赤ふん坊やの「拝啓 首長さんに会ってきました☆」 〜地域志向アプローチのヒントを探すぶらり旅〜

《奈良県 川上村》
栗山忠昭村長

《地域の概要》奈良県・川上村
写真は神々しい紀の川・吉野川の源流地の様子
《地域の概要》奈良県・川上村
人 口:
1,300 人(高齢化率56%)
面 積:
269 km2(人口密度4.8 人/km2
地域の特性:
奈良県の南東部,吉野川(紀の川)の最源流に位置する村.面積の97%が山林で,吉野林業発祥の地.構想50年を経て完成した大滝ダムには,平成26年の全国豊かな海づくり大会にて天皇皇后両陛下(当時)が行幸啓された.
奈良県川上村の栗山忠昭村長は,もともとあった村民の支え合いの暮らしを発展・活用して,行政や専門職が村民の暮らしのなかに出向き,村ならではの暮らしとヘルスケアシステムの構築に取り組んでいる村長さんです! 互いに「置いてけぼりにさせない村」をめざしているんだって! ! そんな村長さんの思いはどこから出てきているのか? お話を聞いてきました!

村民にも移住者にも“居心地”のよい村へ

赤ふん坊や栗山村長,こんにちは! 川上村って,紀伊山地の山々に囲まれた,静閑な川沿いの村だね! それに,大滝ダムに象徴されるように,紀の川・吉野川の源流を守っている村なんだね☆ 村長はどうして村長になろうと……はっ! ! 村長は実は,この世の水という水を司るという水の精霊・クリヤマンなのでは!?

栗山ふふ……よく気づいたな赤ふん坊やよ! そうとも,我こそは……って,何させますのん! ?(゚Д゚) 私は昭和44年に村役場に入庁し,8期という長きに亘り村長を務めた前村長のもとで勤務していました.その間,大滝ダムの話が進み,建設され,いくつかの集落がダムに沈み,当初ダムには複雑な思いを抱いていました.平成18年からは助役として水源地の村と向き合って来ましたが,水源地の村づくりにはまだまだ課題が残っている,名実ともに確かな村づくりがしたいと思い,前村長の退任に際して立候補を決めたというわけです.

坊やへ~,わざわざ村長にならなくても,水の精霊だったら水源地の村づくりなんて,ちょちょいのちょいじゃないの?

栗山だから精霊じゃないって……(汗)

坊やじゃあ,村長はこの村をどんな村にしたいと思ってるの?

栗山川上村は村制施行130周年を迎え,全国で最も古い村の1つです.水源地の村として,「源流に住むという誇りをもって,誰もが三度の飯を笑顔で食える村」をめざしています.本村の行政の仕事のかなり重要な部分に過疎対策があると考えていますが,そのためには,仕事だけがあってもダメで,もともとの村民にも外から来てくれる若者の移住者にも“居心地”のよい村でないといけません.役場職員が率先して地域に出て,人との出会いを創出する.そんな思いを込めて,「都市にはない豊かな暮らしの実現」という村の総合計画のもと,さまざまな取り組みを進めています.

坊やなるほど,“居心地”ねえ……精霊のチカラで,ジェットバスとかつくればいいんじゃない!?

栗山精霊を何だと思ってんの……(汗)

“何となくの交流”から“確かな予防”へ

坊や川上村は,医療や健康に関して,どんなことに取り組んでるの?

