実験医学 2016年6月号 Vol.34 No.9

直径100nmのメッセンジャー エクソソームは診断・治療に革命をもたらすか?

  • 吉岡祐亮,落谷孝広/企画
  • 2016年05月20日発行
  • B5判
  • 141ページ
  • ISBN 978-4-7581-0152-3
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

現在の科学では「生命」の全容解明は難しく,それだけ生命が複雑であることは容易に想像できる.生物が進化の過程で取り入れてきた複雑なシステムを解き明かすことは,われわれを苦しめる疾患に立ち向かうのに必須であり,そのシステムを上手く利用することが重要である.本特集のキーワードであるエクソソームも例外ではなく,生体がもつ天然の情報伝達システムであるエクソソームを理解することは複雑な生命の成り立ちを理解するだけでなく,疾患に対抗する新たな手段となりうる.

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タンパク質,脂質,RNA,DNA…沢山の積荷を抱えて体内を巡る「分子のサラダボウル」,エクソソーム.体液診断の最前線から,実験プロトコール,老化や進化への関わりまで、エクソソームの全てがわかる決定版!

目次

特集

直径100nmのメッセンジャー
エクソソームは診断・治療に革命をもたらすか?
企画/吉岡祐亮,落谷孝広
概論─エクソソームに学ぶ【落谷孝広】
現在の科学では「生命」の全容解明は難しく,それだけ生命が複雑であることは容易に想像できる.生物が進化の過程で取り入れてきた複雑なシステムを解き明かすことは,われわれを苦しめる疾患に立ち向かうのに必須であり,そのシステムを上手く利用することが重要である.本特集のキーワードであるエクソソームも例外ではなく,生体がもつ天然の情報伝達システムであるエクソソームを理解することは複雑な生命の成り立ちを理解するだけでなく,疾患に対抗する新たな手段となりうる.
疾患生物学アップデート
エクソソームによるがん転移の新しいストーリー【星野歩子】
1889年にStephen Pagetのseed and soil仮説が提唱されて以来,がん転移の成立には転移に適する微小環境が必要であるとされてきたが,転移の臓器特異性はがん転移の研究における最大の謎の1つとされてきた.今回われわれは,がん転移機構に寄与することが近年報告されているエクソソームには臓器別分布を規定する“郵便番号”のような役割をするタンパク質発現パターンがあることを示し,そのエクソソームが取り込まれた臓器でがん細胞が転移しやすいニッチの形成を証明した.臨床データから患者血中のエクソソームの“郵便番号”が未来の転移先の予測に有用であり,今後エクソソームを標的とした治療およびバイオマーカーの開発が期待される.
免疫細胞が放出するものはサイトカインだけではない【瀬尾尚宏,珠玖 洋】
がん細胞株が放出するエクソソームには,間質を含めたがん環境の整備や前転移ニッチの形成など,がんの悪性化を促す役割がある.このことは,エクソソームという膜小胞が放出細胞の性質を受け継ぎ,これまでは主にサイトカインで説明されてきた機序の一端を担うことを意味している.反対に,生体が自然に備えているがんの進行を抑える免疫というしくみを考えた場合,免疫細胞が放出するエクソソームにはがん細胞を攻撃したりがんの増殖を抑えたりする働きがあると容易に想像できるが,これに関する報告はない.この未知の課題を,われわれは最近腫瘍の間葉系細胞とエクソソームとの不思議な親和性から解き明かしつつある.
エクソソームによる神経変性疾患タンパク質の脳内移行【池津庸哉】
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では線維化したタンパク質の凝集体が神経細胞内外に蓄積され,これらに病原性があることが示唆されている.これらのタンパク質が,エクソソームに存在することが明らかとなり,エクソソームによる病原性タンパク質の脳内移行が疾患の病態発生に深く関与する可能性が考えられている.本稿ではアルツハイマー病に特徴的な神経原線維変化にみられるタウというタンパク質の沈着の進展にエクソソームがどのようにかかわるのかを紹介する.
診断・治療
目に見えぬエクソソームでどこまで診ることができるか?―体液診断の可能性【吉岡祐亮,落谷孝広】
エクソソームは多種多様な分子を内包しており,細胞間ないし,個体間で受け渡すことで細胞間コミュニケーションツールとして働く.その生物学的意義を明らかにすることは新たな疾患メカニズムの解明につながる可能性があり,エクソソームへの注目が集まっている.エクソソームを介した細胞間コミュニケーションを読み解くと,細胞が発しているシグナルを捉えることができる.現在,このシグナルを疾患診断へ応用する研究がさかんに行われており,エクソソームが体液診断(リキッドバイオプシー)の新たなリソースになることがわかってきた.本稿では,どのようにして細胞間のシグナルを傍受し,診断応用をめざしているのか,現状とその可能性について概説する.
エクソソームを利用したDDSの開発【高橋有己,高倉喜信】
エクソソームは内包する核酸やタンパク質をその取り込み細胞に送達する天然のデリバリーシステムである.したがって,エクソソームを利用することで安全性が高く効率的なドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が可能であると期待され,その有用性を示す報告も次々となされている.一方でそのDDS応用への研究についてはいまだ端緒についたばかりであり,課題も多く残されている.本稿ではエクソソームを利用したDDSについて,その現状と開発に向けて解決すべき課題について,われわれの検討結果も含めて紹介する.
エクソソームが築く次世代の医療【西田奈央】
エクソソームはがん,アルツハイマー病,心筋梗塞や脳梗塞,感染症など幅広い疾患の治療への応用が期待されている.治療応用の方針としては,有害なエクソソームを治療標的とみなして排除する方向と,エクソソームそのものを治療薬やドラッグデリバリーシステムの運搬体として利用する方向とがある.エクソソームを利用した治療は各国で臨床試験が進められており,バイオベンチャー企業も設立され,国を挙げて研究開発を推進している.品質管理の点で課題は残るものの,エクソソームを使った治療が普及する日も近いだろう.
技術
検体・目的別エクソソーム解析技術の現状と課題【植田幸嗣】
細胞外分泌小胞の一種であるエクソソームには,それを産生する細胞のさまざまな分子情報(核酸,タンパク質,代謝物など)が含まれている.特に病因細胞由来エクソソームの分子構成解明は新たな診断薬・治療薬開発につながることが期待されており,活発に研究が行われている.しかし,現在エクソソームの精製法や市販精製キットは原理の異なるものが多種類乱立している状況で,当然得られる結果産物にも大きな差異がある.本稿では解析試料や対象分子によって,どのように精製法を選択するべきか実例を踏まえて概説する.
フォーラム:エクソソーム研究の広がる世界
グラム陰性菌とグラム陽性菌が分泌する細胞外小胞【Yong Song Gho,Oh Youn Kim】
エクソソームとがん免疫療法の新たな接点【門田 宰,吉岡祐亮,藤田 雄,桑野和善,落谷孝広】
医薬品とエクソソームの関係性からみるこれからの研究展開【萩原啓太郎】
エクソソームの積荷はタンパク質,脂質,miRNA,mRNA,DNA?【吉岡祐亮】
エクソソームの老化とのかかわりと外来ソース【田原栄俊】
エクソソームのトランスポザーゼ活性は進化の原動力となりえるか【山本雄介】

