実験医学 2018年8月号 Vol.36 No.13

サイズ生物学

“生命”が固有のサイズをもつ意味とそれを決定する仕組み

  • 山本一男,原 裕貴/企画
  • 2018年07月20日発行
  • B5判
  • 143ページ
  • ISBN 978-4-7581-2510-9
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
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《企画者のことば》

「大きさ」はすべての物体が有する根源的な特性である.それは生命体においても例外ではなく,われわれが肉眼で確認できる表面的な意味のみならず,個体の内部に分け入った器官や組織,それを構成する細胞,さらにそれらを支える細胞内構造に至るまで「適正なサイズ」が設定されていることが見てとれる.ではこれら多様なスケールにおいてそれぞれのサイズを規定しているものは何であろうか.近年の技術革新により,どちらかといえば古典的なこの疑問に,実験と理論の両方から迫る研究が世界的に増えてきている.例えば,がんに代表される疾患は,サイズ制御の破綻と関連させて理解できるかもしれない.今回,本邦にて独自のアプローチで「大きさ」の問題を視野に入れながら研究を展開されている7名の執筆陣を迎え,「サイズ生物学」というくくりでこの潮流を感じてもらえるよう特集を組んでみた.

山本一男 (長崎大学医学部共同利用研究センター)

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分裂後の細胞内小器官、半分に切られたプラナリア、成長・発生する臓器…生命は自分の「ちょうどよい数・大きさ」をどうやって知っているのか?実験と理論の両面から追う.

目次
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特集

サイズ生物学
“生命”が固有のサイズをもつ意味とそれを決定する仕組み
企画/山本一男,原 裕貴
「大きさ」はすべての物体が有する根源的な特性である.それは生命体においても例外ではなく,われわれが肉眼で確認できる表面的な意味のみならず,個体の内部に分け入った器官や組織,それを構成する細胞,さらにそれらを支える細胞内構造に至るまで「適正なサイズ」が設定されていることが見てとれる.ではこれら多様なスケールにおいてそれぞれのサイズを規定しているものは何であろうか.近年の技術革新により,どちらかといえば古典的なこの疑問に,実験と理論の両方から迫る研究が世界的に増えてきている.例えば,がんに代表される疾患は,サイズ制御の破綻と関連させて理解できるかもしれない.今回,本邦にて独自のアプローチで「大きさ」の問題を視野に入れながら研究を展開されている7名の執筆陣を迎え,「サイズ生物学」というくくりでこの潮流を感じてもらえるよう特集を組んでみた.
生物を構成する最小単位である細胞は,周囲の環境に応じて,そのサイズ(大きさ)を変化させる.この細胞サイズの変化に合わせて,細胞機能を司る内部のオルガネラ(細胞小器官)のサイズも巧みに調整される.このオルガネラと細胞とのサイズの相関関係は100年以上前に発見された現象であるが,その後研究者の興味がオルガネラ構造の分子基盤の解析に傾倒するに従い,このサイズの関係性は研究者たちの記憶からしだいに忘れ去られていった.しかし近年,分子基盤の解明が著しく進展したことをきっかけに,ここ10年の間にサイズの制御機構に再び脚光が当たりはじめた.本稿では,オルガネラの中でも細胞機能の場として中心的な役割を果たす「核」 に焦点を絞り,そのサイズの制御機構について概説する.
ゴルジ体は脂質膜でできた扁平な槽が積層する特徴的な形態をもつオルガネラで,細胞内メンブレントラフィックの重要な中継地としての役割を担う.そのため,そのサイズはトラフィック量に応じて適応的に制御されていると考えられる.本稿ではゴルジ体を構成する脂質膜の物性に着目し,物理モデルを用いてゴルジ体のサイズと形を扱う研究を紹介する.浸透圧や弾性力などゴルジ体に働く複数の力によるエネルギーがサイズ変化にどのように応答し,それらエネルギーのバランスとしてサイズと形がどう決まるか議論する.
細胞は,細胞骨格とよばれる骨組みを自在に組換えることで,移動したり分裂したりすることができる.われわれは,生細胞を圧倒的に単純化し,さまざまなパラメーターを独立かつ自在に制御することを可能にした人工細胞を用いて,細胞骨格の形成メカニズムおよび,細胞骨格が司る多種多様な細胞機能の制御メカニズムの解明に挑んでいる.本稿では,細胞分裂装置である収縮環の研究を例に,人工細胞のサイズ依存性を調べることで明らかになってきた,細胞骨格形成の新規メカニズムについて概説する.
細菌はどのようにして個々の細胞の大きさを一定の範囲内に保つのだろうか.これは半世紀以上も前から問いかけられてきた謎だが,現在でもその制御機構の詳細は明らかでない.「細胞は決まった大きさになると分裂する」という考え方がこれまでによく用いられてきたが,モデル細菌における1細胞定量解析により,「細胞は誕生した後に一定の体積だけ増大して分裂する」というadderモデルが近年注目を集めている.そこで本稿では,原核生物における細胞の大きさの制御について,その歴史的背景と最新の知見を紹介する.
生体組織や器官には,それぞれ固有のサイズがある.サイズは機能と密接に関連する量であり,発生や成長の過程においても,常に目標とするサイズ値に収束する調節メカニズムが内在していると考えられる.近年,組織レベルでのサイズ調節を,組織の構成ユニットである細胞の集団相互作用による産物と捉え,細胞を主体とする制御系を考えることでシステム的理解をめざす研究が進められている.本稿では,生体組織・器官のサイズ調節をシステム制御の観点から概説する.後半では,機械的な力刺激を利用することで組織サイズ調節が行われる例を2点紹介する.
プラナリアは「切っても切っても再生できる」不思議な生きものである.その高い再生能力は全身に存在している分化多能性幹細胞(ネオブラスト)に基づいており,切断後,ネオブラストは体の位置情報に従って適切な細胞種へと分化することで失われた器官や組織を再生する.プラナリアの再生研究は,今から100年以上も昔にはじまり,現在においてはRNA干渉による遺伝子機能阻害実験によってその分子機構の理解が飛躍的に進んでいる.本稿では,プラナリアの前後軸パターンの再生機構について概説し,さらには,前後軸パターンのサイズ調節をつかさどる根本的な原理の解明に向けたわれわれの最新の成果についても解説する.
体の小さなネズミの心臓はゾウよりも早く脈打ち,体の大きなゾウの足取りはネズミよりもずいぶんゆっくりしている.生物の体の大きさはその生物の生き様に直結している.長い生物進化の歴史を経てきた現生生物の体サイズはさまざまであり,それぞれの種がそのサイズに見合った構造と機能を獲得して繁栄している.本稿では,個体レベルでの体サイズの進化と構造,そして機能の関係を概説し,個体のOn being the right size“ちょうどよいサイズであること”の謎に迫る.

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研究におけるビジュアル表現とはーイラスト?レイアウト?ポンチ絵ってなに?【大塩立華】
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