70を超えるがん治療のターゲットをカテゴリー別に整理し,研究の経緯やがんとの関わりなど,なぜ標的とされているか詳説.さらに分子標的治療薬についても薬剤ごとに標的から適応・治験の最新データまで一目瞭然!
HER2はERBBファミリーと呼ばれる型のチロシンキナーゼ受容体に属し,ERBB2とも呼ばれる.17番染色体長腕(17q11.2-q12;17q21.1)に存在するHER2/neu遺伝子は1980年代にヒト上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)遺伝子と類似の構造を有するがん遺伝子として同定された1).HER2を過剰発現している乳がん細胞に対して抗HER2モノクローナル抗体で処理すると細胞増殖が抑制されたことから,この受容体ががん治療のターゲットになりうるとみなされるようになった2).
HER2は,分子量185kDaの糖タンパク質であり,他のERBBファミリー同様に細胞外ドメイン,細胞膜貫通ドメイン,細胞内ドメインの3つのドメインからなる.細胞外ドメインへのリガンドの結合はERBB受容体の活性化をもたらすが,HER2に結合するリガンドは今のところ同定されていない.しかし,HER2はリガンドの結合がない状況下でもホモ二量体を形成することで下流シグナルの活性化をもたらす.また,他の ERBBファミリーメンバーとヘテロ二量体を形成することで強いチロシンキナーゼ活性を現すことも知られている3).これらのHER2関連シグナルはMAPキナーゼ経路を介して細胞増殖に関与し,PI3K/AKT経路を介してアポトーシスを含む細胞死にかかわる4)(図).
抗HER2モノクローナル抗体であるTrastuzumabの作用機序は上述のシグナル経路を阻害する以外にHER2の細胞内移行および分解を促進することや,抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)と呼ばれる免疫応答を誘導し,がん細胞死をきたすことが知られている.HER2遺伝子の増幅やHER2タンパク質の過剰発現は乳がん患者における20%前後でみられるが,Trastuzumabの登場はこれらの患者の予後を大きく改善させた5).しかしながら,Trastuzumab治療を受けた患者の大半は1年以内に耐性を示すようになる.HER2の細胞外ドメインが切離されるとTrastuzumabはHER2と結合不可能となり,Trastuzumab耐性となる. この細胞外ドメインの消失したHER2タンパク質は p95として検出されることが知られている.またPTEN(phosphatase and tensin homolog deleted from chromoseome 10)の消失によるPI3Kの活性化,サ イクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害物質であるp27の減少による細胞周期の促進,IGFR(insulin-like growth factor receptor)の活性化,または細胞表面のMUC4によるTrastuzumabとHER2の結合阻害などが耐性機序としてあげられる.一方で近年開発されHER2陽性乳がんでの使用が拡大しているEGFR・HER2の二重チロシンキナーゼ阻害薬であるLapatinibはTrastuzumab治療後の再発乳がん患者においても抗腫瘍効果を呈し,その有効性が注目されている6).さらにLapatinib以外にもTrastuzumabとは異なる細胞外ドメイン結合部位を有するモノクローナル抗体であるPertuzumabなどHER2標的薬剤の研究・開発が進んでいる.
乳がん以外にも胃がん,大腸がん,膀胱がん,子宮がんなどの多種にわたるがん種においてHER2遺伝子の増幅やHER2タンパク質の過剰発現がみられることが報告され,近年注目を集めている.胃がん患者におけるHER2過剰発現の頻度は20~30%であり,予後に関与するとされている7).HER2陽性かつ手術不能進行・再発胃がんに対して行われた第III相無作為化比較臨床試験の結果から,これらの患者において化学療法とTrastuzumabを併用することで化学療法単独治療より全生存期間が延長することが示された8).その他にもHER2陽性胃がんに対する複数の非臨床試験,臨床試験が進んでおり,乳がんのみならずHER2過剰発現のある他のがん種に対してもHER2標的治療の有効性が期待される.
(谷﨑潤子,岡本 勇)
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(2021年8月23日)
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