インタビュー

日本のサイエンスを担う これからのリーダーの条件を求めて
第7回 人材を育て,知とリーダーシップを次世代につなぐ 【インタビュー 御子柴克彦】

トピックス

カレントトピックス
転写因子LRFとBCL11Aはそれぞれ独立した経路で胎児型ヘモグロビンの発現を抑制する【増田 豪,前田高宏】
AIMタンパク質は死細胞塊の除去を促進し,急性腎障害を改善する【新井郷子,宮崎 徹】
GTP感知機構の発見―新たながんと代謝疾患治療戦略への鍵【竹内 恒,千田俊哉,佐々木敦朗】
News & Hot Paper Digest
遊走細胞の細胞膜張力勾配【岩楯好昭】
母体免疫活性化により誘導される胎仔脳形成異常の新しい展開【向山洋介】
ベージュ細胞から分泌されるホルモン様物質は,代謝改善効果を示す【佐々木 努】
Microbiome統計解析法の決定版MiRKAT現る【西山 毅】
CRISPR/Cas9システムによるマウス・ヒト抗体遺伝子座の編集【董 金華,上田 宏】

連載

クローズアップ実験法
PNA–NGS法による体細胞GNAS変異の高感度検出【鳴海覚志】
印象力でチャンスを掴む! 研究ポスターのデザイン術
レイアウト・身だしなみ【大塩立華】
テツヤ、留学生活はどうだい。
異文化コミュニケーションのカギは2回目の会話【Kyota Ko,Simon Gillett】
いま、がんのクリニカルシークエンスがおもしろい!
ctDNA解析技術:検出感度と網羅性【八谷剛史,谷上賢瑞,西塚 哲,中川英刀】
私の実験動物、個性派です!
再生生物学の新時代へ―古くて新しいモデル生物イベリアトゲイモリ【林 利憲,竹内 隆】
私のメンター 〜受け継がれる研究の心〜
Dario R. Alessi ― 一瞬の輝きより,永遠のときめき【坂本 啓】
ラボレポート ―留学編―
今,そこにある問題を解決するための研究―CDCへの留学―Centers for Disease Control and Prevention(CDC)【鈴木忠樹】
Opinion ―研究の現場から
もっと光を! 異分野をつなぐ光合成研究のおもしろさ【浅井智広】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:直径100nmのメッセンジャー エクソソームは診断・治療に革命をもたらすか?
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