クローズアップ実験法

2023年4月号 Vol.41 No.6 詳細ページ
MENTR:DNA配列から非翻訳RNAの発現を予測する機械学習法
小井土 大,寺尾知可史
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MENTR:DNA配列から
非翻訳RNAの発現を予測
する機械学習法
小井土 大,寺尾知可史

何ができるようになった?
300 種以上の細胞・組織における非翻訳 RNA の発現を,DNA 配列のみから予測する機械学習法
MENTR を開発した.疾患感受性多型の

変異導入法から,創薬標的となる非翻訳 RNA を探

索できる.

必要な機器・試薬・テクニックは?
変異導入法には計算機のみ必要とする.数バリアントの試行なら一般的な PC で十分であ
る.GPU を使うと時間短縮できる.簡単なコマンドラインの知識以外の特別なスキルは不要である.

はじめに

械学習する MENTR(メンター:Mutation Effect pre-

ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって,ヒトの

diction on ncRNA transcription)を開発した 1).本稿

複雑な形質に関連する遺伝多型が多数同定された.そ

では,学習済 MENTR を用いて,多型による細胞種特

れらの多くは非翻訳領域に集積し , m RN A や非翻訳

異的な発現量変化を高精度に予測する

RNA などの発現量調節を介して形質に影響すると考え

入法を解説する.

変異導

られている .しかし ,多型による非翻訳 R N A の発現
制御に関する知見は不足しており,多型の生物学的役
割を理解するうえでのボトルネックになっている.特
に ,活性化エンハンサーから転写される非翻訳 R N A

原理
MENTR の

変異導入法では,DNA 配列パ

(eRNA)は,細胞種特異性が高く,低発現で実験的定

ターン(モチーフ)と転写との関係性を学習した学習

量が難しいため,多型との関連はほとんど未解明だっ

済機械学習モデルを用いて,コンピューター上でモチー

た.そこでわれわれは,分子生物学者が経験的に見出

フが破壊(塩基置換)された場合の転写への影響を予

してきた「配列モチーフ」の考え方に立ち戻り,ヒト

測する(図 1)
.まず,MENTR では,任意の DNA 配

の DNA 配列と非翻訳 RNA の発現パターンの関係を機

列パターンから細胞種ごとの RNA(mRNA と非翻訳

MENTR: A machine learning approach for predicting non-coding RNA transcription from genome
sequences
Masaru Koido 1)2)/Chikashi Terao1):Laboratory for Statistical and Translational Genetics, RIKEN Center for Integrative
Medical Sciences 1)/Laboratory of complex trait genomics,Department of Computational Biology and Medical Sciences,
(理化学研究所生命医科学研究センターゲノム解析応用研究
Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo 2)
チーム 1)/ 東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻複雑形質ゲノム解析分野 2))

実験医学 Vol. 41 No. 6(4 月号)2023

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