第1特集:バイオイメージングで明らかにされた最新の研究成果を、特に情報伝達に焦点を当てご紹介いたします。血管、神経、アポトーシス、そして新規蛍光タンパク質を用いたイメージングにいたるまで幅広い内容になっています。第2特集:mDiaは、アクチン線維の形成や微小管の安定化などを介して、細胞骨格の形成や染色体の分配など、生体機能に重要なさまざまな役割を果たしています。本特集では、今後新たなブレークスルーが期待されるmDiaの最新の成果をご紹介いたします。
目次
特集
第1特集:バイオイメージング
情報伝達のダイナミクスをみる
企画/望月 直樹
概論〜バイオイメージングで探る情報伝達のダイナミクス【望月直樹】
情報伝達研究における時間軸・空間軸の広がりは,バイオイメージング(生きた細胞や動物に起こる現象の画像化)によってもたらされている.GFP・RFP の発見やその改良なくして,バイオイメージングの誕生と発展はなかった.本特集ではイメージングのなかでもFluorescence Resonance Energy Transfer(FRET)技術で明らかにされた伝達メカニズムに焦点をあてて解説していただいた.
神経軸索ガイダンスを制御する細胞内シグナル伝達のダイナミクス【戸島拓郎/上口裕之】
神経系の発生過程において伸長中の軸索先端に現れる成長円錐は,種々の軸索ガイダンス因子に導かれて遠隔の標的へ正確にたどり着く.正確な軸索投射を達成するために,ガイダンス因子に対する成長円錐の運動性(誘引・反発)は,周辺環境や発生時期等に応じて臨機応変に変わりうる.本稿では,成長円錐の適切な運動性を生み出すための,軸索ガイダンス因子受容から細胞骨格・接着分子の動態変化に至るまでの巧妙なシグナル伝達系について,特に最新のイメージング技術によって明らかになった知見を中心に概説する.
細胞死シグナルの可視化in vivoライブイメージングをめざして【竹本 研/三浦正幸】
発生過程における重要なイベントの1つにプログラム細胞死がある.細胞死実行因子の1つであるカスパーゼ欠損マウスなどの解析から,カスパーゼ依存的なプログラム細胞死は,特に中枢神経系における細胞数の調節や時空間的な形態形成において重要な役割をもつことが示唆されている.しかしながらノックアウトマウスなどを用いる従来の解析では,こうした時空間的な概念に基づく解析は困難をきわめる.本稿ではそれを可能にするであろう,細胞死実行因子を生きたまま可視化する技術とそれにより得られた知見を紹介したい.
PIP3の可視化動態分析【佐藤守俊/上田善文/梅澤喜夫】
生きた細胞内でのホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)の動態を時空間可視化分析するために,新しい蛍光プローブ(fllip:フリップ)を開発した.このfllipを用いたPIP3の可視化と,薬理学的あるいは分子生物学的手法を組み合わせることにより,細胞内のPIP3動態の強力な解析法となることを示す.さらに,fllipのテーラーメードにより,さまざまな脂質セカンドメッセンジャーの細胞内動態が明らかになるであろう.
Rap1による血管内皮細胞の一方向性移動の制御【藤田寿一/福原茂朋/望月直樹】
Rap1はRasと高い相同性を有する低分子Gタンパク質であり,さまざまな刺激によりGTPに結合した活性型に変換し,Rasの機能に対して抑制的に働く分子として考えられてきた.さらに,これだけではなくインテグリン刺激により活性化されることからECM-integrinによる細胞の接着制御シグナルに重要な役割を担っていると考えられている.スクラッチおよび走化性因子によって誘導される血管内皮細胞の一方向性の移動の際に,FRETの原理に基づいて作製したRap1活性化モニタリング・プローブRaichu-Rap1により,細胞膜のラッフリング部位という局所でRap1の活性化が観察される.Rap1の新しいエフェクター分子であるRassfファミリー・タンパク質は血管内皮細胞において微小管に局在し,極性を獲得して,一方向性に移動する内皮細胞の膜ラッフリングを伴う先端部に伸長していく.これらのことから,局所でのRap1活性化はRassfファミリー・タンパク質を介して微小管の制御を行っていると考えられる.
