劇的に診断力が上がる!
診断推論×ロジックツリー
第9回
疼痛編 ❶
疼痛診療では
解剖学的構造をイメージせよ!
2023年2月24日 公開
はじめに
今回からは疼痛編です.頭痛や胸痛,腹痛などの痛みを主訴として来院される患者さんは多いです.問診や身体診察を踏まえてどのようにロジックツリーを展開すればうまく診断をすすめることができるのでしょうか.今回は疼痛診療に共通するアプローチの方法を学んでいきましょう.
ERで疼痛の患者さんを診ることになった
(救急外来にて)
専攻医:今日は私たちがER当番ね.研修医君,ファーストタッチは任せたわよ…って,すでに3番ベッドの膿腎症で敗血症になっている患者さんの血圧が下がってきているじゃない!ちゃんと輸液してノルアドの流量は調整してるの?泌尿器科の先生のステント挿入を待っている間にバイタルを崩さないようにきっちり管理してよね.
研修医:ひー,すみません!僕,昔から算数とか数学とかが大の苦手で,こういう計算が全然うまくできないんですよ.
専攻医:数学が苦手でよく医学部に受かったわね….最近はγ計算のアプリとかもあるから利用してみたらどうかしら?ほら,もう次の患者さんが来てるわよ.
Aさん
20代男性.2日前からの腹痛で救急搬送された.来院時38℃の発熱と腹部全体の痛みがありストレッチャーに横たわっており動けない.既往歴は特記なし.
Bさん
40代女性.本日起床後より後頭部の痛みがありERを受診.もともと頭痛もちではなくこのような痛みは今回が初めてとのこと.既往歴は特記なし.
研修医:まずは見るからに状態の悪そうなAさんをアセトアミノフェン点滴で鎮痛しながらX線撮影に行ってもらって,と…,ん?側臥位の腹部単純X線でニボー(図1→)があるからイレウスっぽいなあ,早く消化器科にイレウス管挿入を依頼しなきゃ.Bさんはくも膜下出血の除外のために頭部CTをとって問題がなければ筋緊張性頭痛としてNSAIDsを処方して明日神経内科を受診してもらおうっと.
専攻医:…あいかわらずツッコミどころが満載ね,研修医君.まずAさんだけど,手術歴がない若年の患者さんがいきなりイレウスを起こすとはあまり考えにくいわ.もちろん内ヘルニアがあったり遺伝的な要因で若年性の大腸癌が発生してイレウスになる人などもいるけれど頻度的には低いはずよ.それに,もしイレウスだとしてもストレッチャーから動けないというという病歴からは,単純に痛みが強いから動けないだけでなく,腹膜刺激症状があって本人が無意識に体動を避けている可能性も考えなくてはいけないわ.その場合は絞扼性イレウスも疑うわね.
研修医:ええっ,そうなんですか!?ああ,でも確かに同じ強い痛みでも,腹膜刺激症状がない尿路結石や大動脈解離の患者さんは,よくストレッチャーの上で痛みで転げ回っていますもんね.
専攻医:診察してみたところtapping painや反跳痛が腹部全体にあるし腸管蠕動音も低下しているみたいね.発熱もあるみたいだし,やはり腹膜炎を起こしていそうね.
あとは絞扼性イレウスに決め打ちせずに,ほかの原因で起こった汎発性腹膜炎から二次性に麻痺性イレウスを起こしている可能性も考えなきゃいけないわ.いずれにせよ開腹手術の適応になるような緊急性の高い疾患の可能性があるから,もっとしっかり病歴を聞いたほうがいいわよ.それとBさんに関しては痛みの正確な場所や性状すら問診していないし,もう問題外ね.
研修医:ガーン!