細胞の高次機能発現を支えるProtein Kinesis.ミトコンドリア,ペルオキシソーム,小胞体など多彩なオルガネラの機能構造から細胞内タンパク質の空間秩序を司る分子機構と,その破綻による疾患.
目次
特集
Protein Kinesisを解き明かす
オルガネラの世界
細胞機能の制御と遺伝病発症・ウイルス感染のメカニズム
企画/藤木幸夫
オルガネラ研究の歴史と新展開【藤木幸夫】
生命の設計図たるゲノムの情報に従い,転写・翻訳を介した遺伝子発現の段階から,合成されたタンパク質が高次構造の形成,さまざまな翻訳後修飾を受けた後あるいは受けつつ,細胞内の機能すべき目的地に到達して独自のあるいは協奏的な役割を終えるまでの一連のプロセスは,タンパク質の「一生」あるいは「社会」とでもよぶべき複雑かつダイナミックな現象であり,ポストゲノム時代の主要な研究対象である.また,「タンパク質の社会」ともいえる,タンパク質複合体からオルガネラ,細胞,組織/臓器,個体,集団へとつながる高次階層への研究の積極的展開もまさに日進月歩である.タンパク質の「一生」や「社会」,さらにはこれら一連の過程の障害がもたらす病態などの分子レベルでの解明を目指す研究は,プロテインキネシス(Protein Kinesis)とよばれる.
ミトコンドリアタンパク質の配送と機能化【遠藤斗志也/山野晃史/原田佳宗/河野 慎】
ミトコンドリアタンパク質はサイトゾルで合成され,ミトコンドリア膜上の膜透過装置(トランスロケータ)の働きでミトコンドリア内に取り込まれ,機能構造を形成する.これまで還元的環境と思われていたミトコンドリア膜間部で,タンパク質にジスルフィド結合を導入して安定な機能構造形成を促すジスルフィドリレーシステムが発見された.また内膜タンパク質複合体の機能構造維持には,ミトコンドリア内膜のカルジオリピンをはじめとする脂質組成が重要であり,脂質組成は多くの因子によって複雑に調節されていることもわかってきた.
核—細胞質間分子輸送による細胞の高次機能制御【上川泰直/安原徳子/米田悦啓】
真核細胞では,核膜上に存在する核膜孔複合体を介して核—細胞質間をさまざまな分子が絶えず往来している.核膜孔複合体を介した分子輸送の研究は,輸送に必要なシグナル配列の発見にはじまり,輸送を担うタンパク質群の同定と分子メカニズムの解明へと進んできた.さらに最近の研究から,輸送システム自体が状況に応じてダイナミックに変化し,細胞の高次機能に重要な役割を果たすことが明らかとなりつつある.そこで本稿では,核—細胞質間の分子輸送による細胞の高次機能制御について紹介する.
小胞体とミトコンドリアをつなぐコネクター —ついにベールを脱いだその分子構造【Benoit Kornmann/Peter Walter】
真核細胞は,その内部が膜で複雑に区画化されている.それぞれの区画,すなわちオルガネラは互いに依存しながらつながっており,オルガネラ間の連絡は,情報や代謝物の交換を可能にしている.本稿では,2つのオルガネラ,小胞体とミトコンドリアの間に存在する「コネクター」の分子構造について議論する.われわれが最近同定した,このコネクターを構成するタンパク質複合体は,小胞体の膜タンパク質とミトコンドリアの外膜タンパク質を含んでおり,小胞体で合成された脂質のミトコンドリア外膜および内膜への輸送や,両オルガネラ間のカルシウムシグナリングに働くと考えられる.
膜貫通ドメインによる膜タンパク質の選別輸送【大寺秀典/三原勝芳/瀬戸口-宮田喜代子】
細胞質で合成された膜タンパク質は,特定のオルガネラ膜に正確に運搬され多様な機能を発現する.ある種の膜貫通ドメインには配送先情報が含まれており,オルガネラにはそれを読み取るシステムが備わっている.最近,膜タンパク質を配送する役者たちが相次いで発見され,配送システムの全体像を分子のレベルで記述できるようになってきた.本稿では,小胞体とミトコンドリアを中心にその「配送のしくみ」について最近の知見を紹介する.
ウイルスのマクロピノサイトーシス —飲み過ぎは命取り【Jason Mercer/山内洋平/Ari Helenius】
ウイルスはその複製を細胞機能因子に依存する強制的な寄生体である.大半のウイルスは,侵入に際しエンドサイトーシスを利用し,細胞膜から細胞質に移行後,細胞質に侵入する.ウイルスは細胞側のエンドサイトーシス機構を逆手に取るわけだが,近年多種多様なファミリーのウイルスがマクロピノサイトーシスにより侵入することがわかってきた.ウイルスによる複雑なシグナルカスケードを活性化は,細胞膜直下アクチン層状ネットワークの劇的な変化,細胞膜のラフリング,ブレビング,一過性液相取り込みの増加をもたらす.これらの現象によってウイルスはより簡単に細胞内に取り込まれるのである.われわれはこの稿において,ワクシニア,アデノ,ピコルナその他のウイルスの侵入機構としての刺激によるマクロピノサイトーシスの役割を総括する.
小胞体構造の形成機構【Yoko Shibata/Tom A. Rapoport】
細胞内小器官は,それぞれの膜における局所的な湾曲率の違いにより生じる特有の形態を有する.とくに,小胞体の形態は複雑で,高い湾曲度を有するチューブ状,低い湾曲度を有する核膜,および湾曲のないシート状の構造体で形成されている.これらの小胞体の形態は異なる機構によって形成されている.例えば,チューブ状小胞体は,細胞骨格との相互作用と,2種の真在性膜タンパク質ファミリーであるReticulonsとDP1/Yop1pによって形成されている.本稿ではこれらのタンパク質の疎水性部が膜への挿入あるいは足場として機能することで,脂質二重膜をチューブへと変形させており,ダイナミンファミリーのタンパク質が小胞体の網目構造の形成に機能しているであろう可能性を論じる.小胞体形態形成の異常が,神経機能障害の一次的病因かもしれない.
ペルオキシソームの形成・制御とその障害による高次機能の破綻【藤木幸夫/宮田 暖/松園裕嗣/松崎高志/本庄雅則】
細胞内小器官ペルオキシソームは細胞内タンパク質選別輸送,オルガネラの形成と障害機構など,いわゆるプロテインキネシスの課題解明に適したモデルオルガネラとして,研究の進展が著しい.数種の酵母や哺乳動物培養細胞由来ペルオキシソーム欠損性変異株を用いた,ペルオキシソーム形成に必須な多くのペルオキシン遺伝子(PEX)のクローニングとペルオキシンの機能解析が進み,膜アセンブリー機序を含めたこのオルガネラの形成機構の概要がいっそう明らかになってきた.それと並行して,多くの相補性群に分類されるZellweger症候群など,致死性遺伝疾患ペルオキシソーム欠損症(形成異常症)の病因PEX遺伝子の全容も解明された.本稿では,これら一連の飛躍的な研究の進歩を解説する.
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