近年の細胞分裂期に関する研究の飛躍的な進展により,細胞分裂や染色体分配を制御する因子が次々と同定され,そのダイナミクスが急速に明らかになってきました.本特集では、染色体分配メカニズムを中心に,染色体の凝集・整列・分配を制御するしくみから細胞分裂への移行まで,分裂期全般にわたり現在最もホットな話題を幅広くご紹介いたします.さらに,体細胞分裂と減数分裂の分配様式や,染色体分配とテロメアとの関わりについても解説をしています。急進展を遂げた本分野の最新成果が満載です.ぜひご一読ください.
目次
特集
細胞周期のクライマックス!
分裂期の染色体動態
企画/渡辺嘉典
概論 細胞周期のクライマックスは分裂期に【渡辺嘉典】
細胞の分裂に伴い,ゲノム情報の集約である染色体がどのような分子メカニズムによって正確に娘細胞へ分配されるのだろうか.生命の根幹にかかわるこの重要な問題は,モデル生物あるいはヒトの培養細胞などを用いて,近年ものすごい勢いで解明が進められている.ゲノムDNAがコンパクトに折りたたまれて細胞の両端に分配される,文字通りミクロの世界が,分子細胞生物学的手法により緻密に解かれていく様はまさに圧巻である.本特集で,染色体分配研究の最前線の一端に触れてみてください.
コヒーシン複合体リングによる姉妹染色分体接着のメカニズム【田中晃一】
姉妹染色分体接着は染色体の均等分配に必要不可欠な機構であり,その中心的役割を果たすコヒーシンは巨大なリング構造をとりうるタンパク質複合体である.S期に複製された直後から分裂期に分離する直前まで,2本の姉妹染色分体はコヒーシン複合体によって接着されている.分裂中期にセパレースがコヒーシン複合体のScc1サブユニットを切断すると,コヒーシンは染色体から離脱して姉妹染色分体の接着を解除し,その結果染色体の分配が誘導される.
コンデンシンとゲノムの三次元構築【平野達也】
コンデンシン(condensin)は,真核細胞の染色体の構築と分離に中心的な役割を果たすタンパク質複合体である.近年の研究により,この巨大な複合体の分子構造,分子活性,細胞内機能がしだいに解き明かされようとしている.また,分裂期以外の時期でも重要な機能をもち,原核細胞にも類似の複合体が見出されることから,コンデンシンは,ゲノムの構築,維持,発現,進化にかかわる制御因子としてさらに大きな注目を集めている.
テロメアと染色体分配—世界の末端で愛をさけぶ【近重裕次/平岡 泰】
栄養増殖する細胞においてテロメアに期待されている役割は,従来2ついわれており,1つは末端複製問題を解決して染色体の長さを維持すること,もう1つは染色体DNA末端を保護し,末端DNAにおける不要の相同組換えや,非相同な末端融合を防ぐことであった.これらは,真核生物が染色体は線状でいこうと決めた時点で支払わねばならないコストだったろうと想像できる.最近,姉妹染色分体がテロメアにおいて特有の結合と解離の制御を受けているらしいことが見出された.その生物学的意義は未だ不明であるが,第三の役割として,テロメアが姉妹染色分体分配においても何らかの重要な役割を担っている可能性が出てきた.
体細胞分裂と減数分裂における動原体の方向性の制御【横林しほり/渡辺嘉典】
体細胞分裂期には姉妹染色分体は娘細胞に均等に分配される.一方生殖細胞でみられる減数第一分裂では,姉妹動原体は分離せずスピンドルの同一極へ移動する還元分裂を行う.この分配様式の違いは,微小管と姉妹動原体の結合様式(二方向性あるいは一方向性の結合)によって決定される.ここに姉妹染色分体を接着する因子コヒーシンが重要な役割を果たしている.最近,動原体の方向性の制御にかかわるその他の新規因子が同定され,分配様式の決定にかかわる制御メカニズムの理解が進んできた.
KinIとTOGによるスピンドルと動原体の動態制御【佐藤政充/登田 隆】
細胞分裂期における最も重要で劇的な染色体の挙動の1つとして,スピンドル微小管による染色体の娘細胞への分配があげられる.このプロセスはダイナミックであると同時に,正確さが要求される厳密に制御された過程でもある.そのためには染色体を引っ張る本体であるスピンドル微小管と,その動態を緻密に制御して染色体との結合を司る微小管結合タンパク質群の働きが不可欠である.近年その重要性が明らかになってきた,キネシンKinIと微小管結合タンパク質 TOGの機能を中心として,スピンドル微小管と染色体のクロストーク機構の解明に迫る.
クロモキネシンによる染色体ダイナミクスとその制御機構【大杉美穂/山本 雅】
染色体に結合する微小管モーター分子は,分裂期における染色体の整列・分配という,紡錘体依存的な染色体の運動に必要な力を発揮している.クロモキネシンは染色体腕全体に局在し,染色体腕の中期板への整列を担うプラス端指向性キネシン様モーター分子である.また最近の知見から,分裂後期にも染色体分配に必要な力を生み出していることが明らかになっている.本稿ではこれまでに報告されたクロモキネシンの機能を概説し,Kidに関するわれわれの最新の知見を交えながら,クロモキネシンの機能や局在の制御機構についても触れたい.
Aurora-Bによる染色体分配と細胞質分裂のコーディネーション【寺田泰比古】
染色体パッセンジャータンパク質は,染色体という乗り物に乗って赤道面上まで運ばれ,染色体分配とともに染色体から“降車”し,セントラルスピンドル(中心紡錘体)へ乗り移るダイナミックな細胞局在の変化を示す.これらは,Aurora B,INCENP,Survivinから構成される酵母からヒトに至るまで高度に保存されたタンパク質群で複合体を形成している.分裂期は複数の動的な変化がきわめて短時間に順序正しく行われるようにプログラムされた期間であるが,パッセンジャータンパク質はあたかも分裂期制御のオーケストレーションの指揮者役として,染色体分配,スピンドル形成,細胞質分裂をコーディネートすることによって,姉妹染色分体が正常に娘細胞に分配されることを保証している.分裂期の複雑な事象がどのように連携され染色体パッセンジャータンパク質複合体の下で統御されているのかを概説する.
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ユビキチン-プロテアソーム系による筋組織の衰弱とIKKβ/NFκB経路を介したその新規制御機構【神崎 展】
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