特集にあたって
特集にあたって
〜なぜ地域志向アプローチは難航するのか?ポートフォリオを例に
井階 友貴
福井大学医学部地域プライマリケア講座(高浜町国民健康保険和田診療所)
地域の抱える課題にどう取り組むか?
“地域志向アプローチ”は,“患者中心の医療”“家族志向のプライマリ・ケア”と並んで,総合診療医を総合診療医たらしめる重要なコンピテンシーの1つです.総合診療専門医研修においては,「地域のヘルスプロモーション」領域のポートフォリオ提出が必須とされています.ところが,地域ヘルスプロモーションの研修およびポートフォリオ作成にあたっては,専攻医も指導医も困惑し難航しているという話をよく耳にします.なぜ,地域志向アプローチは難航するのでしょうか.
なんとなくやるべきだと感じている.
でも,誰が,誰と,いつ,どこで,何をすべきなのか,わからない,自信がない.
そして,そのように考えをめぐらせ実行するには,時間的,能力的,労力的問題がある.
専攻医・指導医の先生方が感じられている困難な点は,編集部が左のページでまとめてくださった通り,「時間の壁」「知識・経験の壁」「人の壁」であり,皆さんも特に異論はないと思います.
この点をもう少し掘り下げてみると,どうすれば地域ヘルスプロモーションへのとっかかりをつかめるかが見えてきます.“地域”の抱える課題として,まず① 問題があまりに多岐にわたることがあげられます.「血圧の高い者が多い」「喫煙者が多い」などの健康関連の課題のみならず,「独居が多い」「経済的に困窮」などの社会的な問題も,地域住民の健康に密接にかかわっているため,無視することはできません.そして,② 問題が地域ごとに違うこと.全国に1つとして同じ地域は存在しませんので,地域志向アプローチの「マニュアル化」が阻害されます.さらに,③ 総合診療医だけでは解決できない問題も多いこと.メディカルスタッフや保健・介護・福祉,行政,住民などとともに取り組まないといけないことが少なくありません.最後に,そもそも④ 総合診療医が主体ではないこと.本来地域は地域住民のためのものであり,一方的なアプローチは効果を示さないばかりか,地域にとってマイナスとなることもありえます.①,②への対策として問題解決の本質性と汎用性が,③,④への対策として地域協働と地域主体性が求められているといえるでしょう(表).
そこで本特集は,なぜ地域ヘルスプロモーションの研修・ポートフォリオ作成が難航するのかを読み解きながら,地域ヘルスプロモーションの実践および指導に具体的に参考になる理論と実践を,全国の貴重な経験から共有することを目的に,企画させていただきました.各稿は理論×実践例の構成とし,理論部分では問題解決に向けての本質的な要素と他の地域でも使える汎用性の要素を,実践部分では実例からにじみ出る地域協働と地域主体性の要素を,それぞれ感じとっていただけるようにしました.本特集をきっかけとして,全国各地の総合診療研修における地域ヘルスプロモーションの実践と指導が少しでも前向きにとらえられ,活発に実践されることを願っています.
最後になりますが,非常にお忙しいなか,実行だけでも大変な地域志向アプローチの様子をご執筆賜りました総合診療医の先生方に,心より御礼申し上げます.ご執筆の先生方,読者の先生方,全国各地の皆様の思いが重なり,地域そのものが健康で元気になれる,そんな可能性を感じている次第です.
著者プロフィール
井階 友貴 Tomoki Ikai
福井大学医学部地域プライマリケア講座(高浜町国民健康保険和田診療所)
福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりにかかわり出して早9年,これからも“まちづくり系医師”めざして地道に頑張ります☆