イメージングのための新規蛍光タンパク質【唐澤智司/宮脇敦史】
いまや蛍光タンパク質は,さまざまな研究分野において必需のツールとなっている.特に細胞や分子の動態を解析する蛍光イメージングの分野で活躍が著しい.蛍光タンパク質の種類も増え,複数の蛍光タンパク質を一度に使いこなすマルチカラーイメージング技術も広まっている.われわれは数年前より刺胞動物からの蛍光タンパク質遺伝子の単離を行ってきた.最近の成果を交えて新しく登場した蛍光タンパク質の性質に触れる.
細胞骨格制御の新たなる鍵分子
第2特集:mDiaファミリータンパク質
企画/成宮 周
序〜mDiaファミリータンパク質:細胞骨格のインテグレーター【成宮 周】
アクチン重合端をサーフィンするmDia1【東田知陽/渡邊直樹】
われわれは,単分子スペックル法を用いて,生細胞内を高速移動するmDia1を捉えることに成功した.mDia1は,アクチン線維の反矢じり端にプロセッシブに結合し,アクチン線維の伸長速度に従って移動していた.mDia1は,アクチン重合のエネルギーを利用して,自らの分子移動を行う能力があることから,ミオシン,キネシン,ダイニンとは違った新たな分子モーターとして機能する可能性がある.
新規アクチン重合促進タンパク質mDiaの構造と生化学的機能細胞生物学が生化学と構造生物学に出会うとき【嶋田 睦】
細胞の移動や形態の変化には,細胞骨格タンパク質であるアクチンの重合と脱重合が重要な役割を果たしている.最近,細胞骨格の再構成に重要な働きをするforminファミリータンパク質が,in vitroで直接アクチンを重合することが報告された.その後の構造解析や生化学的解析により,forminファミリータンパク質の詳細な機能が明らかになりつつある.
mDiaによる微小管の配列と安定化細胞コルテックスとキネトコア【保田真吾/荒川芳輝】
低分子量Gタンパク質Rhoはアクチン細胞骨格の構築を制御するだけでなく,さらにもう1つの重要な細胞骨格である微小管の配列と安定化を促すことにより,さまざまな細胞形態をつくり出すことが明らかになってきた.この微小管に対する作用には,mDiaが重要な役割を果たしていることが最近報告された.さらに興味深いことに,この働きは種を超えて酵母から高等生物にまで保存されていると考えられる.
トピックス
カレントトピックス
酸化ストレスにより転写因子Bach2はPMLボディ周辺の遺伝子発現を特異的に抑制する【田代 聡/五十嵐和彦】
神経幹細胞の運命を制御するNotch-Hes経路とJAK-STAT3経路のクロストーク【鎌倉幸子/吉松剛志/後藤由季子】
LARGEによるジストログリカンの翻訳後修飾と先天性筋ジストロフィー【金川 基/Kevin P. Campbell】
News & Hot Paper Digest
GemininによるDNA複製開始制御の構造的基盤【多田周右】
TRPチャネルのトランスロケーションと限局したCa2+流入の生理的重要性【神崎 展】
EGFR内の変異がイレッサへの反応性を規定している【西谷真人】
若手研究者を成長させた充実の3日間【編集部】
連載
クローズアップ実験法
エレクトロポレーション法によるニワトリ胚へのベクター組み込み型siRNA導入法【片平立矢/仲村春和】
Update Review
医療関連行為の特許法による保護【金城聖文/玉井克哉】
アカンやないか! 失敗に強いバイオ研究者になるために
第2回 初歩的なミスばっかり繰り返したらアカン!【野村慎太郎】
コンピュータ活用術
第10回 Perl入門(3)Perlで実験結果を処理しよう【小林慎治】
イメージングで解き明かす生命機能
第16回 微小管プラス端集積因子(+TIPs)【清末優子】
学会・シンポジウム見聞録
免疫サマースクール2004−21世紀 免疫学の新しい挑戦【編集部】
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