栗山川上村では,「健康で元気な暮らしとコミュニケーションづくり」をめざしています.本村は立地に恵まれなかったからか,昔からの“住民の支え合いの生活”そのものが,健康・予防に効果あるものであったと考えています.実際に健康寿命ももともと優れているのですが,これからは“何となくの交流”ではなく,村民のみならず専門職,役場も合わさって,“確かな予防”にしていく必要があると考え,取り組んでいるところです.まず,役場職員が集落に出向いて行政と村民をつなぐ「おてったいさん制度」.村内26大字に2名ずつ「おてったいさん(お手伝いさん)」として職員を配置し,集落のお祭り,清掃作業等に参加して行政と住民のパイプ役を担ってもらっています.村民に寄り添い村民を守る“人との出会い”を創出し,「顔の見える行政」の取り組みをしています.そして,小さな拠点事業を手がける一般社団法人「かわかみらいふ」により,移動スーパー事業や宅配事業,村内唯一のガソリンスタンド事業等の生活支援を行い村民の日々の暮らしを支えています.また,予防の取り組みの一環として,専門職・コミュニティナースが移動スーパーに同乗し,日々の暮らしの身近なところで声かけや見守りを実施しています.最近,村民さんの健康に対しての意識が向上しており,コミュニティナースが健康教室等の活動にも取り組んでいます.地域のチカラを引き出しながら,医療,介護,生活支援・介護予防がまとめて構築できていると感じています.

坊やさすが精霊村長,地域のチカラも水のチカラも引き出し放題ですね!!

栗山うんうん,一回精霊から離れよっか……(涙)

個別の気づきを村全体に共有する仕組み

坊やでは,川上村はこれからどんな課題に取り組んでいきますか?

栗山そうですね,先ほど述べた種々の取り組みを実施している役場や法人関係者,専門職はもちろんのこと,他にも村内には診療所や社会福祉協議会など,日々の業務のなかで地域をつないでくださっている専門職がたくさんいらっしゃいます.その個別の気づきを村全体に共有する仕組みを発展させることで,学びが創出されます.それに,村内のみならず,南奈良総合医療センターを核とした連携モデルにも期待を寄せています.地域や組織,分野の壁は低い方ですが,より低い壁,壁の完全撤去をめざして,情報がスムーズに流れる仕組みを確立させたいですね.

坊やなるほど~,縦割りの壁を水で押し流して,情報と水をスムーズに流すと……さすが(以下略)

栗山水の話,してないよ~(--#)

総合診療医に住民や暮らしの目線での医療を期待

取材の記念に,水の精霊,もとい,栗山村長と.
取材の記念に,水の精霊,もとい,栗山村長と.

坊やでは,村長が総合診療医にしてほしい,こうあってほしいと思うことを教えてください!!

栗山そうですね,山間僻地には,何年も勤務してもらえる先生も,数年だけ勤務される先生もいらっしゃいますが,いずれにしても,山間僻地の住民や暮らしの目線での医療を期待したいです.目の前の人は,○○という病気をもった患者である前に,□□に住み△△して過ごしている一村民です.この人に一番いい医療や,生活支援体制はどのようなものなのか,思いを巡らせられる医療者として,総合診療医に大いに期待しています.医療・介護で,離れた家族も安心できるようにしてほしいですね.

水の精が棲むという!?大滝ダムにもお邪魔しました! すごいスケール~☆
水の精が棲むという!?大滝ダムにもお邪魔しました! すごいスケール~☆

坊やでは最後に,全国の読者の皆さんへ,メッセージをお願いします!

栗山とにかく川上村で泊まって過ごして,村民一人ひとりと出会ってほしいと思います.人との出会いが,双方に健康を届けているということを体感していただいて,地域への思いを深めていただければと.何なら学会を川上村で開いてもらってもいいですよ! 学会だけに,ガッカリ・・・・させませんから! !

坊やうむ,今のダジャレ,水に流してしんぜよう~……

栗山そ,そっちが水の精霊に(^◇^;)

坊や栗山村長,今日はお忙しいなかありがとうございました! 次回は,長崎県・平戸市の黒田成彦市長にお話を聞いてきます! お楽しみに~☆☆☆

専門職として地域の生活の現場に出向き,地域に身近で安心の医療を提供.
赤ふんウォッチ
コミュニティナースが地域に出向く様子

実際に,川上村のコミュニティナースが機能している現場にお邪魔してきました☆ 移動スーパーに同行し地域の見守り活動をされていました! 買いものに来られた村民さんの健康相談を受けアドバイスしたり,体調の悪い村民さん(ご近所さん)情報を仕入れては個別訪問したりと,地域へ出向き村民さんとの関係づくりをしているんだって.地区の村民さんからも頼られていて,村民の輪に溶け込んでいる様子が印象的だったよ.コミュニティナースさん曰く,「地域の皆さんと人間関係を築くことで,人と人とのつながりや支え合う心,充実した日々を送るための知恵など,生きていくうえで大事なことを感じさせていただくとってもよい機会となっているんです」とのこと.一方通行の取り組みじゃないんだね! お互いがWIN-WINの関係で結ばれているように感じました☆(一方の思いと他方の思いが,1本の赤いふんどしで結ばれているように感じました☆)

