クローズアップ実験法

2023年8月号 Vol.41 No.13 詳細ページ
フローサイトメーターのスペクトル解析と蛍光補正解析の違い ー原理の理解と比較実験の結果について
野木森拓人，山本拓也
360 フローサイトメーターのスペクトル 解析と蛍光補正解析の違い 原理の理解と比較実験の結果について 野木森拓人,山本拓也 フローサイトメーターのデータには蛍光補正が必要であるが,近年蛍光補正に代わってスペクトル 解析を行うタイプの機器が増えてきている.これらのデータの違いを,同じ機器スペック(同じレー ザー出力,検出器,検出波長設定)で直接比較する手段はこれまでなかったが,最近,両機能を同時 に使用できるフローサイトメーターが開発されたため,本稿ではそれを用いてデータの比較を行った 結果を紹介する. ル解析が同時使用できるフローサイトメーターを用い, はじめに 同一スペック・同一条件で取得されたデータを 2 通り 昨今の免疫研究には欠かせないツールであるフロー の解析法で直接比較した結果を紹介したいと思う. サイトメーターであるが,その登場から約半世紀を経 て大きな変化を迎えている.測定パラメーターの増加 に伴うアドバンテージを享受できる一方で,増加した 原理 蛍光色素間の蛍光補正をしなければいけないというマ 一般的に,フローサイトメトリー(以下 FCM)は主 イナスのイメージは,いまだ多くの研究者の頭を悩ま にレーザー光源,サンプル流路・検出部,蛍光検出器 すところだろう.そこで近年,従来法の蛍光補正とは より構成される.FCM は,測定したい対象のサンプル 異なる原理で計算を行うスペクトル解析対応の機器の を複数の蛍光色素が付加された抗体で標識し,個々の 利用が増加している.ただ重要なこととして,これら シグナル量の相対的な比較から,対応するターゲット は全く異なる解析系ではなく,むしろ基本的な解析の 分子(マーカー)の存在の有無,量の違いを計測する 考え方はほとんど同様であり,いわば兄弟のような関 ことができる.ハイパラメーターフローサイトメトリー 係である.ただ実際に「従来型の蛍光補正によるデー (またはマルチカラーフローサイトメトリー)は,FCM タ」と「スペクトル解析によるデータ」が,同じ結果 のなかでも特に多数のマーカーを同時測定することを を示すのか否かについては,多くの研究者にとって重 可能にする実験系(現在では 20 ∼ 30 種類)を指すが, 要なポイントであろう.本稿ではそのような疑問に答 多くの蛍光ラベルを検出するために F C M の搭載レー えるべく ,近年開発された従来法蛍光補正 / スペクト ザーの種類を増やし(レーザー 4 ∼ 5 波長) ,非常に多 What s the difference between Spectral Unmixing and Compensation analysis? Takuto Nogimori / Takuya Yamamoto:Laboratory of Precision Immunology, Center for Intractable Diseases and ImmunoGenomics, National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition〔国立研究開発法人医薬基盤・健康・ 栄養研究所難病・免疫ゲノム研究センター(CiDIG)プレシジョン免疫プロジェクト〕 実験医学 Vol. 41 No. 13(8 月号)2023 2165
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