特集にあたって
特集にあたって
市河茂樹
(社会福祉法人太陽会 安房地域医療センター 小児科)
発達障害は,DSM-5®では神経発達症群(neurodevelopmental disorders)として6つの疾患群が記載され,厳格な診断基準が示されています.しかし,正確な診断にこだわると理解が難しくなるので,今回の特集では発達障害を「中枢神経の先天的な機能障害により,① 言葉,② 社会性,③ 協調運動,④ 感情や情緒のコントロール,に困難がある状態」と定義し,臨床でよく出会う自閉症スペクトラム(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)を中心に扱います.
発達障害診療は,従来小児科・精神科医の間でも日陰の存在でした.しかし,発達障害の症状をもつ人は,一般小児人口の6.3%存在するとされ,気管支喘息や熱性けいれんと同様,コモンな現象です.さらに成人後にうつ病や自動車事故などのリスクが高いことが示されており,生涯にわたる重大な健康問題です.家庭や教育の問題と思われがちでしたが,薬物治療などの医療によって予後を改善できることもわかってきました.
筆者は10年にわたり,小児科専攻医や総合診療医と協力して発達障害を診療してきました.その経験から「今後,発達障害は総合診療医の得意分野になる」と感じています.発達障害診療は,まずコモンであること,続いて地域との連携や長期間のフォローが必要なこと,家族に寄り添い励まして,時には親の診療も行う必要があることなど,総合診療医の専門性が生きる場面がたくさんあります.
発達障害の子どもと家族の立場になってみましょう.発達障害の専門医は非常に数が少なく,初診まで6カ月かかったり,自宅から数時間かかる医療機関に行かなければならなかったりします.それに比べて,かかりつけでお互いに気心が知れているうえに,家からも近い医療機関で発達の相談ができる安心感は代えがたいものがあるでしょう.
Dartmouth大学のProf. Donnellyは2015年に「北米ではまず総合診療医がかかわり,難しいケースを専門医に紹介する疾患になりつつある」と話してくれました.今,日本でもその動きが本格化しつつあると思います.
今回の特集では,発達障害診療をわかりやすく伝えることができる執筆陣が揃いました.これまで直接患者さんを診る機会がなくても,発達障害は社会にあふれています.ぜひ発達障害に興味をもってください.そして発達障害の診療に踏み出していただけると幸いです.
なお,「害」という漢字を避ける意味で2001年ごろから「障がい」という表記が用いられるようになりました.現時点では「障害」と「障がい」の2通りの表記が混在しています.「障害」・「障がい」それぞれに考え方がありますが,本特集では「発達障害」などの疾患名や法律用語は「障害」,それ以外は「障がい」と表記しています.「障がい」の意味に思いを馳せながら読んでいただけると幸いです.
著者プロフィール
市河茂樹 Shigeki Ichikawa
社会福祉法人太陽会 安房地域医療センター 小児科
プロフィールはp.1221参照