生物学の進歩は,観察技術の革新と常に歩調を揃えています.特集では,2光子励起から核医学イメージング,蛍光プローブの設計や光操作まで,新世代の時空間イメージング技術を余すところなく紹介します!
目次
特集
生きたままの姿を見る 4Dイメージング
免疫・癌・脳神経の時空間的ダイナミクス
企画/石井 優
生体4Dイメージングの最前線―見えないものを見て,新しい概念を切り拓く研究者の飽くなき挑戦【石井 優】
動物とは,その名の通り「動く物」であり,われわれが社会のなかで日々忙しく動き回っているのと同じく,細胞は「個体」という社会のなかで動き続けている.細胞がいつ,どこで,どのように行動するのか,これは個体の生命機能を支える本質的現象であるが,固定・薄切した組織による従来の静的な解析では十分な検討が困難であった.近年の研究技術における飛躍的革新により,動きのある生命現象を,そのまま「生きたまま」で観察することができるようになり,生命科学上の多くの新概念が明らかになってきた.本特集では,多光子励起顕微鏡を用いた最先端の生体イメージング研究と,蛍光プローブ・光操作技術,核医学イメージングの現状について,最新の研究成果を交えて紹介する.
癌細胞の発光・蛍光イメージング【今村健志/疋田温彦/本蔵直樹/羽生亜紀】
癌細胞は,原発巣で増殖・浸潤するのみならず,遠隔臓器に転移する.複雑な癌の転移メカニズムを解析するには,オーソドックスな生化学や病理学の手法に加え,生きたままの動物の中で細胞や分子の動態や機能を立体画像化し,経時的に解析することが可能な4Dイメージングが力を発揮する.本稿では,生物発光や蛍光を用いた時空間イメージングを駆使した癌研究について,最近のわれわれのデータを紹介し,癌研究の将来における4Dイメージングの可能性について考察したい.
中枢神経系の多光子励起in vivoイメージング【加藤 剛/江藤 圭/金 善光/鍋倉淳一】
通常の蛍光顕微鏡法では,広い領域での蛍光励起や蛍光シグナルの組織内での散乱のため,組織深部の微細構造変化や機能的現象をサブミクロンの解像度で観察することは難しい.多光子励起過程を利用したレーザー蛍光顕微鏡法はこの問題に対応する革新的な手法として,生体内中枢神経系細胞の形態,機能観察において強力な威力を発揮してきた.本稿ではこの2光子励起顕微鏡法の概略について述べ,さらにこの顕微鏡法による生体標本内の神経およびグリアの形態イメージングやカルシウム蛍光指示薬を用いた機能イメージングの例を紹介する.
免疫・血液系の2光子励起イメージング【菊田順一/久保厚子/島津 裕/石井 優】
免疫・血液系はダイナミック(動的)なシステムである.多種多様な細胞が全身をくまなく遊走するが,適切な場所に適切なタイミングで会合しなければ機能を発揮できない.これら血液・免疫系システムにおける高度に統率された細胞遊走ネットワークは,神経系での固定した軸索ネットワーク(“hard-wired”)と比較して,“soft-wired”と形容される.このような動的システムの解明のためには,従来の組織学的(=静的)な解析では不十分であり,低侵襲で深部まで高い時空間解像度で生きた組織の観察が可能な「2光子励起イメージング」が近年活用されている.本稿では特に当研究室で行っている研究成果を中心に,新しいイメージング技術によって明らかになった新知見について紹介する.
新規蛍光タンパク質の免疫系イメージングへの応用【戸村道夫】
生きた身体の中で起こる免疫応答の4D(四次元:空間・時間)可視化を目指し,われわれは新規蛍光タンパク質の血球系細胞への応用を進めている.生,移動,死という細胞の一生を追跡するために,細胞周期を可視化できるFucci-Tgマウス,全身および臓器内で細胞動態追跡を可能にするKaede-Tgマウス,細胞死を可視化できるSCAT3.1発現マウスを導入あるいは確立してきた.これらマウスを用いて得られた,血球の体内動態に関するわれわれの知見を紹介するとともに,細胞機能の可視化技術が開く生体現象理解の扉を展望してみたい.
新たな細胞機能イメージングを実現する小分子蛍光プローブの開発【浦野泰照】
近年,「生きている状態の生物試料」における種々の生理活性物質の動態を,蛍光顕微鏡下でリアルタイムに観測する技法が汎用されている.この観測技法には,蛍光プローブとよばれるツールが必須であるが,本稿では特に有機小分子をベースとする蛍光プローブについて,その概念,設計法,およびいくつかのイメージング事例を概説する.本稿を通じて,小分子蛍光プローブを活用することで,どのような細胞機能イメージングが可能となるかを知っていただき,今後の研究に積極的にこれらを活用していただければ幸いである.
光操作技術を駆使した神経科学研究の新展開【松崎政紀】
生命現象と分子複合体・細胞複合体の動態との因果関係を理解するためには,「最小限の侵襲的条件,最大限の生理的条件下で,組織内で狙った分子・細胞の機能を好きなとき,好きな場所で系統的に操作し,その影響を実時間で計測する」ことが必要である.そのためには光を使うという方法論がきわめて有効である.光によって生理機能が活性化される光操作性分子として,ケージド合成小分子化合物と,ChR2(チャネルロドプシン-2)などの遺伝子によってコードされるオプトジェネティック分子が存在するが,特に後者はここ数年で爆発的な展開をみせている.これらを用いてわれわれがこれまで行ってきた研究と,光操作技術を用いた神経科学研究の現状と展開について概説する.
最新の核医学PET技術を駆使した神経・免疫イメージング【今泉昌男】
核医学分野において四次元(4D)画像情報を定量的かつ高感度にin vivoイメージング可能なPET(positron emission tomography)にCT(computed tomography),MRI(magnet resonance imaging),SPECT(single photon emission computed tomography),相互が組合わされた機能・形態融合型画像診断装置,マルチモダリティイメージング機器の開発および新規放射性プローブの開発が進んでいる.神経・免疫イメージングの基礎・臨床研究に応用されている核医学PET研究に関する最近の知見を,われわれの研究もまじえて紹介したい.
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