第2回 申請書を書く ポイント①(2024.02.02更新)

申請書の書き方

 さてその特別研究員の応募書類だが,いくつかの項目で科研費申請書と似た部分がある.特別研究員の審査方針にも,「自身の研究課題設定に至る背景が示されており,かつその着想が優れていること.また,研究の方法にオリジナリティがあり,自身の研究課題の今後の展望が示されていること」とあり,これらは科研費申請書の評価基準と一致する.また申請書中の「2.【研究計画】」のなかの「(1)研究の位置づけ」の「当該分野の状況や課題等の背景」「本研究計画の着想に至った経緯」,「(2)研究目的・内容等」の「研究目的,研究方法,研究内容」「何を,どこまで明らかにしようとするのか」「研究の特色・独創的な点」などの項目は科研費申請書とほぼ同じだが,その一方で,個々の項目の記載順は科研費とは少し異なる.また「4.【研究遂行力の自己分析】」のなかの「研究に関する自身の強み」は,科研費申請書の「2 応募者の研究遂行能力」とほぼ同じだが,「今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」ならびに「5.【目指す研究者像等】」は特別研究員ならではの項目である.さらにPDにおいては「(3)受入研究室の選定理由」の項目がある.

 科研費の申請書と同じく,特別研究員の申請書の様式も変更されることがあるので,申請書を作成するときには必ず応募年度の申請書をチェックすること.特に科研費申請書の様式が変更されたときに,それに沿って変更されることがある.

 おそらく特別研究員に応募する者は,このような申請書を書くのがはじめてではないだろうか? そのため,何を書いていけばいいのか,またどのようにページを埋めていったらいいのか,わからないことが多いことだろう.このようなときには,大きな部分を小さく分けて書いていくとよい.

 また「適宜概念図を用いるなどして」とあるように,図表を使って説明するのは非常に効果的なので,図表の活用をお勧めする.

 私の研究室からはこれまでに2名が特別研究員に採用された.彼らとのこれまでの応募経験と,特別研究員について個人的に勉強してきたことをもとにして,申請書の各項目を書いていくうえでの要点をまとめた.

 特別研究員の申請書のフォーマットに沿って見ていこう.なお,実際のフォーマットは「申請者情報等」からはじまるが,ここでは省略する.

●「2.【研究計画】」の「(1)研究の位置づけ」

 この項目は科研費申請書では,「研究目的,研究方法など」の「(1)本研究の学術的背景,研究課題の核心をなす学術的「問い」」および「(3)本研究の着想に至った経緯や,関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」に相当する.

 DC/PDとも「研究の位置づけ」として「当該分野の状況や課題等の背景」「本研究計画の着想に至った経緯」を1ページにまとめる(図1).

 まず最初の2〜3行に研究目的のサマリー(要約)を書いておくことをお勧めする.最初にサマリーがあると,審査委員はそれを頭に入れて読み進めていくので理解しやすいからだ.その後で,各項目を順番に書いていくとよい.

 「当該分野の状況や課題等の背景」では,提案する研究テーマに関してのこれまでの研究の流れや,問題点(=学術的「問い」),そしてこの計画がなぜ重要なのかを示す.そして「本研究計画の着想に至った経緯」では,申請者がどのようにこの研究計画を思いついたのかを書いていく.

図1 「 2.【研究計画】」の「(1)研究の位置づけ」の見本

図1 「 2.【研究計画】」の「(1)研究の位置づけ」の見本

平成27年度の特別研究員(DC)の申請書の実例をもとに,令和5年度の申請書フォーマットに移し替えて改変したもの.

●「【研究計画】(続き)」の「(2)研究目的・内容等」

 科研費申請書の「研究目的,研究方法など」の「(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性」「(4)本研究で何をどのように,どこまで明らかにしようとするのか」「(5)本研究の目的を達成するための準備状況」などに相当する.

 「(2)研究目的・内容等」では記載すべき内容が多く,読みやすいように(それが理解しやすさにつながる)工夫して書いていかなければならない.ここにあげた例では全体をいくつかの部分に分けて小見出しを付け,それぞれの項目に何が書かれているのかがわかるように意図した(図2).

 「研究目的」では,一番重要な「研究目的」を太字にしてアピールした.

 「研究方法」と「研究内容」の違いを書き分けるのは難しい.ここでは両方を1つの項目にして,どのような戦略で研究を進めていくのか,その一般的なことを書いていった.そして具体的な研究の進め方を次の「どのような計画で,何を,どこまで明らかにしようとするのか」にまとめた.

 「先行研究等との比較」では,この研究テーマの研究がなぜうまくいっていないのかを説明した.

 「本研究の完成時に予想されるインパクト」では,なぜこの研究が重要なのか,何が新しい点なのかをアピールした.

 「将来の見通し等」では,この研究を行うことで,どのような応用展開が期待されるのかを書いた.

(1ページ目)

図2 「 2.【研究計画】」の「(2)研究目的・内容等」の見本 1ページ目

(2ページ目)

図2 「 2.【研究計画】」の「(2)研究目的・内容等」の見本 2ページ目

図2 「 2.【研究計画】」の「(2)研究目的・内容等」の見本

平成27年度の特別研究員(DC)の申請書の実例をもとに,令和5年度の申請書フォーマットに移し替えて改変したもの.

●「(3)受入研究室の選定理由」(PDのフォーマットのみ)

 受入先の研究室をなぜ選定したのか,その理由をきちんと書いておく必要がある.その研究室でないと研究が進まない理由,そこに行くことで研究が画期的に進展する可能性が大きいことなど,しっかりと説明すること.これまで同じ研究機関内での別の研究室への移動でも可能だったのが,「大学院博士課程在学当時(修士課程として取り扱われる大学院博士課程前期は含まない)の所属大学等研究機関以外の研究機関を選定すること」と,原則必ず別の研究機関に移動しなければならなくなった.また,「実質的な研究機関移動」と認められるかどうかは採択の重要な判断基準になるので公募要領をよく読んで注意する.

●「人権の保護及び法令等の遵守への対応」

 科研費申請書の「人権の保護及び法令等の遵守への対応」に相当する.

 個人情報に関する研究,遺伝子組換え実験,動物実験など,研究機関で倫理委員会やその他の委員会の承認があらかじめ必要なものは,きちんと対応しておけば問題はない(図3).

図3 「人権の保護及び法令等の遵守への対応」の見本

図3 「人権の保護及び法令等の遵守への対応」の見本

平成27年度の特別研究員(DC)の申請書の実例を令和5年度のフォーマットに移し替えたもの.

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児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

科研費に関する書籍・ウェビナーや制度の変更点など,科研費申請に役立つ情報を発信しております.
研究生活の役に立つ書籍なども少しご紹介しています.