クローズアップ実験法

2022年4月号 Vol.40 No.6 詳細ページ
生細胞の局在を反映した核可溶性画分の分画法
小川 泰
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生細胞での局在を反映した
核可溶性画分の分画法
小川 泰

何ができるようになった?
核タンパク質を生化学的に解析するにあたり,いくつかの分画方法や市販のキットが開発されてい
るが,完全な核内プロテオームを得る方法はまだない.特に,核内可溶性タンパク質は,分画の際に
失われることが多い.本方法は,より生細胞に近い組成で核可溶性画分を得るものである.

必要な機器・試薬・テクニックは?
主な必要機器は,血球計数盤,卓上の簡易遠心機,ブロックインキュベーター,ソニケーター,蛍
光顕微鏡等である.必要試薬類は,ほとんどのものが購入可能である.

はじめに

原理

核タンパク質の分画は 1960 年代から行われており,

細胞質画分と核画分の分画法は,一般的に,細胞膜

当初は低張液によって細胞を膨張させ,ホモジナイザー

の選択的破壊による細胞質画分の溶出と,核膜の破壊

によって細胞膜を破裂させ,ショ糖密度勾配遠心法に

による核画分の溶出という ,たったの 2 段階のステッ

1)

より核を分離していた .その後 ,界面活性剤を用い

プで行われる(図 1).一見簡単に思えるが,3 つの注

た,より簡略化された方法が広く使われるようになり,

意すべき点がある.1 つ目は,多くの核 - 細胞質間輸送

今ではさまざまな分画キットが販売されている.しか

は温度依存的であり,氷上のような低温で分画操作を

し,これら市販のキットを用いて分画された核画分は,

行うと本来の局在から変化するタンパク質が存在する

一部の可溶性核タンパク質が失われていたり,細胞質

点である 2).そのため ,最初の細胞膜の選択的破壊は

等の他の画分からのコンタミネーションを多く含んで

25 ∼ 37 ℃程度で行うことが望ましい.2 つ目は,細胞

いたりすることがわかった.本稿では,これまでの方

膜を破壊する際,核膜の完全性を維持することである.

法よりも,より生細胞の局在を反映した可溶性核タン

このステップで核膜を損傷すると,核内可溶性タンパ

パク質の分画方法を解説する.

ク質は核外へ流出してしまう.市販の分画キットの多
くは,この部分に問題が多いように思える.3 つ目は,
細胞膜を選択的に破壊し,核膜の完全性が維持されて
いても,比較的低分子量の核タンパク質が漏出する点

Fractionation methods of nuclear soluble fractions reflecting localizations in live cells
Yutaka Ogawa:Cellular Dynamics Laboratory, RIKEN Cluster for Pioneering Research(国立研究開発法人 理化学研究所
開拓研究本部 今本細胞核機能研究室)

実験医学 Vol. 40 No. 6(4 月号)2022

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