推薦の言葉

創刊を待ち望んだ1人として,関係の方々にお礼を述べたい.

専門医制度の改革の中で重要課題として位置づけられている総合診療専門医は,これからの日本の医療の歴史的な転換点になる.しかし,私たちが忘れてはならず,決して奢ってはならないのは,このことをもたらしたのが,日本の医療の変革を切望した長い年月に渡る現場の声の結果だということである.

総合診療専門医が評価に耐えうるものになるかどうかについて,私は3つをあげる.1つは専門医に安住することなく常に研鑽を怠らないことである.従来型の臓器・疾患別専門医は,総合診療専門医が設立されると,より純化し高度化しさらなる発展を続けるだろう.日本のプライマリ・ケア強化という役割を担う総合診療専門医は,彼らと有機的で密接な連携を持ち医療を支えていくのであるから,より持続的研鑽の必要性については言うまでもない.1つはロールモデルとして尊敬しうる先輩医師を見つけ,自身がいずれその役を担うべきであると自分に課すことである.これは復古的な医術の伝承に戻れと言っているのではない.総合診療医の本質として,総体としての医師のあり方が大切であり,ロールモデルの存在が実は教育そのものと考えるからである.1つは科学的現場主義の実践である.この現場の意味するものは,地域であり,守るべき個々の人々の家庭の幸せである.医療者である自分に与えられた守るべき場こそが,自分自身を鍛えるという正の循環に身を置くことである.この循環の中に医師の幸せが隠されている.医師としての科学性と論理性が必要である.

日本プライマリ・ケア連合学会は家庭医療専門医を育成している.総合診療専門医は育成の各論においては近似的なものになるであろうが,大きな違いがある.前者は一学会によって育成されたものであり,後者は第三者機構による評価を必要とし,そのことにより国民への責任性が強く担保されているところである.すべての専門医がこのような変革を経て生まれ変わったときに,国民と医療者の相互理解が進むであろう.

一方で,日本医師会が提唱する「かかりつけ医」という名称を,私はきわめて大切なものだと思っている.それが意味するものは,「医療を必要とする人々によって選ばれた医師」ということであるからだ.どんな制度ができようと,人々から信頼され選ばれること以上に医療人として誇れるものはないだろう.

本誌は,総合診療を実際的な内容を中心に示していただけるとお聞きしている.手元にある創刊号の原稿を読むと,プライマリ・ケアにかかわる医師が各号を読み進めていくうちに,総合診療を包括的に理解する帰納的トリックとともに,これからの日本の医療へのメッセージが散りばめられていることに気づくであろう.家庭医療専門医,そして将来,総合診療専門医を目指す方はもちろん,プライマリ・ケア,地域医療に携わるすべての方に本誌をお薦めする.

読者の中から,選ばれた責任を果たす「真のかかりつけ医」が育まれ,次代の総合診療のロールモデルとなっていただくことを期待している.

2014年4月

日本プライマリ・ケア連合学会 理事長

丸山 泉

Gノート 2014年4月号(創刊号)より

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