第4回 採用者の声「C村くんの三度の学振特別研究員への挑戦」(2024.02.02更新)

 不採択に不採択を重ねた2年間という日々は無駄ではなかった.そう思える日がくるとは,あのときの私には想像がつかなかった.

 初めて申請したのは2年前.忘れもしない沖縄旅行と並行しての申請書作成.右も左もわからないまま,思ったことをただ書き連ね,結果,予想通り不採択.沖縄の広い空と青い海が思い出された.まあ仕方ない,来年こそは!

 時間さえかければと,リベンジを誓った翌年.過去の採択者にお願いして「いい(採択された)申請書」を勉強し,さらに文章も校正に校正を重ね,もうこれ以上のものは書けないと満を持して申請.結果,不採択.しかも判定Cのおまけ付き.情けないやら悔しいやらいろいろな気持ちが混ざってしばらく放浪の旅に出た(沖縄,アメリカ).

 正直なところ,3度目となる今年はもう申請しないでおこうと思っていた.前年度以上の申請書は書けないと思ったし,何より傷心,いまだ消えやらぬ状態.業績もほとんど更新されていない.申請書を書かない “言い訳” はいくらでも思いついた.加えてこの年は,共同研究先でまったく新しい研究をはじめなければならないという状況で,異動の準備や手続き,新しい実験手法を習ったりしている間に時は過ぎ,気がつけば学内締め切りまで残り10日となっていた.もう無理.そんなときに聞こえてきたのは,某漫画の名ゼリフ「あきらめたら,そこで試合終了ですよ」の声.しかし現実問題,残り時間はわずか10日.本当に間に合うのだろうか? とにかく残されたすべての時間を申請書の作成に費やすことにした.

 限られた時間で申請書の “ツボ” を的確に押さえるためにはじめたこととして,公募要領の読み込みと,どのような目的でどのような人材を求めているのか,採択される申請書とはどのようなものか,そのイメージを膨らませる作業にかなりの時間を費やした.結論,自分の研究がいかに面白い研究であるかを素直に審査委員に伝えること.とにかくそのことに専念する.そう考えると申請書の項目が非常に単純に思えてきた.いや,そうやって単純に考えなければ期間内に書き上げるのは無理だっただろう.各項目に沿って素直に記入する.とにかくわかりやすく.同じ文章でも文の並びを変えるだけでずいぶんと印象が違ってくる.文章で理解できないと思われるところは図で補う.とにかくわかりやすく.図のレイアウトを変えるだけでもずいぶんと見栄えが違ってくる.後でファイルの更新記録を見返してみると,少なくとも3回は大きく書き直しているようだった.そうして仕上がったのが期限前日.時間的に難しいときは教授のチェックなしで申請する許可だけははじめにもらっていた.申請書を書き上げるとそのままプリントアウトし,事務に提出した.期限ギリギリ.この年は沖縄には行かなかった.

 採択の結果は例年よりも早く公表された.ふと,学振が取れなければ研究をやめた方がいいかもしれない.そんな考えが脳裏をよぎった.今後も研究を続けていくなら,研究費の獲得は研究者にとって必要不可欠な能力だからだ.そう考えると,ネットで審査結果を見るために,電子申請システムにIDを打ち込む手が震えた.そこまでの覚悟をもって,後悔のないよう最後の一文まで書けただろうか.……ページが開く.そこには『内定』の文字が.頭の中が真っ白になった.獲った.獲れたんだ!! 驚きと安堵が交錯してなんとも不思議な気持ちだった.教授に報告すると本当に心から喜んでくれた.もしかするとそれが一番嬉しかったかもしれない.

 今,学振特別研究員として日々,研究に打ち込んでいる.それまでの生活と大きく違うところはないが,自分は学振特別研究員なのだという自負と採択課題に沿って主体的に研究しなければならないという覚悟をもって研究できるのは非常にありがたい経験だと考えている.もしこれから学振に応募される方がいるのならば,ぜひ最後の最後まで後悔のないよう手直ししてほしい.なぜならば,「あきらめたら,そこで試合終了」なのだから.

目指せ、学振特別研究員!:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

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