実験医学 2006年8月号 Vol.24 No.12

転写制御,癌,発生分化を司る

レドックスシグナルと酸化ストレス応答

  • 住本英樹/企画
  • 2006年07月20日発行
  • B5判
  • 117ページ
  • ISBN 978-4-7581-0114-1
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》細胞は,酸化ストレスに応答して,酸化還元反応を介したシグナル伝達,すなわちレドックスシグナリングを行う.近年,レドックスシグナリングは,転写制御や癌さらには発生分化など,きわめて多岐にわたる生命現象に関与していることが明らかにされつつある.本特集では,まずレドックスシグナルの伝達を担う活性酸素の生成酵素について,次いで,ごく最近明らかとなったレドックスシグナリングが司る生命現象について,第一線の研究者に紹介していただいた.

※本書の正誤表はこちらをご参照下さい.

酸化ストレスに対する「レドックス(酸化還元)シグナル伝達」に注目が集まっています.本特集ではその中心を担う活性酸素の生成メカニズムから,転写制御,癌,発生分化との関わりまで,最新知見をご紹介します.

目次

特集

転写制御,癌,発生分化を司る
レドックスシグナルと酸化ストレス応答
企画/住本英樹
企画者の言葉【住本英樹】
細胞は,酸化ストレスに応答して,酸化還元反応を介したシグナル伝達,すなわちレドックスシグナリングを行う.近年,レドックスシグナリングは,転写制御や癌さらには発生分化など,きわめて多岐にわたる生命現象に関与していることが明らかにされつつある.本特集では,まずレドックスシグナルの伝達を担う活性酸素の生成酵素について,次いで,ごく最近明らかとなったレドックスシグナリングが司る生命現象について,第一線の研究者に紹介していただいた.
XORによる活性酸素生成機構:レドックスシグナル発生の分子基盤【岡本 研/西野武士】
活性酸素は呼吸の副産物として図らずもできてしまうものもあれば,感染防御,シグナル応答に重要な分子として,積極的に産生することもある.哺乳動物はプリン排泄系の酵素であるキサンチン酸化還元酵素(XOR)を利用して新たな活性酸素生成能を獲得した.生化学的,構造生物学的解析により,巨大な酵素分子における最小限の構造変化の連鎖が最終的に大きな機能変化をもたらす機構であることがわかった.この項ではこの哺乳動物に特有の活性酸素生成機構を紹介する.
活性酸素生成酵素Noxファミリーとレドックスシグナリング【住本英樹】
レドックスシグナル応答において活性酸素を生成する酵素として,一群の膜タンパク質であるNADPHオキシダーゼ(Nox)が注目されている.Noxは,副産物ではなく真の産物として活性酸素を生成する.ヒトのNoxファミリーには7つのメンバーが含まれ,種々の細胞において発現が認められる.また,Noxによる活性酸素生成は刺激に応じて巧妙に調節されるので,シグナルを伝えるうえでふさわしいと考えられる.本稿では,まずNoxの構造と調節機構について述べ,続いてNoxのレドックスシグナル応答への関与について最新の知見をもとに論じる.
Keap1-Nrf2システムによるレドックスシグナル応答メカニズム【鈴木隆史/山本雅之】
細胞内のレドックスバランスの破綻は,さまざまな疾患の原因となる.細胞のホメオスタシス維持や環境応答シグナルの伝達には,転写因子が重要な機能を担っており,いったん,親電子性毒物や酸化ストレスに曝されると,生体はさまざまな生体防御遺伝子群を転写レベルで活性化して応答する.転写因子Nrf2とその抑制性制御因子Keap1がこの生体防御機構の中心的役割を担っている.近年,Keap1-Nrf2システムのストレスセンサーとしての分子メカニズムにも注目が集まっている.本稿では,めざましい勢いで明らかになりつつある本システムの現状を紹介したい.
発生・分化を司るシグナル伝達のレドックス制御〜Wntシグナル経路における新たな発見【船戸洋佑/三木裕明】
近年,レドックス制御によって種々のシグナル伝達経路が能動的に調節されていることが明らかになりつつある.われわれはWntシグナル経路の必須アダプター分子Dishevelledの新規結合タンパク質としてthioredoxinレドックス制御タンパク質ファミリーの一員,nucleoredoxin(NRX)を同定し,両者がレドックス依存的に結合してWnt経路を制御することを発見した.加えてNRXがアフリカツメガエルでの正常初期発生に重要であることも見出した.この結果は生命の発生・分化においてレドックスシグナルが関与する可能性を照らし出している.
IRP2の酸化依存的ユビキチン化による鉄代謝制御機構〜細胞はヘムを介して鉄濃度の変化を感知する【石川春人/岩井一宏】
鉄はさまざまなタンパク質の活性中心として機能する一方で,タンパク質やDNAなどに酸化修飾を引き起こすラジカルの発生源ともなっている.近年まで細胞への障害という負の側面が着目されてきた酸化修飾であるが,鉄代謝の主たる制御タンパク質IRP2では鉄〜ポルフィリン錯体であるヘムによる酸化修飾が,鉄代謝制御のための分解シグナルとして機能していることが明らかとなった.本稿では翻訳後修飾として酸化修飾が利用されているIRP2による鉄代謝調節機構を最新の知見をふまえて紹介したい.
活性酸素によるゲノムの酸化とヒトゲノムの多様性【中別府雄作/大野みずき】
正常な生命活動に伴って産生される活性酸素は,その遺伝情報を担うゲノムや前駆体ヌクレオチドを酸化することでゲノム損傷を引き起こし,突然変異や発癌,さらに細胞死や変性疾患などの原因となっている.このようなゲノムの酸化損傷に対して生物は多様な防御機構を備えゲノム情報を維持している.われわれはヒトゲノムにおける酸化損傷の遺伝的な影響を検討するために,定常状態で存在するグアニンの酸化体,8-オキソグアニン(8-oxoG)の量とそのゲノム上の分布を詳細に解析した.その結果,ヒトゲノム中の8-oxoGの分布は均一ではなく,8-oxoGが高密度に存在するゲノム領域が見出された.8-oxoGが高密度に存在するゲノム領域は組換えのホットスポットとよく一致し,さらに一塩基多型の頻度も有意に高いことがわかった.この結果は8-oxoGがヒトゲノムの多様性の原因であり,さらに活性酸素によるゲノムの酸化がゲノム進化の原動力となっている可能性を示唆している.

