実験医学 2015年2月号 Vol.33 No.3

多細胞社会が形をつくる、器官を生み出す

折れ曲がり、ねじれ、移動する

  • 倉永英里奈/企画
  • 2015年01月20日発行
  • B5判
  • 137ページ
  • ISBN 978-4-7581-0136-3
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

1個の細胞(受精卵)は,気の遠くなるようなプロセスを経て生き物の形をつくっていく.無秩序な細胞塊が,生き物の形をつくる「はじめの一歩」に注目すると,細胞シートの折りたたみという,きわめて単純な組織の変形が観察される.その駆動力を発生する素過程は,折りたたみ以外にも組織伸長や細胞移動にもかかわることが判ってきた.本概論では,形づくりにおける単純から複雑への変化を担うメカニズムとメカニクスについて,後に続く各論を挙げつつ紹介する.

複雑なイベントが,奇跡の精緻さで組み合わさって成立する多細胞生物の「形づくり」.神経管から眼杯形成まで,オルガノイド生成の実用化にも繋がるこの神秘に,観察し・実証する両面から迫ります.

目次

特集

多細胞社会が形をつくる、器官を生み出す
折れ曲がり、ねじれ、移動する
企画/倉永英里奈
概論─からだの形づくりのはじめの一歩【倉永英里奈】
1個の細胞(受精卵)は,気の遠くなるようなプロセスを経て生き物の形をつくっていく.無秩序な細胞塊が,生き物の形をつくる「はじめの一歩」に注目すると,細胞シートの折りたたみという,きわめて単純な組織の変形が観察される.その駆動力を発生する素過程は,折りたたみ以外にも組織伸長や細胞移動にもかかわることが判ってきた.本概論では,形づくりにおける単純から複雑への変化を担うメカニズムとメカニクスについて,後に続く各論を挙げつつ紹介する.
折れ曲がる―ニワトリの神経管形成を例に【西村珠子/竹市雅俊】
神経管は,発生初期における脳・脊髄の前駆体で,神経板とよばれる上皮細胞層が前後軸に沿って陥入し,管腔を形成したものである.神経管形成は,上皮細胞層がダイナミックな構造変化を起こす過程として興味深いとともに,その形成異常は胎児の先天性異常において高率で認められるため,医学的にも重要である.本稿では,神経管形成のしくみについて概説するとともに,われわれが見出した,神経板の細胞間接着の方向性を伴った収縮が,神経板の折れ曲がりをひき起こすメカニズムについて紹介する.
器官をつくる―in vitro眼杯形成モデルと力学シミュレーションによる変形メカニズムの検証【奥田 覚/永楽元次】
多細胞生物の内部には,分子,細胞,組織等の階層的な構造物があり,これらのダイナミクスにより個体発生が実現する.その理解には,現象の鍵となる各階層内の出来事,および,その各階層間の出来事をつなぐしくみを知る必要がある.これまでにわれわれは,多能性幹細胞を用いたin vitro分化系において,立体的な網膜組織を誘導し,眼杯の形態形成の機構の解明に取り組んできた.本稿では,この眼杯形成における陥入現象を例として,実験と力学シミュレーションによる器官形成の理解への取り組みについて紹介する.
陥入する―細胞の頂端収縮と三次元形態変化【近藤武史/林 茂生】
上皮組織の陥入運動は二次元的なシート構造から,三次元的な器官構造をつくり出すうえで重要な形態形成メカニズムの一つである.陥入運動は細胞の頂端収縮により誘導されることはよく知られており,その制御機構も解析が進んでいる.一方で,頂端面以外の細胞の三次元的な形態制御も上皮組織の陥入に大きな影響を及ぼすと考えられるが,どのようにして細胞全体の形態が変化するのかについてはほとんど理解が進んでいない.本稿では,頂端収縮の機構とともに,細胞背丈の制御に関する最近の知見やわれわれが発見した細胞分裂による陥入の加速メカニズムについて概説する.
閉じる―ハエの背部閉鎖を例に【遠山祐典】
神経管閉鎖・創傷治癒などに代表される「閉じる」という動態は,発生や恒常性の維持に重要であり,その異常は深刻な疾患をひき起こす.本稿ではショウジョウバエの背部閉鎖を例に「閉じる」動態を駆動する原動力,特にアポトーシス細胞が上皮細胞から除去されるに伴い発生する「アポトーシス力」を中心に概説する.後半では,まだ黎明期にあるアポトーシスの力学的役割解明研究のこれまでの経緯や,未だ解明されていない問題点も含めて今後のアポトーシス力研究の方向性を論じる.
ねじれる―細胞のキラリティの普遍性と機能【羽鳥 遼/松野健治】
生体を構成するほとんどの高分子はキラリティ(鏡像がもとの像と重ならない性質)を示す.しかし,これらが集まってできた細胞のキラリティに関してほとんど考慮されてこなかった.われわれは,ショウジョウバエの上皮細胞の形態がキラリティ(細胞キラリティ)を示すことを明らかにした.この細胞キラリティによって,消化管が決まった向きにねじれて,左右非対称な形態が形成される.近年,脊椎動物の培養細胞が固有の細胞キラリティを示すことが報告されはじめており,これは,細胞キラリティが予想以上に普遍性の高い現象である可能性を示している.
移動する―ショウジョウバエ外生殖器の回転形成を例に【前川絵美/倉永英里奈】
発生過程における集団細胞移動は,制限された時空間のなかで精密にコントロールされている.ショウジョウバエの雄性外生殖器は,蛹期に360度時計回りに回転することが知られており,われわれは最近,これらの回転現象を集団細胞移動のモデルとして注目してきた.本稿では,本モデルの特長を概説するとともに,実験系と数理モデルを融合させることにより導き出された,個々の細胞が同調し集団となって一方向へ移動するための新しいメカニズムについて紹介する.
牽引する―組織移動による力の生成と形態形成【原 佑介/松本健郎/上野直人】
細胞運動・移動は,生物の発生を支える重要な基本現象の1つであり,組織の変形をもたらす力の発生源でもある.生物の発生過程で生まれる力の規模と形態形成における役割に迫るため,われわれはアフリカツメガエル原腸形成における細胞集団の移動をモデルに力の測定や,力の除去による影響を解析した.in vitro培養系を用いて移動する組織の先端に位置する細胞集団が生成する力を定量したほか,レーザー切断法を用いて後方に連続する組織が前後方向に引張力を受けていることを示した.また,この引張力は正常な脊索形成に必要であることも明らかとなり,先端の細胞集団が後方の中胚葉を牽引することによって形態形成運動に寄与している姿がみえてきた.