コラム 赤ふん坊やマネージャーの今回の地域志向アプローチのタネ 地域に出向き地域で活動する医療者

今回紹介した川上村では,役場職員が地域に出て活動する「おてったいさん制度」がありましたが,役場職員だけではなく,医療者も地域で活動しています.その代表格が,コミュニティナースと呼ばれる看護師です.コミュニティナースとは,病院や福祉施設,訪問看護に従事する看護師と異なり,地域のなかで住民とパートナーシップを形成しながら,その専門性や知識を活かして活動する医療人材のことです1).島根県雲南市の矢田明子さんが提唱し育成,全国にその輪が広がっています.活動領域は,「住民のそば」.制度にとらわれずに自由な活動ができるのだそうです.このように,医療者が地域で活動することには,どんな意味や効果があるのでしょうか.

まず私の個人的な経験をご紹介しますと,私は福井県高浜町で,小病院の外来診療,無床診療所の外来診療,無医地区への出張診療,訪問診療といった診療に携わってまいりました.また,近年では,臨床現場ではなく,地域に出向いて地域社会活動に諸々取り組んでおります2).いずれの場面でも患者さんや住民さんと接しますが,こちらが同じように接しているつもりでも,相手からかけられる言葉が違ってくると感じています.つまり,Biologicalな切り口でいうと,前者ほど内容は重いが数が少なく,後者ほど内容は軽いが数が多く,といった風です.これはおそらく,以前にもご紹介しました,Accessibility,ココロの距離の問題なのだと推察しています(Gノート2018年8月号掲載の第3回を参照).住民は理想的な医療としてココロの距離の近しい医療と生活の安心を望んでいる3)部分があるようですので,医療者が臨床現場から地域に出ると医療者と住民とのココロの距離が近くなり,生活の安心に貢献できているのでしょう.このことは私一人の経験ではなく,ある程度一般的に感じられている効果のようです4)

総合診療医が地域に出向いてできることも多くあるように感じています.といっても,地域に出て「何かをしなければならない」とは限りません.地域の住民の集まるところに参加するだけでも,前述の通り地域に安心を届けられる可能性があります.忙しい日々をお過ごしのことと存じますが,地域イベントへの参加などから,地域志向アプローチを開始してみませんか?

文 献
  1. コミュニティナースPJ(2019年11月閲覧)
  2. 健康のまちづくりたかはまモデル(2019年11月閲覧)
  3. Ikai T, et al:What sort of medical care is ideal? Differences in thoughts on medical care among residents of urban and rural/remote Japanese communities. Health Soc Care Community, 25:1552-1562, 2017
  4. 座談会 地域の住民力で地域の医療を守る.地域医療,57:6-19, 2019
栗山忠昭(Tadaaki Kuriyama)
栗山忠昭村長

奈良県川上村・村長
昭和26年1月5日生まれ 奈良県川上村生まれ
県立吉野林業高等学校を卒業し,川上村役場に奉職.
昭和63年4月 村営「ホテル杉の湯」支配人.
平成5年4月 産業振興課長,平成14年9月 川上村収入役,平成18年9月 川上村副村長.平成24年7月 村長に初選出.現在2期目.

井階友貴(Tomoki Ikai)

福井大学医学部地域プライマリケア講座 教授(高浜町国民健康保険和田診療所/JCHO若狭高浜病院) 福井県高浜町マスコットキャラクター「赤ふん坊や」健康部門マネージャー.着ぐ○み片手に地域主体の健康まちづくりに奮闘する,マスコミも認める(!?)“まちづくり系医師”.