実は神経診察の90%は病歴聴取にある.病歴聴取により神経診察の部位や手技を選び,その結果からフィードバックして病歴聴取をくり返す必要がある.例えば,患者がめまいを訴えるからといって,すぐに前庭・小脳系の診察に向かうようでは正診はおぼつかない.めまいの内容を病態別に整理すると,少なくとも次の4つのパターンに分けられる.すなわち,回転運動の錯覚を伴う真性のめまい,脳循環不全による失神しそうな感じ,肩こりなどを背景とした浮動感,起立や歩行に際して訴えられるふらつきである.病歴聴取や実際の診察にあたってはこのような幅広いスペクトラムをまず理解しておく必要がある.的が絞れれば,おのずと神経診察のどの手技を用いればよいかが明らかになる.
実際の神経診察にあたっては,神経系に存在する系統とレベルを理解しておくことが診察所見の整理に有用である.すなわち,系統とレベルの座標軸のなかで,個々の診察がどの系統の,どのレベルの評価をしているかを意識しておくのがよい.系統としては,運動系と感覚系が中核であり,このほかに自律神経系,辺縁系,高次大脳機能がある.レベルのなかでは脳神経と脊髄神経が重要である.
本特集では神経診察のうちで特に重要なテーマについて,経験の多い神経内科のエキスパートに診察のコツを解説していただいた.教科書にはないエキスパートならではの診察法や判断が散りばめられている.それぞれの場面に出会ったとき,これらを読んでから患者のもとへおもむき,戻ってきて改めて読み返すという方法で神経診察の実力をブラッシュアップしていただくことが企画者としての目標である.
「上手く歩けない」「眼の見え方がおかしい」「手がしびれる」などのよくある症状ごとに,行うべき病歴聴取・診察のポイントを解説.症状からスムーズに病変部位を導き出す!苦手な神経診察のはじめの一歩に最適
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