実験医学 2017年2月号 Vol.35 No.3

未知なるリンパ

全身にはり巡らされた循環・免疫・がん転移の新たなネットワーク

  • 渡部徹郎/企画
  • 2017年01月20日発行
  • B5判
  • 143ページ
  • ISBN 978-4-7581-0160-8
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

われわれの体の恒常性は,血管による末梢組織における物質交換により維持されている.血管から漏れ出た組織液(リンパ)はリンパ管を介して血管へ還流されることで閉鎖循環系が維持されており,リンパ管の機能不全はリンパ浮腫の原因となる.また,リンパ球(免疫細胞)が循環しているリンパ系は生体防御の場として重要な役割を果たしており,免疫機能のバランスがとれなくなると炎症が引き起こされる.さらに,がんのリンパ節転移は予後不良因子であり,がんの診断・治療においてリンパ行性がん転移機構の解明は急務である.つまり,リンパ系は微小循環と免疫を制御し,リンパ浮腫,炎症,がん転移という疾患に深く関与する重要な全身ネットワークである.近年リンパ学において多くのブレイクスルーが生まれつつあり,本特集ではさまざまな観点から,その最前線を紹介する.

人体の「下水道」として働きつつ,免疫の恒常性を保ち,がん細胞転移の経路となるリンパ系.免疫細胞が体を巡るメカニズム,転移のニッチを作る機構に加え,超微小手術やSN生検など臨床と基礎をつなぐ話題も充実.

