本特集では,「細胞周期」「細胞死」「老化」をテーマに,一見無関係に見えるこれらの現象が実は共通の分子によって制御されていた,という数々の興味深い知見を国内外の第一線の研究者にご紹介いただきます.
目次
特集
Cell cycle-Cell death-Aging
細胞周期と細胞死,老化をつなぐ役者たち
企画/宮崎 徹
概論〜生命メカニズム統合の立役者たち〜 異なる生理機能を結びつけ,より高次の生命現象を形づくるキーファクター【宮崎 徹】
近年,さまざまな生命現象の分子メカニズムが明らかになっていくなかで,実は同じ分子が,細胞内の場所,発現時期,共同するパートナー分子などをうまく調整することにより,一見無関係に見える複数の現象を制御していることが見出されてきた.本特集では,生命現象の根幹となる3つの現象,細胞周期・細胞死・細胞老化の制御における分子レベルでのオーバーラップについて,最新の知見を紹介する.
アポトーシス関連分子DEDDの新たな機能〜細胞周期および細胞のサイズの制御【新井郷子】
これまで,主としてアポトーシスに関連する分子であると考えられていたDeath Effector Domain(DED)を有するタンパク質群が,最近それ以外にもさまざまな役割をもつことが注目されつつある.そのうちの1つであるDEDD(DED- containing DNA-binding protein)は,細胞が有糸分裂(Mitosis)に突入する前のサイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1:Cyclin-dependent kinase 1)の活性を核内において阻害することによりG2期を増長させる.G2期の長さと細胞の大きさの関連性については未だに議論が分かれる部分が多いが,事実上,密接な関連があることについて,われわれが新たに発見したDEDDの機能に即して触れてみたい.
S期開始の制御機構と発癌【神野茂樹】
癌細胞と正常細胞の違いを定義することは難しい.癌化の土台には細胞の増殖亢進があるのは明らかであり,よく調べられている.個体においてはほとんどの細胞は静止状態にあり,細胞周期のG1期において増殖するか停止するかを決定している.そこで本稿ではG1期制御機構にどのような異常が起こってこうした増殖亢進状態になるのかを見ていく.しかしながらこうした異常を起こした細胞は単に増殖亢進した細胞であるというだけであり,これがそのまま無秩序に増殖し続ける癌細胞になるというわけではない.癌化にはさらにどのような能力を獲得することが必要なのだろうか.
WARTSキナーゼを介した器官サイズ制御と発癌抑制の接点【國仲慎治/佐谷秀行】
われわれの体を構成する器官のサイズは「細胞数」および「個々の細胞サイズ」を調整するシグナル伝達系により厳密に制御されていると考えられる.近年ショウジョウバエを用いたモザイク解析により器官サイズを制御する複合体が同定された.興味深いことに,この複合体が発癌に深く関与していることが明らかにされつつある.細胞周期と細胞死の相互制御は細胞数の決定に必須であり,その制御異常は癌化に重要な役割を果たすことはよく知られている.また個々の細胞のサイズを制御するシグナルの異常も癌に高頻度に認められることから,適切な器官サイズ制御シグナルは発癌抑制を含めた生体の恒常性維持に重要であると考えられる.
哺乳類Sirt1:カロリー制限に対する生理学的応答を統括する主要制御因子【今井眞一郎】
カロリー制限がげっ歯類の老化を遅らせ,寿命を延長させることが報告されたのは,すでに70年以上も前のことである.以来カロリー制限は,老化遅延・寿命延長効果を示す唯一の確かな方法として,その効果はさまざまな生物種で幅広く認められることが明らかになっている.しかしながら,その分子メカニズムの詳細は未だ謎に包まれている.近年,NAD依存性脱アセチル化酵素Sir2のファミリーがカロリー制限に対する生体の応答を制御する重要な因子として大きくクローズアップされつつある.本稿では哺乳類Sirt1に焦点を当て,その最新の知見について概説する.
寿命関連遺伝子と「老化の代謝説」【根本信乃】
寿命や加齢に伴う生理的および病理的変化は,摂取カロリー量により影響を受けることが,多くのモデル実験動物で示され,その分子メカニズムとして,インスリン/IGF-1系のシグナル伝達経路の関与が確固となりつつある.カロリー制限による代謝率の低下が,代謝に伴い発生する活性酸素種(酸化ストレス)の減少につながり,寿命や加齢に伴う生理変化に違いをもたらす,という古くからの仮説「rate of living theory of aging」を,近年明らかにされつつある分子メカニズムから,説明することができるだろうか.
G2/M期調節タンパク質による染色体の数的制御と疾患【桂 真理/宮川 清】
癌細胞では多種類の染色体異常が観察されるが,その中でも古くから知られていながらも長年にわたって忘れさられていた染色体数の倍数化が発癌の原因として注目されている.倍数化は細胞融合,再複製,種々の細胞分裂期の異常によって起こる.この中でもS期からG2/M 期における再複製の分子機構は酵母において精力的に解析されてきたが,一方でそれは必ずしも進化上保存されているわけでないことも明らかとなっている.疾患病因論の観点からは,他生物との比較においてヒトにおける再複製の機構を解明することが重要である.
トピックス
カレントトピックス
活性酸素のp38MAPKを介した造血幹細胞寿命制御への関与【伊藤圭介/平尾 敦/須田年生】
時計タンパク質CLOCKのヒストンアセチル化酵素としての働き【土居雅夫/Paolo Sassone-Corsi】
自然免疫の必須分子IRAK-4が獲得免疫の主役「T細胞」機能を制御【鈴木信孝】
SizzledによるChordinタンパク質の分解抑制と背腹軸形成の制御【村岡 修/日比正彦】
News & Hot Paper Digest
トリメチル化ヒストン特異的な脱メチル化酵素の発見【黒川理樹】
ギチギチとスカスカで,同じ? 違う?〜高発現密度下での,イオンチャネル間の相互作用【久保義弘】
インフルエンザウイルスの宿主域〜トリのレセプターとヒトのレセプター【高田礼人】
アディポネクチンシグナルを伝える分子APPL1【原 孝彦】
NIHグラント申請の電子化【島岡 要】
連載
科学する心を語る
見たい! 知りたい!〜細胞構造と機能への飽くなき探求【廣川信隆】
Update Review
21世紀の脳疾患研究〜心の解明へ向けた世界の取り組み【神谷 篤/澤 明】
クローズアップ実験法
高効率かつ高速な融合タンパク質発現ベクターの構築法【天野剛志/合田名都子/廣明秀一】
疾患解明Overview
遺伝子転写から動脈硬化の病態生理を解明する【倉林正彦】
私が名付けた遺伝子
第19回 recQ〜RecQヘリカーゼのプロトタイプ〜【中山宏明】
ラボレポート−留学編−
HIVワクチンへの道〜National Institutes of Health【赤畑 渉】
学会・シンポジウム見聞録
Keystone symposium「NF-κB:20 Years on the Road from Biochemistry to Pathology」に参加して【篠原久明】
関連情報