較)

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  • 【本書名】実験医学:疾患発症のニッチに潜む 慢性炎症の分子プロセス〜組織リモデリングから自然炎症の概念まで
  • 【出版社名】羊土社

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