多細胞生物に広く保存された、発生のリズムを生み分化のパターンを紡ぐNotchシグナル。状況に応じて多彩な役割を果たすメカニズムの解明、がんや代謝性疾患の臨床へとその舞台を拡げる現状をお見せします。
目次
特集
発見から100余年 Notchシグナルの新世紀
発生・再生から、がん・代謝性疾患まで拡がる舞台
企画/山本慎也,森本 充
概論─Notchシグナルの世界【山本慎也,森本 充】
ショウジョウバエの翅から慎ましくはじまったNotchシグナル研究は,この100年間でさまざまな学域の研究者を魅了する一大分野へと成長した.一見すると非常にシンプルな隣接細胞間のコミュニケーション手段であるNotchシグナルを多様な角度から深く研究することで,発生・再生といった生命現象や先天疾患・代謝性疾患・がんといった病気のメカニズムの理解が飛躍的に進んできている.本稿では現在のNotch像が築きあげられてきた歴史的経緯をたどるとともにNotchシグナル研究の今後を考察する.
暁のNotchシグナル─無脊椎モデル動物の役割の過去と未来【山川智子,松本顕治郎,松野健治】
多くの細胞シグナルの研究においては,遺伝学のモデル動物であるショウジョウバエや線虫を用いた研究が重要な役割を担っている.Notchシグナルの研究もその例外ではない.例えば,Notch 遺伝子の同定,Notchシグナルと側方抑制の関係の理解,Notchシグナルを構成する主要遺伝子の発見は,ショウジョウバエや線虫を用いてなされたことである.そこで,本章では,Notchシグナル伝達機構の解明においてショウジョウバエや線虫が果たした役割の一部について解説する.
形態形成を司るNotchリズム【下條博美,影山龍一郎】
哺乳動物のさまざまな発生過程においてNotchシグナルは,増殖や分化といった細胞の運命決定に重要な役割を果たす.またさまざまな哺乳動物の細胞において,Notchシグナルを構成する分子群の発現は約2時間という短周期でダイナミックに変動しリズムを刻んでいることが明らかとなってきた.本稿では体節形成・神経発生におけるNotchシグナルのダイナミクスの役割に関する研究を振り返り,さまざまな組織構築過程を制御する遺伝子発現のダイナミクスやシグナル伝達の速度の重要性について述べる.
Notchシグナルで細胞間を非対称化するしくみの再構成【松田充弘,戎家美紀】
生命現象をシステムとして理解するためには,どれだけの要素がどのように組合わさることでその現象が実現されているかを知る必要がある.ここではそのための手段として,「生命現象をつくってみることで理解する」,再構成アプローチをとり上げる.具体的には,多細胞生物にみられる最も基本的な現象の1 つである「Notchシグナルによる非対称性を生み出すしくみ」をドライとウェットの両面から再構成した仕事を紹介する.ドライの再構成とはコンピューターを用いて,数理モデルをたてることを指し,ウェットの再構成とは細胞や遺伝子部品を用いてその現象を構築することである.
臓器の多彩な細胞パターン形成を指揮するNotch【野口雅史,森本 充】
Notchシグナルによる細胞分布のパターン制御は“側方抑制”の原理(概論,山川・松本・松野の稿,松田・戎家の稿参照)によって大半が説明されてきた.実際に組織が生理機能を発揮するためには基本原理を応用し,複雑なパターンを構築,維持する必要がある.呼吸器は臓器の発生・再生研究のモデル器官として最近注目を浴びており,特にNotchシグナルの重要性が急速に解明されている.呼吸器の上皮組織には生理機能に必要な多種類の細胞が存在し,世代を超えて保存された分布パターンを示す.本稿では呼吸器発生・再生中のNotchシグナルが関与する細胞分布パターンの多段階的な制御機構を解説する.
Notchシグナルと循環器・代謝性疾患【中野敏昭,相川眞範】
Notchシグナル経路は,発生過程でさまざまな細胞種の分化を制御する.さらに,Notchは成体における疾患の進行過程にも関与する.われわれは,NotchのリガンドであるDelta-likeligand 4(Dll4)がマクロファージを活性化させ,Dll4の抑制は,慢性動脈硬化や血管の石灰化,静脈グラフト病変の形成,インスリン抵抗性,脂肪肝を抑制することを報告した.これらの結果は,Dll4を介したNotchシグナルの活性化が,世界的に死因の上位を占める循環器・代謝疾患に共通する病態に関与することを示唆している.Notchシグナル経路は,これらの疾患やさまざまな炎症疾患の新たな治療のターゲットとなると考えられる.
Notch経路は正常造血の発生,維持になくてはならないものであり,その異常は造血器悪性腫瘍,免疫疾患の発症につながる.この経路の詳細な分子機構がわかれば,白血病,悪性リンパ腫,さらには臓器移植,自己免疫疾患の新しい治療法につながるかもしれない.しかし,Notch経路はフクザツである.その理解には分子,細胞,組織,そして個体レベルでの総合的な観察力,思考力が必要とされる.ここでは血液内科医の立場から,造血発生,分化,造血器悪性腫瘍にテーマを絞って最近の知見をまとめる.
Notchシグナル伝達は,T細胞白血病でNotch受容体の活性化型変異が見つかった後,多様なタイプのがんで関与が示唆された.大腸がんではNotchシグナル伝達が転移を促進するが,これはRbpj転写因子によって誘導されるDAB1遺伝子転写のせいで,Dab1タンパク質はAblチロシンキナーゼによりリン酸化され,アダプターとして逆にDab1の自己リン酸化を促進する.こうして活性化されたAblは,GEFタンパク質Trioの特定チロシン残基をリン酸化して活性化してRho-GEFとして作用するので浸潤・転移に伴う運動性の亢進をきたす.Trioのこのリン酸化は大腸がん患者の予後を著しく悪くする,重要なマーカーである.
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腸内常在菌が自己反応性のT細胞を活性化して自己免疫性のぶどう膜炎を引き起こす【宝来玲子】
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- 【本書名】実験医学:発見から100余年 Notchシグナルの新世紀〜発生・再生から、がん・代謝性疾患まで拡がる舞台
- 【出版社名】羊土社
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