小噺その7:初めての科研費(Bくんの場合)

 学生のころ,申請書の様式が科研費と大きく変わらない学術振興会特別研究員に応募して書面審査の段階で全敗(2戦2敗).そんな自分が科研費申請では幸いにもこれまで3戦全勝.なぜ戦績が大きく好転したかを考えてみると2つの心当たりがある.

 1つは,申請書を作成するためのノウハウを得たことだ.今,特別研究員に応募した際の申請書を読み返してみると,何から何まで自己満足に陥った内容であり不採用になって当然だと思う.では,まともに申請書を書けなかった自分がどのようにしてコツを得たのだろうか? 自分はポスドクとして職に就くと6年間は科研費申請の資格がなかったが,この間に研究費獲得において百戦錬磨の先生の申請書・報告書作成にかかわる機会が多くあり,これらを参考にして自分なりに良質な申請書を作成するための方法を整理することができた.当初は下働きで迷惑とすら感じていたが,今となってはたいへん貴重な経験ができたと思う.

 もう1つは,研究費申請に対する心構えの変化だろう.学生のころに周囲の先生方の悪戦苦闘を目の当たりにしたことや科研費の採択率が低いこともあり,“科研費は獲得できればラッキー”とお気楽に考えていた.今思い返せば,不採択になった場合の言い訳であり,典型的な負け犬根性でもあり恥ずかしい….この甘えを一蹴したのが本書にたびたび出てくるK先生との何気ない会話のなかにあった「科研費獲得は研究者としてのプライド」という一言だった.科研費獲得にかける熱い情熱に心を打たれて“不採択は許されない”と思うようになり,闘争本能に火がついたことは今でも鮮明に覚えている.

 この2つの出来事を経て初めての科研費申請に挑めたことは幸運であり,そうでなければ恐らく今でも科研費獲得に苦慮していただろう.最後にK先生へ,「叱咤激励ありがとうございました」.

科研費小噺 〜十人十色の体験記〜:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

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