感染症にもっと強くなる!「高齢者や入院患者,終末期患者ではどうする?入院できない患者の場合は?特殊感染症だったら?検査所見の活用法は?」など専門医がいない病院・診療所でどう診るか経験豊富な医師らが解説
−後略−
卓越した臨床能力をもつ濱口杉大 先生が企画された「感染症診療」の本と聞き,手に取らずにはいられなくなった.没頭し一気に読んだ.これは総合診療医の立場で書かれた感染症診療の本である.感染症の非専門医が最新の知識を学び,日常診療に深みをもたせるのに最適な書である.
第1章の「総合診療医が感染症を診断するうえで重要なコツ」では,時間軸と空間軸(個体,生活,社会,環境)を意識した病歴聴取が紹介されている.病歴や身体所見は「狙ってとりにいく」姿勢がとても大切である.鑑別診断を想定しながら,その疾患に特徴的な症状や身体所見を探しに行くのである.
第2章では,グラム染色や抗菌薬の選び方,ワクチン接種について,総合診療医が身につけておくべき基本的かつ重要なメッセージが散りばめられている.国家試験に合格し診療をはじめたばかりの初期研修医にもぜひ一読していただきたい.抗菌薬の基本的な選択法を効率よく学ぶことができる.
よくある悩ましい状況における感染症診療の実例として,病院や診療所における高齢者感染症,症状がはっきりしない慢性期入院患者の発熱,がんターミナル患者の感染症が第3章では論じられている.実臨床では,このようなケースは非常に多い.肺エコーの積極的な活用など,自分の今までのプラクティスを大いに反省させられる内容がたくさんあった.
あらゆる疾患が診療対象となる総合診療では特殊な感染症(結核,HIV,免疫低下患者,輸入感染症)に遭遇することがある.免疫不全患者では,皮膚粘膜バリア障害,好中球減少,細胞性免疫障害,液性免疫障害に分け系統的に考える.ステロイド使用中の患者における細胞性免疫低下はよく遭遇する.第4章で取り上げられている細胞性免疫障害時に問題となる微生物についての考察は特に重要である.ウイルス(HSV,VZV,EBV,CMV),細菌(レジオネラ,リステリア,抗酸菌,ノカルジア,サルモネラ),真菌(アスペルギルス,クリプトコッカス,ニューモシスチス)の感染症に思いをはせる必要がある.
第5章には感染症科のない施設でどのような取り組みがなされているかの紹介がある.そして,第6章では若手医師への教育,国際医療協力,臨床研究について語られている.濱口先生らしい,まとめであった.読み終わったあとに清涼感が残る書籍である.
総合診療医は病院の規模や地域社会のニーズに応じて,自分の診療姿勢を自由に変えることができる医師である.勉強すべき領域は広いが,その分,やりがいも大きい.教育に熱い情熱をもつことも重要だ.この本に書かれたことを実践しよう.総合診療力がググッと上がりそうである.
山中克郎(諏訪中央病院 総合内科)
私が研修医だった20年近く前は世間的にはようやく臨床感染症へ目が向けられはじめた黎明期でした.感染源を同定する努力をする,抗菌薬は熱冷ましではない.CRPだけで,診療しない.今では当たり前のことですが,つい20年近く前はそうではありませんでした.この本を拝読して,短期間に日本の臨床感染症のレベルが確実に上がっているのだと実感しました.
本の内容は,教科書的な印象はなく,個々の著者の経験を強く反映しながらもエビデンスとの融合が計られ,現場の楽しさや苦しさ,その醍醐味がよく伝わって来ます.多少くどいかなと思う部分もありますが,それはむしろ現場目線で書かれてることの裏返しだと感じました.
“私はこう説明しています” と書かれたまとめは実臨床で大変参考になります.それぞれの項目も,疾患別ではなく,背景因子や置かれた環境などで単元がわかれており,この点も現場に即したものであると感じました.
内科を標榜する医師であれば,いやむしろ医療者なら一度は目を通してほしい内容だと感じました.
西原崇創
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