トピックス

カレントトピックス
減数分裂期染色体のブーケ配置におけるテロメアとSPBの連結【近重裕次】
癌細胞の遊走,骨転移を制御するRANKL【中島友紀/Josef M. Penninger】
概年性に調節される脳内HP複合体による冬眠のコントロール【近藤宣昭】
電位依存性プロトンチャネルはポア(孔)構造をもたない分子である【佐々木真理/高木正浩/岡村康司】
News & Hot Paper Digest
またまた新しいT細胞発見〜1,2,3,跳んでなぜか17【畠山鎮次】
細胞内Ca2+流入の分子機構【西谷真人】
脂肪細胞の肥大化とマトリックスメタロプロテアーゼ【神崎 展】
生活の質を変えずに寿命を制御するSMK-1【飯田隆治】
Neural Stem Cell Research Center at UCLA〜神経幹細胞から腫瘍幹細胞まで細胞機能解明に向けた大型プロジェクト〜【中野伊知郎】

連載

科学する心を語る
親孝行はすべての原点!? アルツハイマー病治療薬開発に懸ける強い情熱【杉本八郎】
Illustratorで作図にトライ! 研究者のためのイラスト実践講座★新連載★
第1回 Adobe Illustratorでイラストを作成してみよう【秋月由紀】
クローズアップ実験法
Bisulfite処理によるDNAメチル化の検出法【幸田 尚】
疾患解明Overview
皮膚癌の分子機構を探る〜遺伝子導入したヒト皮膚細胞によるin vivoアプローチ【久保宜明】
私が名付けた遺伝子
第20回 ALK〜TGF-βファミリーシグナルの分岐点〜【宮園浩平】
ラボレポート−留学編−
スイスでのポスドク生活〜University of Geneva【影山(矢原)夏子】
学会・シンポジウム見聞録
ゲノム医学の次なるステップ“トランスレーショナルリサーチ”第4回RGCMフロンティアシンポジウム【宇野茂之/槇島 誠】

関連情報

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