クローズアップ実験法

2023年7月号 Vol.41 No.11 詳細ページ
質量分析を超えた高感度高精度プロテオミクス:PEA法
浜野文三江,小田吉哉
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質量分析を超えた高感度
高精度プロテオミクス:
PEA法
浜野文三江,小田吉哉

何ができるようになった?
特異性を確保しながら血中濃度の低いサイトカインなどの定量が容易となった.一度に 88 人のサ
ンプルから各 6 μL ずつ使用して,約 3,000 種類のタンパク質を測定することができる.

必要な機器・試薬・テクニックは?
qPCR ベースで検出する場合はマイクロ流体 qPCR 装置〔Signature Q100(Olink Proteomics
社)または Biomark HD(スタンダード・バイオツールズ社)
〕を使用する.NGS ベースの場合は次
世代シークエンサー〔NovaSeq6000(イルミナ社)など〕を使用する.PEA アッセイ試薬一式は
Olink Proteomics 社より入手できる.自らアッセイを行う場合には,Olink Proteomics 社で行わ
れるトレーニングを受ける必要がある.

はじめに

患とのギャップを埋めることができるであろうと思わ

ヒト集団の遺伝学的研究は,治療標的の同定と検証

れているのが,ハイスループットで精度が高い定量プ

を容易にし,薬剤投与結果の予測に役立ち,臨床試験

ロテオミクスである.タンパク質は,細胞内情報伝達

における患者の層別化につながり,ドラッグ・リポジ

からアポトーシスや炎症など,幅広い生物学的プロセ

ショニングに貢献することが期待できる.過去の医薬

スに関与しており,これらは,がん,神経変性疾患 ,

品開発の体系的な分析によって,ヒト遺伝学の裏付け

心血管疾患,感染症などの疾患に影響している.体液

がある薬剤候補品は ,少なくとも 2 倍の確率で成功す

中のタンパク質の発現,分泌,相互作用の変化を調べ

ることが示されている.しかし,ゲノムワイド関連解

ることで,疾患経路を解明し,新規治療標的や診断バ

析(GWAS)は,遺伝子多型と表現型を媒介する明確

イオマーカーを発見することが期待できる.かねてか

な原因遺伝子が不明な場合が少なくなく,機能がよく

ら検査に使われている血液は,健康状態を知るうえで,

わからない,あるいは調節のメカニズムが不明な遺伝

疾患部位から離れていて希釈されているとはいえ,全

子にマップされることも多いことから,創薬手段とし

身を循環して遺伝要因と環境要因の影響を少なくとも

て強力な武器にはなっていない.ヒトゲノムとヒト疾

部分的には反映していると考えられる.そして医療機

High-sensitivity, high-precision proteomics: PEA technology
Fumie Hamano1)2)/Yoshiya Oda1):Department of Lipidomics, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo1)/
(東京大学大学院医学系研究科リピドミ
Life Sciences Core Facility, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo2)
クス社会連携講座 1)/ 東京大学大学院医学系研究科ライフサイエンス研究機器支援室 2))
1802

実験医学 Vol. 41 No. 11(7 月号)2023
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