Update Review

クラスター型プロトカドヘリン:複雑なニューラルネットワークへの挑戦【八木 健】

トピックス

カレントトピックス
3D革命―生命活動の真の姿を照らし出す次世代蛍光顕微鏡技術【下澤東吾/清末優子】
なぜ亜鉛は生体防御に必要なのか?【深田俊幸/宮井智浩/北條慎太郎】
マクロファージの分泌するケモカインがメモリーCD4陽性T細胞の組織常在性と機能を維持する【飯島則文】
複製フォークによび込まれたDDKキナーゼが減数分裂期に複製と相同組換えの開始を同調させる【村上 創】

連載

【インタビュー】日本のライフサイエンスを担う これからのリーダーの条件を求めて
第2回 卓越した成果を挙げるために考えること,できること【インタビュー:上田泰己】
【短期集中連載】科学を愛するあなたのための研究費があります。[前編]
【金城政孝/三輪佳宏】
クローズアップ実験法
DNAメチル化レポーターマウス「メチロー」を用いたメチル化DNAの動態解析法【上田 潤/前原一満/大川恭行/山縣一夫】
統計の落とし穴と蜘蛛の糸
実験計画はお早めに―完全無作為化法【三中信宏】
DR 〜既存薬が新薬に生まれ変わる温故知新のサイエンス!
DRによる希少疾患用医薬品 (オーファンドラッグ) の開発【林 久允】
私のメンター 〜受け継がれる研究の心〜
Andrew D. Ellington―核酸アプタマーを開発した直球勝負の研究者【平尾一郎】
Campus & Conference 探訪記
健康長寿を目指し,新たな一歩は踏み出された ―第1回 日本サルコペニア・フレイル研究会研究発表会【矢可部満隆】
ラボレポート ─留学編─
NY―人種のサラダボウル―での研究生活 ―Columbia University in the City of New York【山崎高志】
Opinion ―研究の現場から
多様化する大学とキャリア戦略【村井祐基】

