第3回 申請書を書く ポイント②(2024.02.02更新)

「研究遂行力の自己分析」

(1)研究に関する自身の強み

 科研費申請書の「応募者の研究遂行能力」に相当する.

 科研費と同じように,この部分は単に業績リストを書くためにあるのではなく,申請者の「研究遂行能力」を示すためのものだ.これまでの論文発表や学会発表の内容が,今回の研究計画にどのように活かされているのかをしっかりと示そう.また論文発表などの研究業績は特別研究員採択のために必須といわれているが,大学院生の場合には研究業績がほとんどない場合も多い.私の研究室の例では,大学院生の場合は筆頭著者の英文論文がなくても採択されているが,業績はあるに越したことはない.この欄では,論文(第二著者以下のものでもよい),総説,学会発表など,小さなものでもよいので記入しておこう(図4).その他には,大学などで表彰を受けたことや民間財団の研究助成獲得の実績などを書いて「研究遂行能力」をアピールしよう.

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図4 「研究遂行力の自己分析」の見本

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図4 「研究遂行力の自己分析」の見本

図4 「研究遂行力の自己分析」の見本

本項目は科研費と同じく,単に「研究業績」を書くのではなく「研究遂行能力」を示すためのものに変更された.そのため,見本は平成27年度の特別研究員(DC)の実例をもとにして,令和5年度の申請書に合わせて修正したものである.令和5年度の申請書では,DCもPDもおおよそ2ページにまとめることになっている.

(2)今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素

 ここには申請書の説明文(「申請書を作成する際には消去してください」と書かれているところ)にあげられている例から,いくつか当てはまるものを書いていけばよい(図4).例としてあげられているのは,研究における主体性,発想力,問題解決力,知識の幅・深さ,技量,コミュニケーション力,プレゼンテーション力などである.これらについて「具体的に記入」「観点を項目立てするなど,適宜工夫して記入」していけばよい.

「具体的に記入」するには,自分の欠点や足りないものを正直に隠さずに書くことだ.若手研究者なのだから,欠点や足りないものがあって当然.むしろそれらを自覚していると評価されるかもしれない.恥ずかしがらず堂々と書いていこう.

「目指す研究者像等」

 ここには「目指す研究者像に向けて身に付けるべき資質も含め記入」とあり,正直,書きにくい部分だ.注意すべきことは,誰もが書くような抽象的な研究者像を書かないことだ.「誰もが書くような抽象的な」とは,例えば「研究を主体性をもって行い,発想力に優れた」「実験結果を的確に解釈でき,問題解決力に優れた」「幅広い知識と深さをもち,技量に優れた」研究者像などである.このような内容では読んだ審査委員の印象に残らない.

 抽象的な内容にならないためには,具体的な特定の研究者を想定して書くとよい.それは身近な研究指導者でもいいし,(たとえ会ったことがなくても)世界的に有名な研究者でもいい.もちろん過去の偉大な研究者でもいい.なぜその研究者が目標となるべき研究者像なのか,それを自分の言葉で書いていけばいい.「そんな大きなことを書いても」と悩む必要はない.審査委員によっては「あまりに大きな目標だが,若手だから」「やる気に溢れている」と大目にみてくれるだろう(図5).

図5 「目指す研究者像等」の見本

図5 「目指す研究者像等」の見本

平成27年度の特別研究員(DC)の申請書の実例.様式は令和5年度応募のもの.この項目は以前の申請書では「自己評価」という名前だった.

「申請者に関する評価書」(指導教官が作成する)

 ここには評価書作成者からみた申請者の「(1)研究者としての強み」と「(2)今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」について記載する.これらの項目は「4.【研究遂行力の自己分析】」の記載項目と同じである.つまり申請者自身と評価書作成者(おそらく指導教官だろう)が,主観的客観的に別々にこれらの項目について書くということだ.

 申請者を悪く書く指導教官はいない.あるいは申請者の立場からは,自分を悪く書くような指導教官には評価書を頼まない.評価書の内容がいくらよくても,研究内容があまりよくないものは採択されないだろうが,やはりよい評価書があるに越したことはない.評価書を書く者の腕のみせどころである.

 記載内容に求められているのは,申請者の研究における主体性,研究の進捗状況,発想力,問題解決能力,専門知識・技量,コミュニケーション能力,将来性,研究の独創性または特色などである.評価書作成者には申請者の未来を予見する能力が求められているようだ.

 多くの評価書は当たり障りのない,申請者が誰であってもそのまま使えるような内容になりがちだ.例えば,以下のように.

  • 毎日コツコツ実験を積み重ねる努力家で,忍耐強く実験を行い,優れた研究成果をあげた
  • 自分の研究分野だけでなく,他の関連分野の知識も豊富で,よく勉強している
  • 着想力や想像力が豊かで,研究チームとのコミュニケーションも良好である
  • 学業成績優秀で,将来性豊かである

 このように書かれた評価書では,申請者の人物像は審査委員にはあまり印象に残らない.では,どのような評価書が印象に残るだろうか? 私はできるだけその申請者にまつわる具体的なエピソードを入れて書くようにしている.研究室(あるいは日常生活)でのできごとについて,その人物がどのように対応したのか,どのような行動をしたのか,などを書く.他の誰でもない,その申請者ならではのエピソードから,申請者の研究姿勢や能力などが浮かび上がるようにする.もちろんこのような書き方は難しいだろうが,当たり障りのない評価書よりも,はるかに印象に残ると思う.例えば,以下のように.

 現在行っている研究を進めるために,どうしても他施設に人を派遣して,そこで実験を進めなければならなくなりました.数カ月とはいえ,遠方への移動は大変です.このような頼みにくいことに対して○○くんは「先生,ぼく行きます」と二つ返事で引き受けてくれたのです.○○くんのこの決断のおかげで研究は大いに進展しました.このようなエピソードからも○○くんの研究に対する,積極的な取り組みや,決断力,実行力などがうかがえると思います.

 また実際に苦労した研究内容などを,例えば何回くらい実験を繰り返したかとか,論文投稿でのリバイスの回数など,具体的な数字を使って書くのも印象に残る.

  • この論文審査には4回ものリバイスと追加実験があったが,○○くんはすべての休日を返上し,忍耐強くレフリーの要求に答えた.
  • 申請者は根気強く42種類もの変異体を作製し,細胞内情報伝達系の解析を網羅的に行うことで,受容体との選択的共役部位を特定した.

 日本学術振興会特別研究員は研究者として成長していくのに重要なステップである.将来の科研費応募への練習の意味もあるので,応募できる方はぜひトライしてほしい.

 なお,Dr.クラゲさん(本名は泉貴人さん)という方が,YouTubeで「学振必勝講座」を公開している.2020年3月当時,東京大学大学院理学系研究科生物学専攻・国立科学博物館に在籍しておりDC2に採用されていた.また2022年3月まで,PDとして琉球大学に在籍していた(2022年4月現在,福山大学の講師をされている).この動画も参考にしてみるとよいかもしれない.

目指せ、学振特別研究員!:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

科研費に関する書籍・ウェビナーや制度の変更点など,科研費申請に役立つ情報を発信しております.
研究生活の役に立つ書籍なども少しご紹介しています.