目次

特集

未知なるリンパ
全身にはり巡らされた循環・免疫・がん転移の新たなネットワーク
企画/渡部徹郎
概論—今まさに変わりつつあるリンパ学【渡部徹郎】
われわれの体の恒常性は,血管による末梢組織における物質交換により維持されている.血管から漏れ出た組織液(リンパ)はリンパ管を介して血管へ還流されることで閉鎖循環系が維持されており,リンパ管の機能不全はリンパ浮腫の原因となる.また,リンパ球(免疫細胞)が循環しているリンパ系は生体防御の場として重要な役割を果たしており,免疫機能のバランスがとれなくなると炎症が引き起こされる.さらに,がんのリンパ節転移は予後不良因子であり,がんの診断・治療においてリンパ行性がん転移機構の解明は急務である.つまり,リンパ系は微小循環と免疫を制御し,リンパ浮腫,炎症,がん転移という疾患に深く関与する重要な全身ネットワークである.近年リンパ学において多くのブレイクスルーが生まれつつあり,本特集ではさまざまな観点から,その最前線を紹介する.
リンパ管とリンパ節の形成と維持を司る分子機構【吉松康裕】
リンパ管もリンパ節も単に水分や脂肪を多く含むリンパの回収のみならず,リンパ球をはじめとする細胞成分を通過させ免疫における監視と防御の場としても重要な役割を果たす.リンパ管の発生は静脈からの分化および分離,弁の形成と複数のステップが存在し,それぞれを司る転写因子を中心とした分子機構が明らかになってきた.リンパ節の発生はリンパ組織オーガナイザー細胞とリンパ組織誘導細胞の相互作用が重要であり,免疫にもかかわる接着分子やケモカインが形成過程に重要な役割を果たす.
ライブイメージングが明かすリンパ管系形成のメカニズム【磯貝純夫,斉藤絵里奈,下田 浩】
循環する血管系とは異なり,盲端にはじまる毛細リンパ管叢は集合管系へと集まり,ヒトでは最終的にすべての系は頸部で静脈に注ぎ“リンパ”を血管系に戻す.その重要性にもかかわらず,頭部・頸部・胸部・腹部・四肢・内臓器官に階層性をもって分布するリンパ管系の形成過程は謎に包まれている.リンパ管内皮を特異的に標識する分子マーカーとモデル動物小型魚類の出現は百年以上にわたって続いた論争に決着をつけたかに思われた.しかし,最新の研究結果は発生のメカニズムが予想したよりも複雑であることを示し,新たな論争を巻き起こしている.
腸と四肢のリンパ循環の違いに依存したリンパ機能特性【大橋俊夫,河合佳子,前島大輔】
これまでのリンパ学におけるわれわれの研究成果から著者らはリンパ循環学,自然免疫学,腫瘍学を連結した「新しいリンパ学」創生の必要性を提唱してきた(J Physiol Sci, 65:51-66, 2015)1).本稿では,その新しいリンパ学の重要性を再認識していただくために,血漿タンパク質,特にアルブミンのリンパ系を介した再循環機構の腸と四肢との相異点から,スターリング仮説,リンパ産生機構,水分・長鎖脂肪酸吸収特性,自然免疫機構を見直し,その生理学的意味と意義について解説した.
リンパ球と血管内皮細胞リンパ管内皮細胞との相互作用研究に関する新展開【竹田 彰,宮坂昌之】
最近,リンパ球と血管内皮細胞,リンパ管内皮細胞との相互作用に関する研究が再び動き出している.本稿では,最初にリンパ球と血管内皮細胞間相互作用を概説した後,しだいに明らかになりつつあるリンパ管内皮細胞の新しい機能を特に免疫学的な立場から紹介し,最後に,これまで用いられている培養リンパ管内皮細胞に関する問題点についても触れる.
炎症とリンパ管新生ー治療標的としてのリンパ管リンパ組織の可塑性【馬嶋正隆,天野英樹,細野加奈子】
「リンパ管」,その存在は100年以上も前から知られてきたが,その生成機構,生体内調節因子の解明が進んだのはごく最近であり,今でも次々と新しい発見が続くホットな研究分野である.炎症反応は,免疫系と並んで生体防御にとって重要であり,両者には共通の“役者”が登場することも少なくない.炎症反応の基盤には,脈管の反応がある.炎症時にはリンパ管のダイナミックな構造および機能変化,すなわち神経系のそれと類似した“可塑性”が認められる.本稿では,炎症反応とリンパ管,リンパ組織の可塑性を制御する因子の役割を概説し,炎症反応が基盤に存在する病態を対象に,可塑性を治療標的とすることの意義について紹介したい.
がんのリンパ節転移ーそのメカニズムと治療への応用【島田理子,竹内裕也,北川雄光】
がんのリンパ行性転移にはがんのリンパ管新生が密接に関与しているが,そのメカニズムはまだ明らかでないことも多い.近年,がんのリンパ行性転移のメカニズムが注目されており,なかでもセンチネルリンパ節(SN)はがんの転移が最初に生じるリンパ節であることから,リンパ行性転移を考えるにあたって重要な役割をはたしていると考えられる.がんのリンパ管新生について最新の知見に触れるとともに,がんのリンパ管新生の阻害による臨床応用の可能性について述べる.また,SNにおける局所免疫抑制機構とリンパ行性転移の中で果たす役割についてその概要を述べる.
リンパ浮腫治療の最前線ー世界に発信するリンパ管細静脈吻合術【光嶋 勲,山下修二,吉田周平,播摩光宣,成島三長】
浮腫発生機序はリンパ管閉塞が起こると直後から集合リンパ管の平滑筋細胞の変性と再生が起こる.その後も閉塞が続くと再生筋は消失し皮下の脂肪増殖や線維化が起こるものと思われる.ICG蛍光検査法は集合リンパ管の還流機能を直接見ることができ潜在性浮腫の早期診断と浮腫の予後判定に有用である.リンパ浮腫の予防と治療としては,リンパ管細静脈吻合術(LVA)が有効で1990年以後世界に発信された.LVAは,リンパ浮腫例において,うっ滞したリンパ液を静脈系に還流させるバイパスを作成する超微小術式である.LVAの適応は,四肢や頭頸部のリンパ浮腫で,早期浮腫,骨盤内リンパ嚢胞,乳び腹水などのほか浮腫の予防的治療,重症浮腫例も適応がある.

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