関連情報

特集 Online Supplemental Data

  • [1] 雄性外生殖器原基の回転運動
  • 0分23秒 2015年1月20日公開
  • 核移行する蛍光タンパク質がすべての細胞で発現するショウジョウバエをライブイメージングした
  • (430ページ図1A参照、Kuranaga E, et al:Development, 138:1493-1499, 2011より転載)
  • 雄性外生殖器原基の回転運動

カレントトピックス Online Supplemental Data

  • [1] H2B-GFPをノックインし核を可視化したマウス胚前脳領域の3D表示
  • 0分21秒 2015年1月20日公開
  • (459ページ図1B参照、Shimozawa T, et al:Proc Natl Acad Sci U S A, 110:3399-3404, 2013より転載)
  • H2B-GFPをノックインし核を可視化したマウス胚前脳領域の3D表示
  • [2] Membrane-GFPを発現し細胞膜を可視化したショウジョウバエ胚の60-80 μm深部にある細胞の表面レンダリング
  • 0分26秒 2015年1月20日公開
  • (459ページ図1C参照、Shimozawa T, et al:Proc Natl Acad Sci U S A, 110:3399-3404, 2013より転載)
  •  Membrane-GFPを発現し細胞膜を可視化したショウジョウバエ胚の60-80 μm深部にある細胞の表面レンダリング
  • [3] EB1-GFPを発現するショウジョウバエ胚25μm深部のライブイメージング
  • 0分02秒 2015年1月20日公開
  • (459ページ図1D参照、Shimozawa T, et al:Proc Natl Acad Sci U S A, 110:3399-3404, 2013より転載)
  • EB1-GFPを発現するショウジョウバエ胚25 μm深部のライブイメージング
  • [4] EB1-GFPを発現する間期HeLa細胞の3Dタイムラプス像とEB1コメットの3Dトラッキング
  • 0分12秒 2015年1月20日公開
  • (460ページ図2E参照、Chen BC, et al:Science, 346:1257998, 2014より転載)
  • EB1-GFPを発現する間期HeLa細胞の3Dタイムラプス像とEB1コメットの3Dトラッキング
  • [5] EB1-GFPを発現する分裂期HeLa細胞の3Dタイムラプス像とEB1コメットの3Dトラッキング
  • 0分16秒 2015年1月20日公開
  • (460ページ図2E参照、Chen BC, et al:Science, 346:1257998, 2014より転載)
  • EB1-GFPを発現する分裂期HeLa細胞の3Dタイムラプス像とEB1コメットの3Dトラッキング
  • [6] EB1-GFPとH2B-TagRFPを発現する分裂期HeLa細胞の3Dタイムラプス像
  • 0分33秒 2015年1月20日公開
  • (460ページ図2E参照、Chen BC, et al:Science, 346:1257998, 2014より転載)
  • EB1-GFPとH2B-TagRFPを発現する分裂期HeLa細胞の3Dタイムラプス像
  • [7] EB1-GFPとH2B-TagRFPを発現する分裂期HeLa細胞の、EB1-GFPの3Dトラッキング(ボールと線)と染色体の表面レンダリング(オレンジ)
  • 1分01秒 2015年1月20日公開
  • (460ページ図2E参照、Chen BC, et al:Science, 346:1257998, 2014より転載)
  • EB1-GFPとH2B-TagRFPを発現する分裂期HeLa細胞の、EB1-GFPの3Dトラッキング(ボールと線)と染色体の表面レンダリング(オレンジ)
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  • 【本書名】実験医学:多細胞社会が形をつくる、器官を生み出す〜折れ曲がり、ねじれ、移動する
  • 【出版社名】羊土社

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