生命現象の定量で何が見えるのか?イメージング機器や次世代シークエンサーの進歩により大量に得られるデータの山から,細胞動態,シグナル伝達などの生命現象の謎に迫る,挑戦的な研究を紹介.
目次
特集
生命システムを定量する! ―未知なる現象の謎を解け!
シグナル伝達,転写制御,細胞動態の時空間ダイナミクス
企画/小林徹也
定量データが切り開く生命科学【小林徹也】
イメージング技術の成熟に伴い,そこから得られるさまざまな定量データをどのように活用し,生命科学における新たな発見や知見につなげるか,その道筋を切り開くことが大きな課題になっている.数理モデルやデータ・画像解析など個別技術の重要性が強調されるものの,具体的な生命科学研究としての形は未だ茫漠としている.本特集では,現象を規定する法則を記述する数理モデルや統計・情報の手法を組み合わせて,定量データがもつ潜在的な情報を活用し,生命現象の新たな理解や原理の解明にチャレンジする研究について紹介する.
1細胞計測で明らかになる集団の増殖と適応【野添 嵩/橋本幹弘/若本祐一】
近年の1細胞計測技術の進展により,遺伝的に均質なクローン細胞集団のなかにも,成長状態や遺伝子発現量などの形質に大きなばらつきがあることがわかってきた.細胞レベルの状態差が個々の細胞の増殖能や死にやすさなどと相関する場合,細胞レベルの性質と集団の性質との関係を理解するのは,実は単純ではない.本稿ではクローン細胞集団の増殖とパーシスタンス現象という2つの題材を取り上げ,細胞レベルの状態差が集団の増殖率を増加させたり,集団適応をひき起こしたりすることを述べ,その実験検証について概括する.
1細胞イメージングから見る細胞内シグナルの自己組織化現象【澤井 哲/石原秀至/中島昭彦】
分子動態の「自己組織化現象」は,分子複合体から細胞,細胞から組織へと階層間の秩序形成を橋渡しする普遍的な性質である.特に興奮系のダイナミクスに特徴的なものは,進行波の発生と,位相が特定の空間的配置をとることによって生まれるらせん波である.自己組織化する波の位相情報によって細胞形状のダイナミクスがいかに決定するかをみてみよう.
シグナル伝達の時間パターンから解く初期応答遺伝子制御機構【齊藤 健/宇田新介/土屋貴穂/黒田真也】
細胞外刺激の情報は,細胞内においてシグナル伝達分子の活性化の強さや時間パターンに変換され,下流の遺伝子発現および増殖・分化・アポトーシスなどの表現型を制御する.シグナル伝達経路を構成する分子の時系列データには情報が含まれており,その情報が下流にどのように処理され伝わっていくかを理解すること,すなわち分子ネットワークのシステム特性を理解することが生命システムの本質的な理解につながると考えられる.本稿では,古典的MAPキナーゼであるERKの時間パターンにより細胞の運命が決定するPC12細胞 (ラット副腎髄質由来) に注目し,シグナル伝達分子の時間パターンが下流の初期応答遺伝子に伝わるシステム特性を,システム同定の解析手法の1つであるARX (Auto Regressive eXogenous) モデルで解析した研究成果を報告する.
細胞のかたちから推定する“力”の場【石原秀至/杉村 薫】
個体発生過程では,形態形成シグナルの化学場と細胞が生成する機械的な力(物理場)が,細胞,組織の変形を駆動する.力が形態形成を制御する機構を明らかにするために,われわれは,細胞の「かたち」を含む画像データから細胞にかかる「力」を推定する手法を開発した.本稿では,力推定法の原理と妥当性の評価,および,力の定量化が明らかにした多細胞パターン形成の物理メカニズムについて述べる.定量データからその背後にある系の情報を抽出する統計手法は,生命科学の各分野で強力な道具立てとなりつつある.
細胞のふるまいを読み解く時系列に潜む情報量【小林徹也/上村 淳】
定量的な計測技術の発展に伴い,内因的なばらつきのある1細胞データや時系列データなどこれまでと比べてはるかに高次元のデータが実験の現場で得られるようになっている.そこから意味のある情報を得ることは定量的な生命科学の大きな課題である.本稿では,入出力関係から生命システムをとらえる基本的なアプローチが,情報量という概念を導入することにより,自然と確率性や高次元性をもつ時系列データにも拡張できることを概説する.そして情報量は,しばしば人間の直感でとらえにくい高次元データのもつ情報を的確にとらえられる道具となりうることを示す.
NGSによる転写制御ネットワークの統計的モデリング【二階堂 愛】
疾患を含む生命現象は,生命を構成する因子のネットワークにより達成される.次世代シークエンサーの登場により,構成因子であるRNA量やDNA-タンパク質の相互作用が高精度に,しかも安価に定量できるようになった.特にDNA-タンパク質相互作用は,1塩基解像度でその結合部位を網羅的に測定できる.多くのサンプル数を定量性高く測定できれば,統計的モデリングを利用し現象を記述し解析できる.これによって,オミックスは「宝探し」だけでなく「生命原理の理解」のツールとしての地位を確立しつつある.
トピックス
カレントトピックス
Hippo経路分子MOB1による発生と発がんの制御【西尾美希/板見 智/鈴木 聡】
持続的なIL-7シグナルはCD8+T細胞において生存ではなく細胞死を誘導する【木村元子】
c-FLIPの腸管や肝臓の恒常性維持における役割【中野裕康/朴 雪花】
Notch受容体細胞外領域のリガンドの選択性にかかわる進化的に保存されたドメインの発見【山本慎也/ヒューゴ・ベレン】
物体認知の最終段階に見られる2つの速くて粗い情報処理系と遅く正確な情報処理系【一戸紀孝】
連載
【新連載】 生命に魅せられた研究者たちのマイルストーン
[連載第1回特別対談]iPS細胞が教えてくれるこれからのライフサイエンス研究に大切なこと【井村裕夫/山中伸弥】
クローズアップ実験法
TGFα切断を用いたGPCRの高感度・高精度な活性化検出法【井上飛鳥/青木淳賢】
絵で見る先端分子生物学
細胞の運命を決定するヒストンH2A.Z【解説:胡桃坂仁志/絵:松本亮平】
ラボレポート ―留学編―
吾輩はポスドクである.C・N・Sはまだない ―James H. Clark Center, Stanford University【田鍬修平】
Opinion ―研究の現場から
研究格差と研究多様性について考える【杉山康憲】
関連情報
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- 【本書名】実験医学:生命システムを定量する! ー未知なる現象の謎を解け!〜シグナル伝達,転写制御,細胞動態の時空間ダイナミクス
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